638psのビッグターボで武装!
神の教えを伝えるストリートモンスター
フィリピンに生まれ、5歳からアメリカ・カリフォルニアで育ったジャービー・レイエス。ニックネームは「ジャー」。F20Cをビッグターボで過給し、638psを叩き出す愛車のS2000は強烈そのものだが、じつはこの1台には、彼の人生そのものとも言えるストーリーが詰まっている。
ジャーにとって人生初の愛車は、父親から譲り受けたT160型セリカ・リフトバックだった。本当はもう1台所有していた三菱エクリプスを欲しがっていたものの、自分の手に渡る前に廃車に。仕方なく「じゃない方」のセリカを手に入れ、解体屋から拾ってきたエアロを装着するなど、自分なりのスタイルで楽しんでいたという。

その後、スポコンブームの真っ只中に初代エクリプスのOEMモデルだったプリムス・レーザーを手に入れるとクルマ弄りが加速! BOMEXのエアロやAPRのアルミウイングを備え、膨れ上がる自我を主張しまくっていた。
そんなジャーに最初の転機が訪れたのが2000年。両親の離婚を機にカリフォルニアからアラスカに引っ越すことになった。アラスカに移ってからもクルマへの情熱は燃え盛り、念願叶って手に入れたエクリプスターボを500psのストリートモンスターに仕上げたり、当時アラスカで最初の1台だったランエボⅨ MRの新車を購入したりと好き放題に楽しんでいた。
「だったのですが、エボを手に入れてから5年ほど経って、私は一度クルマの世界から距離を置く決断をしました。より大きな情熱を傾けられるもの、つまり神への信仰に真剣に向き合うことにしたからです」。

もともとクリスチャンだったジャーは、アラスカで過ごす中で信仰と向き合い、両親の離婚によって傷ついた自分自身を見つめ直していった。そして、そこで癒しと赦しを得たという。
エボも手放し、神と家族との時間を大切にする生活へ。2013年には妻とともにアラスカからカナダ・ウィニペグへ移住し、地元の教会活動にも積極的に参加。やがて若い世代を導くリーダー的な役割を担うようになった。

「そこで若い信者と交流する中で、意外にもクルマが人の結びつきを生み、信仰を伝える有効なきっかけになることに気がつきました。そこで私はクレイジーな思いつきをまずは妻に打ち明け、彼女はそれを受け入れてくれました。それは以前のように自分本位のクルマ作りではなく、神への情熱を原動力に、人々に手を差し伸べ、魂を導くためのクルマを作ることだったのです」。

こうしてジャーは、自身の信仰とクルマを結びつけた新たなプロジェクトをスタート。ノースダコタで売りに出されていたフルノーマルのS2000を手に入れ、「自分にできる限り最高のS2000を作る。そして、そのクルマをきっかけに、神は人生を救い、心をオーバーホールしてくれる存在だと人々に伝える」という目標に向かって歩み始めたのだ。


心臓部のF20Cは当初スーパーチャージャー仕様で製作され、現在はビッグターボ仕様へと進化。フルレース仕様のエキゾーストマニホールドに、900psも狙えるギャレットGTX3582R Gen IIタービンをセットする。
吸気系は70φスロットルボディを備えたフルブロウン製インテークマニホールドを採用し、インジェクターも1700ccへと大容量化。E85にも対応するフレックスフューエルシステムを導入し、AEM EMSシリーズ2でエンジンを制御する。
その結果、E85使用時には最高出力638ps、最大トルク57.3kgmを発揮。マフラーにはT1Rの70R-EMスパローデュアルエキゾーストを組み合わせる。

ウエストゲートはTiAL製38mmを2基装着。ダンプチューブからの排気はボンネットダクトへと導き、ターボ車らしいアグレッシブなエンジンルームを演出する。インテークパイプには同じくTiAL製50mmブローオフバルブをセット。

冷却系も抜かりはなく、コーヨーラドのラジエターにミシモトのファンシュラウドキットを組み合わせ、ハイパワー化されたF20Cをしっかりと冷却する。


足元にはボルクレーシング21Cを投入。サイズはフロント10.5J±0×18、リヤ11.5J−20×18という超ワイド仕様で、タイヤにはトーヨー・プロクセスR888Rを組み合わせる。
ブレーキはR1コンセプトの鍛造ビッグブレーキキット。フロントには6ポットキャリパーと345φのドリルド&スロット加工を施した2ピースローターをセットする。
サスペンションはKW V3コイルオーバーをベースに、アンブレラ・オート・デザインのVRHリフトシステムを追加。ハイパフォーマンス仕様でありながら、ストリートでの使い勝手も考えた車高調整機構を構築している。


インテリアも徹底的に手が入る。EVO-Rのカーボンメーターダッシュキット、レネゲード・モータースポーツのカーボンセンターコンソール、EVSのカーボンドアトリムなどを投入し、キャビンの大部分をカーボンでドレスアップ。
バケットシートやロールケージにはボディカラーと同色のカスタムペイントを施し、インテリア全体に統一感を持たせている。

トランクにはVRHリフトシステム用のタンクとコンプレッサーを搭載するほか、オーディオシステムまでインストール。ショーカーとしての存在感だけでなく、オーナーが日常的に楽しめる要素も盛り込まれている。



ボディにはM&Mホンダのワイドボディキットを装着。フロントで+80mm、リヤで+100mmという大胆なワイド化を実施し、当時カナダでは初となる同キットの導入車となった。
さらにジェイズレーシングのカーボンボンネット、APRのカーボンディフューザー、ボルテックスのGTウイング、バラードスポーツのカーボンハードトップなどを組み合わせ、ボディカラーにはシェルビー・マスタングのアバランチグレーを採用している。

M&Mホンダのワイドボディを纏い、スーパーチャージャーで武装されたS2000は、瞬く間に注目を集める存在となった。
チューニング専門誌PASMAGが主催する人気投票形式のコンテスト「チューナー・バトル・グラウンド」にも参戦。2016年のSEMAショーで行われた最終投票で見事チャンピオンに選ばれ、PASMAGの表紙も飾った。
その後、ジャーがカリフォルニアへ戻ると、S2000はスーパーチャージャーからビッグターボへと仕様変更。2022年には再びSEMAショーへ出展され、2025年には東海岸を中心に開催されてきたホンダ系イベント「HDAY」が西海岸で初開催されると、そこでベストアワードを獲得するまでに至った。

「神の御心がS2000に祝福を与える限り、このS2000は私にとって価値ある道具であり続けるでしょう。私の目的は、クルマ作りの旅の中で出会う新しい魂に手を差し伸べることなのですから」。
638psを発揮するビッグターボ、超ワイドなボディ、そしてショーカー顔負けの作り込み。その姿だけを見れば、アメリカらしいハイエンドチューンドS2000に映る。
しかし、その根底にあるのは速さや美しさだけではない。クルマを通じて人と出会い、自らが経験した信仰の意味を伝えていく…。ジャーにとってS2000は、単なる愛車ではなく、その想いを届けるための“道具”なのだ。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI

