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McLaren 765LT
モータースポーツの世界から得たインスピレーション
マクラーレンは2020年3月、当時のスーパーシリーズ「720S」のさらなる強化版であり、サーキット走行にフォーカスした限定車「765LT」を発表した。LT、すなわちロングテールの名を掲げるモデルとしては、スーパーシリーズでは675LTの後継となる765LT。リヤミッドに搭載される「M840T」型エンジンは、燃料ポンプの大型化やアルミ鍛造ピストン、セナで採用された3層式のヘッドガスケットの採用などにより、新たに765PSの最高出力と800Nmの最大トルクを得るに至っている。チタン製となる排気システムの重量はわずかに11kg弱。これは720S用のそれと比較して3.8kgも軽量な数字である。
このエキゾーストシステムに代表されるように、765LTでは720Sからの軽量化はやはり開発時の重要な課題だった。基本構造体となるカーボンモノコック(モノケージⅡ)はもちろんのこと、サスペンションには軽量なデュアルスプリングを採用。ボディパネルもまたCFRPで成型され、フロントウインドウは薄肉タイプに、ほかのウインドウはモータースポーツの世界からインスピレーションを得たポリカーボネート製とされる。
その結果、そもそも驚くべき軽さを誇っていた720Sよりもさらに80kgも軽量な、乾燥重量で1229kgという数字が達成されたのである。車重1tあたり622PSというパワーウエイトレシオは、やはり驚異と評するほかはないだろう。
妥協なきマクラーレンの哲学
765LTのデザインは、サーキットを目指すという明確な目的のために、720Sからさらに改良が加えられている。車高はフロントで5mm低下し(リヤは720Sのそれと変わらない)、トレッドもフロントのみを6mm拡大。フロントスプリッターは新たにデザインされ、フロントフェンダー上にはルーバーも設けられた。サイドのエアインテークのデザインも765LTに独自のものとなる。
そのデザインへのこだわりはインテリアでも同様で、軽量なアルカンターラで覆われたキャビンには、ドライバーを最適なポジションに配置するためのP1のそれをベースとしたレーシングシートなどが装備されている。すべては軽量化と機能のために。マクラーレンの哲学には妥協というものはないのだ。
LTが意味するところの、長く伸びたリヤウイングは、やはりCFRPで成型されたもの。開発はMCTC(マクラーレン・コンポジット・テクノロジー・センター)によるものとされ、結果ダウンフォースは720Sと比較して25%も高い数値を記録したという。またこのリヤウイングはブレーキング時にはエアブレーキとして機能することも良く知られているところ。サスペンションにはソフトウエアとハードウエアがともにアップデートされた「プロアクティブ・シャシー・コントロールⅡ」が採用され、それによって常にマン・マシンの一体感と、ナチュラルなドライブフィールを感じ取ることができる。
リトラクタブル・ハードトップモデルも
参考までに、この765LTが可能とする0-100km/h加速は2.8秒、さらに0-200km/h加速は7秒フラットでこなし、0-300km/hでさえ18秒フラットで加速する。最高速は330km/hというのが公式なテストデータである。
765LTは、765台の限定車として最初に触れたとおり2020年3月から発売されたが、この時点ではすべてのモデルにオーナーが決まっていたとされる。そこでマクラーレンは、675LTでもそうであったように、リトラクタブル・ハードトップを用いた765LTスパイダーを翌2021年に発表。こちらもその生産計画は765台の限定だった。電動式のリトラクタブルハードトップは、わずか1本のカーボン製フレームで構成され、その開閉時間は11秒。走行中でも車速が50km/h以下ならその操作ができる。乾燥重量ではクーペの765LTより49kg重いスパイダーだが、その運動性能は両車ともにほとんど変わることはない。