ポルシェラインナップで最重要モデル「マカン」はBEV化で変わったか?

EVとなった新型「ポルシェ マカンターボ」に試乗してわかったポルシェの走りの哲学

ついに電動化へと舵を切ったポルシェのミドルサイズSUV、新型マカン。上位モデルであるマカンターボの海外試乗記をお届けしよう。
ついに電動化へと舵を切ったポルシェのミドルサイズSUV、新型マカン。上位モデルであるマカンターボの海外試乗記をお届けしよう。
フル電動SUVへと進化を果たしたポルシェのミドルサイズSUV、新型マカン。先進的なデザインを採用し、613kmもの航続距離を誇る新型は間違いなくヒットするだろう。注目のマカンターボを中心にインプレッションをお届けしよう。(GENROQ 2024年7月号より転載・再構成)

Porsche Macan Turbo

BEV専用モデルへ舵を切った大きな決断

BEV専用モデルとなった新型マカンターボ。航続距離の伸長はもちろん、アウトプットも当然のことながら向上している。
BEV専用モデルとなった新型マカンターボ。航続距離の伸長はもちろん、アウトプットも当然のことながら向上している。

ポルシェは公約どおり、タイカンに続くBEV(電気自動車)の第2弾として新型マカンを発売した。マカンといえば、新車販売台数でカイエンと1位2位を争うポルシェにとっての屋台骨だ。それをBEV専用車にするというのは、相当なチャレンジと思える。

4月後半、フランス・ニースから少し南下したリゾート地、アンティーブのヨットハーバーを起点に新型マカンの国際試乗会が開催された。試乗に際してまずマカンのエキスパートになぜポルシェのBEVの第2弾がマカンだったのかと尋ねると、3つの答えが帰ってきた。ひとつめはBEVの課題はもはや航続距離ではないという。この新型でも航続距離は600km前後となっているが、リサーチの結果すでに多くのユーザーの日常生活をカバーできる性能を有している。

2つめはポルシェにとってナンバーワン市場である米国での排ガス規制を満たすため。そのためにはボリュームの稼げるモデルが必要という。

そして3つめはアウディとの共同開発した新しいBEV専用プラットフォーム(PPE)が、ちょうどマカンが該当するBセグメントをカバーするものだった。何よりも他のモデルと大きな差別化を図ることができる素晴らしい運動性能を備えたモデルができたと、話していた。

試乗車は日本でも発表済みのマカン4とターボの2種類だった。のちにポルシェの法則に則ってあれやこれや登場することは想像に難くない。ベースのマカンは2駆になる可能性もあるのか尋ねると、話をはぐらかされてしまったが、姉妹車であるアウディQ6e-tronのエントリーグレードが後輪駆動の2駆になると発表されており、タイカンのベーシックグレードが2駆であることからも、ない話ではなさそうだ。

すべてをデジタル化しないのがポルシェ流

ボディサイズは先代に比べて全長+58mm、全幅+16mm、ホイールベースは+86mm拡大。全高はほぼ同じだ。パワートレインは、マカン4、ターボ共に前後アクスルに永久励磁型PSM電気モーターを配置した2モーター式で4輪を駆動する。800Vアーキテクチャーを備えたPPEのフロアには総容量100kWhのリチウムイオンバッテリーが効率よく敷き詰められている。モーターのサイズや出力は異なり、マカン4は、最高出力387PS、最大トルク650Nm、0-100km/h加速は5.1秒、一充電走行可能距離は613km。一方のターボは584PS、1130Nm、0-100km/h加速3.3秒、走行可能距離591kmとなっている。

インテリアは、タイカンの流れを汲んだ最新のデザイン。それでいてタイプ930の911のインテリアを彷彿とさせるT字型のダッシュボードやBEVだからとすべてをデジタル化するのではなく、スタート/ストップボタンをはじめ、物理スイッチを残している温故知新なところもポルシェらしい。

まずはマカン4に乗った。夕方の渋滞しているアンティーブの市街地を走る。静かに滑らかに走りだすのはいうまでもない。回生ブレーキに関してはタイカンと同様、ワンペダルのようなものは採用せず、回生レベルをシフトパドルで調整するような機能もない。基本的にはコースティングするか、前走車との距離や速度差に応じて回生レベルを自動で調整してくれるモードがある。普段使いはそちらのほうが扱いやすいだろう。

足まわりにはオプションの22インチタイヤ+エアサスが装着されており、路面の荒れた街中では少々硬いかなと感じる場面もあった。今回はポルシェの試乗会としては珍しくサーキットテストが含まれていなかった。ナビゲーションにしたがい内陸へと走っていくとラリー・モンテカルロもかくやのワインディング路へと導かれる。ここで本領を発揮。それなりに大きく重いクルマのはずなのに、それを感じさせない見事なハンドリングマシンぶりを見せつけてくれた。

やはりターボは最高だった!

翌日、ターボに乗ったが、乗り比べてしまうとやはりターボはいい。アクセル操作に対するツキのよさ、加速の良さはもちろん、低速から高速域まで違和感なく安心して踏める抜群のブレーキフィールはまさにポルシェのそれだ。乗り心地も同じ22インチを装着していてもターボのほうが快適だった。

試乗後にエキスパートに確認すると、マカン4とターボでは、モーターの大きさだけでなく、取り付け位置や剛性なども含めてリヤアクスルまわりが別物という。エアサスペンションも機構としてはマカン4と同じものだが、ダンパーのセッティングが異なり、またリヤアクスルの電子制御式ディファレンシャルロックであるポルシェトルクベクトリングプラス(PTV Plus)や最大操舵角5度のリヤアクスルステアリング(オプション)も装備していた。前後重量配分は、マカン4では50対50のところ、ターボでは48対52とより後輪へのトラクション重視のセッティングになっている。

失敗の許されない”虎”の子モデル

ポルシェのラインナップでも特に重要なミドルサイズSUVであるマカン。しばらくはBEVとICEモデルの併売となりそうだ。
ポルシェのラインナップでも特に重要なミドルサイズSUVであるマカン。しばらくはBEVとICEモデルの併売となりそうだ。

実は当初マカンは、先代のICE(内燃エンジン)と新型のBEVを併売するとアナウンスされていた。しかし、欧州域内ではサイバーセキュリティ法が施行されることにより先代が販売できなくなり、BEVに1本化される。日本でも同様の規制は始まっているが、猶予期間があるためしばらくはICEとBEVが併売されることになりそうだ。

ポルシェはいま2030年までに新車の80%以上をBEVにするという目標を掲げている。新型マカンはその象徴であり、そして失敗の許されない“虎”の子モデルなのだ。

REPORT/藤野太一(Taichi FUJINO)
PHOTO/Porsche AG
MAGAZINE/GENROQ 2024年7月号

SPECIFICATIONS

ポルシェ マカンターボ

ボディサイズ:全長4784 全幅1938 全高1621mm
ホイールベース:2893mm
車両重量:2405kg
モーター
システム最高出力:430kW(584PS)
システム最大トルク:1130Nm(115.2kgm)
駆動方式:AWD
EV航続距離:518-591km
サスペンション形式:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前235/55R20 後285/45R20
最高速度:260km/h
0-100km/h加速:3.3秒

【問い合わせ】
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/

フル電動モデルへと生まれ変わった新型マカンは、快適な充電プロセスが追求されている。

フル電動「ポルシェ マカン」に導入された充電システムがもたらす快適な充電とは?【動画】

フル電動モデルへと生まれ変わった新型「ポルシェ マカン」。開発においては、充電プロセスを日常域へとシームレスに溶け込ませるかが、重視された。つまり、日々の相棒としての使い勝手が追求されたのである。

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