速さは見せびらかさない

ECUチューナーが作り上げる理想のスープラ

数あるJDMの人気モデルの中でも、アメリカの“パワー至上主義者”から支持を集めるツートップといえば、JZA80型スープラとR35型GT-R。中でもスープラが搭載する2JZ-GTEはチューニングの歴史が古いぶん、ノウハウの蓄積も深く、アフターパーツだって選り取り見取りである。

そして、それらをどう組み合わせ、どう調律するかという点において存在感を示しているのがECUチューナーだ。フルコンの進化と普及に伴い、内燃機関とコンピューターの両方に精通したECUチューナーの需要は高まる一方である。

カリフォルニアで“CWboosted”という屋号を掲げ、個人事業主のECUチューナーとして活躍しているクリス・ウェルチのもとにも、「○○馬力出したい!」や「とにかく俺のスープラを速くしてくれ!」といったオーダーが後を絶たない。仕事のほとんどは仲間内の口コミがきっかけだが、それはクリス自身のスープラで800psオーバーを実現していることが、大きな裏付けとなっているからだ。

子どもの頃からパズルやエンジニアリングに興味を持ち、高校生の時にJDMブームの直撃を受けたクリス。最初の愛車だったアキュラ・インテグラでクルマ遊びを覚えると同時に、自ら「コンピューターナード(=オタク)」と語るほど、PCを使ったデータ処理や計算にも没頭していった。

「クルマのECUチューニングをするようになったのは、20代になって今のスープラを買ってからなんだ。スープラに惹かれた理由は、機関系がリライアブル(信頼性が高い)だから。やり方次第で800psもイージーなことは歴史が証明していたし、ECUチューニングと向き合っていくにはベストなベースだと思ったんだ」。

所有してから20年は経つというスープラは、クリスにとってなくてはならない愛車であると同時に、さまざまなチューニングを試す実験台でもある。

搭載される2JZ-GTEは、BCのビレットストローカークランクで排気量を3.4Lに拡大し、ダイヤモンドレーシングの強化ピストンで圧縮比を9.5:1に設定。ハイカムにはVVT-i対応のHKS製264度を使用している。

エンジンの組み立てやワイヤリングなどは、クリスと同じように、それぞれが得意分野を持つ個人レベルの職人たちが分業して担当。同じ体制で顧客のクルマを手掛ける上で、クリスのスープラは彼らが定める「ステージ1(800〜1000hp)」の見本でもあり、もちろん1000hpオーバーの要望にも応えている。

エンジンルームもキレイに整えられているが、いわゆるショー映えを狙った華美な仕上げではなく、エアコンもパワステも健在。むしろ、オルタネーターをセコイア用の130Aに増強し、オーディオもアップグレードするなど、速さと格好良さ、そして実用性を高いレベルでバランスさせている。

ボルグワーナーのEFR9180ターボはA/R比も1.455と大きく、上で詰まらせない高回転志向だ。スリーパーデザインのビレットインテークは、気筒ごとに2本のインジェクターを備える12インジェクター仕様で、プライマリーに1050cc、セカンダリーに1650ccのインジェクターを装着。スロットルは電子制御とし、燃料にはE85も使用できるフレックスフューエルを採用している。

外観で唯一個性を表現するホイールは、HREの545鍛造3ピース19インチ。タイヤはフロントにミシュランのパイロットスポーツ4S、リヤにトーヨーのプロクセスR888Rを組み合わせる。

駆動系にはサウスベンドの強化クラッチやTRDのLSDが備わるが、トランスミッションは純正の6速MT(V160)で、ファイナルもUS純正の3.13をキープ。デイリーユースできる能力と、ハイウェイですべてのクルマを置き去りにする瞬発力を両立させた。

ブレーキキャリパーはフロントがストップテックの6ポット、リヤがブレンボの2ポットで、ローターはいずれもブレンボTY3の380φ仕様に強化済みだ。

日本での生産は2002年まで続いたJZA80だが、北米では1998年を最後に販売終了。いわゆる「最後期仕様」にするため、ダッシュパネルを98年モデルに移植し、ステアリングは日本仕様の02年モデルに設定された純正オプションのカーボンステアリングに交換している。

シートはランエボに設定されていた純正レカロを、ブリッドのシートレールを使って装着。丸型のエアコン吹き出し口に形状を合わせたカスタムメイドのゲージクラスターには、BTIのタッチスクリーンをマウント。MoTeC M150から提供されるエンジンの各種情報を一覧表示する。

燃料にE85を使用し、ブースト圧を2.1キロまで掛けた際には、ダイノジェットによる実測で最高出力862ps、最大トルク101kgmを実現した。それだけのハイパワーを実現しながら、見た目はいかにも純正然としているクリスのスープラ。ストリートで横に並んだ挑戦者を欺くステルスっぷりこそ、実力を必要以上にひけらかさないECUチューナーの矜持といったところだ。

Photo:Akio HIRANO Text:Hideo KOBAYASHI

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