セローよりも立派な車格。ヤマハWR155Rはオフ好きを楽しませてくれる1台です。

ヤマハのバリエーション展開に「WR」のネーミングが消滅して寂しい思いをいしているユーザーは少ないないだろう。しかし海外でその名はしっかり生きていた。今回はインドネシアで製造された輸入モデルであるWR 155Rに試乗した。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●株式会社 サイクルロードイトー

ヤマハ・WR 155R…….439,000円(消費税込み)

サイクルロードイトー指扇店乗り出し価格……520,000円 
ヤマハ・WR155
ヤマハ・WR155
ヤマハ・WR155
ヤマハ・WR155
ヤマハ・WR155
ヤマハ・WR155

ヤマハ・WR155
ヤマハ・WR155

カラーバリエーション(参考・本国仕様)

ブラック
モンスターエナジーヤマハレーシングカラー

 ピュアなオン・オフモデル。そのスタイリングからは、見るからに本格的な香りが漂うスポーツモデルである。本国のWebサイトによれば、THE REAL ADVENTURE PARTNERと謳われていた。
 このタイプのバイク、かつての国内市場では各社がこぞってシリーズ化して豊富なラインナップを揃えていたが、現在はホンダCRFとカワサキKLXの名前ぐらいしか挙げられない。オフ系モデルが好きなユーザーにとっては、なんとも寂しい状況なのである。
 市場規模が膨らむ傾向にある発展途上のアセアン諸国では、バイク人気にも多様化が進み、かつての国内市場がそうであったように多彩な魅力的商品が開発され、新鮮なモデルが積極的に投入されている。
 その中に日本の枠組みで言うと中間排気量となる155ccエンジンを搭載したオン・オフ(マルチパーパス)モデルがあり、株式会社 サイクルロードイトーによって、国内に輸入販売されているのである。

 ダウンチューブに角断面鋼管を組み合わせてデザインされたスチール製セミダブルクレードルフレームに搭載されたエンジンは、既報のXSR155と同じ154ccの水冷単気筒。
 ブルーカラーの試乗車はフレームがブラックアウトされていたが、別カラーバリエーションのブラックカラー仕様のフレームはミントグリーンの様な塗色が採用されており、日本には無いセンスの異なる新鮮さが印象的。
 エンジンのボア・ストロークは58×58.7mmでスクエアに近いが、僅かにロングストロークタイプ。動弁系はSOHCの4バルブでローラーロッカーアームを介して駆動する方式。さらにVVAと呼ばれる可変バルブタイミング機構を搭載しているのが特徴である。
 国内ではスクーター用のエンジンに搭載されている事で既に知られるメカニズムと基本的には共通。
 その仕組みについては、既報のXSR155の記事に詳しいのでここでは割愛するが、吸気バルブを駆動するカムが中低速用と高回転用にふたつあり、7,000rpmを境に使用カムを切り返えるようになっている。
 その狙いは、幅広い範囲で高トルクを稼ぎ出すことにあり、より柔軟で扱いやすい出力特性の発揮に貢献するのである。
 圧縮比は11.6対1でXSR155と同じだが、吸排気系やインジェクション等の電子制御マップはWR専用となり、ピークパワーとトルクは少し押さえられているが、中低速域でのトルク特性を向上しているのが特徴。
 諸元値で比較すると、最高出力はXSRの14.2kWからWRは12.3kWに、最大トルクは14.7Nmから14.3Nmに控えられたが、最大トルクの発生回転数が8,500 から6,500rpmに下げられている。

 車体関係では245mmのロードクリアランスが確保され、足の長い本格的なフォルムを構築。ちなみに傑作車として定評のあったWR250Rと比較するとホイールベースは5mmだけ長い1430mm。テールの造形が異なる関係か全長は45mm短く車幅は30mmワイド。車重は2kg増しの134kg である。
 フロントフォークは正立式。リヤのスイングアームは角断面のスチール製。ボトムにリンク機構を備えたモノショックタイプ。前が21、後は18インチサイズのIRC 製ブロックパターンのタイヤを装着。
 林道ランはもちろん、モトクロスコース等でひと遊びするにも相応しい仕上がりを誇っている。

スチール鋼管製セミダブルクレードルフレーム

250に迫る車格と程よいパフォーマンスが魅力的

 試乗車を目前にすると、改めて大きく立派なフォルムが印象深い。それはセロー250よりも大きく、まさに本家本元のWR250Rに迫るスケール感を誇っている。
 早速股がってみると、シート高は高めだが、全体に車体やシートがスマートに仕上げられているのと、初期作動のスムーズな前後サスペンションがソフトに沈み込んでくれる関係で足付き性はそれほど悪くない。
 筆者は体重が軽めなので、サスペンションの沈みはあまり多くを期待できないのが通常だが、足つき性チェックの写真からもわかる通り、両足はそれほど伸びきることなく、全体のスケール感の割にバイクは支えやすいものだった。
 スチールフレームながら、車重は134kgに仕上げられげおり、ビギナーライダーでもその扱いに手強さを覚える事はないだろう。エントリーユーザーにも素直にお薦めできる仕上がりである。
 シート高は880mmあり、スッと背筋が伸びるライディングポジションは目線が高く前方の見晴らしが良い。ステップに立ち上がるスタンディングポジションへの移行も楽でスケール感から来る雰囲気は250ccクラスに匹敵する。
 その昔国内でこのカテゴリーのバイクに熾烈なパフォーマンス競争が勃発した時、最終的にはモトクロスマシンに近い性能を競い合う進化を披露したが、足つき性の悪い背の高い車体になってしまい、結果的にはその人気に影を落とすことになったと記憶している。
 今回、WR155の仕上がりを見ると、各社の競い合いが、そこまでエスカレートする手前の段階と言える、程良いレベルの仕上がり具合が好印象である。

 シングルの水冷エンジンもクラッチをミートした瞬間からトルクの太さを直感、低速でトコトコと進む時や、シフトダウンを不精した様な場合でも、とても粘り強い出力特性が印象深い。
 WR250Rの様な俊敏なパンチ力は望めないが中低速域から柔軟に太いトルクが発揮され、どこでもとても扱いやすい。
 フト頭に浮かんだのは、セロー225誕生時の初心に返ってそのコンセプトを継承するセロー155を投入してくれれば、日本のエントリーユーザーにとっても大歓迎されるのではないかと思えた程なのである。
 既報のXSR155と比較するとタイヤサイズの違いも含めて総合減速比が低めに設定されおり、より強い駆動力が発揮されている。
ちなみにローギヤでエンジンを5,000rpm回した時のスピードはXSRより1km/h低い19km/hだった。前述の通り柔軟な出力特性故、各速の守備範囲は広く各ギヤへのシフトも繋がりが良い。
 シフトタイミングに神経質なコントロールが要求されない乗り味は快適である。ズボラな走り方でも許容してくれる懐の深さに親しみが沸いてくる感じ。近所の散策からツーリングまで、とても心地よいのである。
 右手のスロットルをワイドオープンすると7,000rpm付近でVVAが作動して、バルブリフト量の大きな高速用カムへ切り替わる。しかしその部分に違和感はなく至ってスムーズ。エッ、こんなにも伸びの良いエンジンだったのかと不思議な感触を覚えながら、エンジン回転はレッドゾーンの11,000rpm へと難なく吹き上がって行く。
 6速トップギヤ100km/hクルージング時のエンジン回転数は約7,800rpm。ちなみにXSR155は約7,500rpmだった。それほど大きな差ではないが、XSRはWRよりは静かにクルージングできるのが印象的。一方、追い越し加速性能ではWRの方が機敏な印象を覚えた。
                     
 操縦性ではハンドル幅が広い事もあって、とても軽快。着座位置をシート前方に移してギザギザの歯付きステップに足を踏ん張る様にバイクを押さえ込むシーンでも、微妙な操舵が意のままに決められる。
 重くはない車重と、決して荒さのない充分なエンジンパフォーマンスとのバランスが良いおかげで、後輪にきちんと駆動力を加える(スロットルを開けて行ける)事ができ、コーナーでもギャップでも安定性が高く、その素直な操縦性が魅力的なのである。
 市街地や郊外の散策程度なら125ccクラスでも何も不満なく乗れるだろうが、155ならそもそも高速も走れるクラスだし、スロットルをワイドオープンした時に発揮されるプラス30ccのユトリの大きさからは侮れないポテンシャルが感じられる。
 実際峠道やダートコース等でハードな走りを楽しむ時でも、全開頻度は少なくて済み、125の様に時にモアパワーが欲しくなるストレスも少なくて済む。
 しかも通常の一般使用でほとんど不足のない走りを堪能できる。必要にして充分な程良いパフォーマンスには、実用的で身の丈に合う“賢い選択”としての価値は大きく、コストパフォーマンスの高さも含めて魅力的なのである。

足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)

ヤマハ・WR155
ヤマハ・WR155
ヤマハ・WR155
ヤマハ・WR155

シート高は880mmと高めだが、スマートな車体デザインとソフトに沈み込むサスペンションで、足つき性はご覧の通り。両足の踵は大きく浮いてしまうが、適度な車両重量で、バイクを支える上で感じられる不安は少ない。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…