キャビーナが挑んだバイクの弱点
バイク最大の欠点とは何か? それは“雨に濡れる”こと。雨の中、傘を差さずに踊る人がいても良いけれど、筆者は濡れたまま走るのは嫌です(キッパリ)。
1994年に登場したキャビーナ50/90は、ジャイロキャノピーに続くルーフスクーターであり、量産市販車として初めて、二輪車にルーフとワイパー付き大型ウインドスクリーンを組み合わせたモデルとして知られている。後年には海外メーカーからも屋根付きコミューターが発売され、今では後付けの社外ルーフも見かけるようになった。その先陣を切ったのがホンダなのだ!
1994年9月に発売されたキャビーナは、50cc/電動式オートスタンドを備えたキャビーナ・スタンドアップ50/そして今回の主役となる90ccモデルの3タイプを用意。ホンダは雨や風、埃、寒さを防ぎながら、二輪車の機動性と四輪車感覚の快適な居住性を両立した「都市型パーソナルコミューター」として送り出した。

1994年に登場したホンダ・キャビーナ90。ルーフとワイパー付き大型スクリーンを備えた、量産市販車初の屋根付きスクーターだ。

1995年には、キャビーナのルーフを取り除き、ロングスクリーンを備えたブロード50/90も登場。車体の基本デザインは近いが、印象は大きく異なる。25万5000円
肉厚シートに36L収納! “VIPルーム級”の快適さ

キャビーナはルーフ&ワイパーのほかに、シートも見どころである。一体成型の肉厚な作りは、まるでソファに座っているかのよう。50cc/90ccモデルともに一人乗り設定で、車名の由来となった「キャビン」が意味する通り、船や飛行機の客室を思わせる快適な居住性を実現している。
先のジャイロキャノピーが商用なら、キャビーナシリーズは通勤などに使うビジネスマンを意識して開発されており、雨の日にスーツ姿のまま颯爽と駆け抜ける姿は、「傘を差さずに踊る人間」に等しい羨望の眼差しが向けられることだろう! シート下には容量36Lの大きなトランクを装備。ヘルメット+αはもちろん、ビジネス用途では薄型のソフトアタッシュ、レジャー用途ではデイパックやテニスラケットなども想定された多目的スペースだった。なお、長尺物とヘルメットの同時収納はできない。
シート高は670mmと低く、ゆったりとしたライディングポジションと良好な足つき性を両立。ワイパーには電動ウォッシャーも備わり、雨天走行時だけでなく、スクリーンに小さな虫や汚れが付いたときにも、ボタンひとつで視界を確保できる。さらに、万一車体を倒した際のダメージを軽減する可倒式ミラーや、メインスタンドを自動的にロックするスタンド・セルフストッパーも装備。単に屋根を載せただけではなく、日常の使い勝手まで徹底して作り込まれているのだ。

スピードメーターと燃料計を備えたシンプルなインパネ。豪華さよりも、ひと目で分かる使いやすさを優先している。

カウルマウントのミラーは上方向へ倒せる可倒式。万が一車体を倒してしまった際のダメージ軽減にも役立つ。

身長179cm、体重65kg、眼鏡が似合うアラフォー(筆者モルツ)が跨ってみた。シート幅があるが、高さが670mmとかなり低いので足つきは問題なし。それよりも天井に頭がぶつかりそうになるのは座高の問題だろう(涙)。背もたれのあるシートは快適そのもの! 筆者のYouTubeチャンネル「20世紀バイク少年・モルツ」でも紹介しています。
屋根付きでも意外とすんなり走れちゃう

あいにく雨の日の試乗は叶わなかったが、キャビーナがいくら屋根付きといえども、まったく濡れないわけじゃない。両サイドからは風向きにもよるがそれなりに雨が侵入するし、停車時は足元も濡れる。ただ、普通のスクーターと比べればはるかにマシで、腕時計や電化製品ならば“防滴仕様”くらいの安心感がある。
さらに言うと、メーカー純正のルーフ付きスクーターということで、屋根と車体との一体感が素晴らしい! 走行中もガタつくことはなく視界もクリア。車幅も意外とスリムだから、慣れれば押し引きなども含めて普通のスクーターと同様に扱える。段差などで気を抜くと天井に頭がぶつかってしまうのはご愛嬌だ(笑)。二輪では珍しいワイパーも、クルマのように自然な動作で気兼ねなく使える。
ルーフを太いステンレス製バーで支える車体の全高は1670mm。頭上に屋根がある安心感は大きいものの、普段のバイクでは意識しない木の枝やトラックのサイドミラーなどには注意しておきたいところだ。

右側スイッチにはワイパーのON/OFFを配置。操作はシンプルで、走行中でも迷いにくい。

左側カバー内にはウォッシャー液の注入口を設置。スイッチを押している間、ノズルから液が噴射される。


真正面から見ると、大型スクリーンの幅と高さがよく分かる。車幅自体は意外とスリムで、慣れれば普通のスクーター感覚で扱える。ルーフ後端にはハイマウントストップランプを装備。細いステンレス製バーでルーフを支える構造も特徴的だ。
110kgでも中高速域は伸びやか! 2スト90ccエンジンの実力

パワーユニットはリード系の縦型エンジンを採用。キャビーナ90に搭載されるのは、排気量89ccの空冷2ストローク単気筒で、最高出力は8.2ps/6750rpm、最大トルクは0.96kgm/4000rpmを発揮する。
車重が原付としては重めの110kg(50は108kg)あるので、出足のモッサリ感は否めないが、2ストロークエンジンなので中高速域は伸びやか。ワイドレシオの自動変速を組み合わせ、低・中速域で粘り強く、扱いやすい走りを狙った設定となっている。
フロントには直進安定性を狙った12インチ、リヤには小回りの良さやトランク容量の確保に有利な10インチを採用。雨や日差しをしのげるルーフのほか、足つき良好なシート、ヘルメット+αが収まるトランク、直進安定性と旋回性を兼ね備えた前後異径ホイールなど、デイリーユースに特化させたキャビーナには、バイクが持つ「道具」としての機能が凝縮されているのだ!
廃車寸前から復活! 一度乗ればやめられない日常のアシ

今回の撮影車は、オーナーのヤマスポーツさんが廃車寸前だった車体を譲り受け、レストアした一台。ほかにもシャリィ、NS50F、GB250などを所有しているが、当初はキャビーナにまったく興味がなかったという。ところが、実際に乗ってみると印象は一変。
「キャビーナはまったく興味がなかったのですが、一度乗ればこの快適さはやめられませんね」
現在では日常のアシとして大活躍中だ。撮影車では、オーナーの好みに合わせてシートをアンコ盛り&形状変更。純正でも肉厚なシートが、さらにフカフカになっているから、長時間乗っていても疲れ知らず!
屋根、ワイパー、大型スクリーン、大容量トランク、低くゆったりしたシート。クルマほど大げさではなく、普通のスクーターよりずっと快適。横は開いているから完全な個室ではないけれど、キャビーナの運転席に収まったときの安心感は、まさに“走る個室”と呼びたくなるものだった。
ホンダ・キャビーナ90主要諸元
型式:HF06
全長×全幅×全高:1845×680×1670mm
ホイールベース:1280mm
シート高:670mm
車両重量:110kg
エンジン形式:空冷2ストローク単気筒
総排気量:89cc
最高出力:8.2ps/6750rpm
最大トルク:0.96kgm/4000rpm
燃料タンク容量:7L
タイヤサイズ(前・後):100/90-12・110/80-10
ブレーキ(前・後):ドラム・ドラム
発売当時価格:29万9000円
※スペックおよび価格は1994年発売時。
※この記事は月刊モトチャンプ2024年5月号を基に加筆修正を行っています
【モトチャンプ編集部】
