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ドイツ自動車産業に渦巻く負の連鎖

2023年あたりまでは不況への少しずつ兆候はあったものの、まだドイツ自動車メーカーは好景気に沸き、特に御三家やポルシェに勤務する正社員のみなさんには、年末に大ボーナスが支給されてホクホクの状況だったと記憶している。しかし、それが一転して2024年の中盤辺りからは前年までの好景気に雲行きが怪しくなり始め、様々な企業の経営不振が報じられる事が多くなった。
日本では特に日産とホンダ経営統合協議の解消が大々的に報じられているが、決して日本メーカーだけの問題ではなくドイツでもフォルクスワーゲングループのアウディやポルシェ、BMW、メルセデス・ベンツのダイムラーグループ、オペル、ドイツフォード等、全てのメーカーに該当すると言っても過言ではない。自動車メーカーを支えるZF、コンチネンタル、ボッシュやシェフラー、大手鉄鋼メーカーでありビルシュタインの親会社でもあるティッセンクルップ等が大量リストラを発表したり、昨年8月にはBBSやレカロといった世界的に有名なメーカーまで倒産・破産するなどのニュースで溢れ返っていて心が痛む。
自動車メーカーの販売不振により、そのサプライヤーや下請け企業にも及び、国の経済を大きく支える自動車産業に大きな影を落としており、この負の連鎖は今年さらに悪化するのではないかと予想されている。
「金のなる木」だった中国が……

これはほんの一例に過ぎないが、2024年に軒並み販売台数が低迷した中国市場におけるドイツ製EVの話だ。特に中盤からのメルセデス・ベンツの「EQEセダン」の中国市場販売台数の落ち込みは酷い。中国でのEQEセダンの販売は2023年の1月には921台を売り上げていたが、2024年度7月が9台、8月は2台、9月が少し回復して7台、そして問題の10月はゼロ……。その落差に驚くばかりだ。また、EVに限らず中国市場でのドイツメーカーの販売数は大きく落ち込んでいる。シュトゥトッガルトのメルセデス・ベンツ本社勤務の方に訊くと「正式には意図的に販売を停止している」との情報を得たが、ブランド力を重視する中国の富裕層を対象にするビジネスに一体なにが起きているのだろうか。
ドイツ前首相アンゲラ・メルケルの政策から、ドイツは大きく中国を崇め称え、あらゆるドイツ企業がこぞってドイツに進出した。ドイツの自動車メーカーも急速に経済成長を遂げた「金のなる木」だった中国の裕福層をターゲットとしたモデルを開発・製造する為にファクトリーを建設し、数多くの中国人をドイツへ招聘した。その結果、中国メーカーは優秀なエンジニアや幹部をドイツの自動車メーカーから根こそぎヘッドハンティング、つまり引き抜いた。
しかし、そううまくは行かないのか、大金で引き抜かれた、もしくは大金に釣られて転職したドイツの自動車メーカーのエンジニア達が再び元の職場へ昨年頃から戻り始めていると見聞きする事からも、中国の経済低迷の前兆は既に見え始めていたのかも知れない。日本の自動車メーカーは、ドイツメーカーよりも早く中国の工場を閉鎖や撤退に踏み切った。ドイツも自国の工場や職員を守る為には、中国市場にある程度の見切りをつける事も大事なのではないだろうか。
自動車関連メーカーに留まらない影響

中国市場に頼ったドイツは中国経済の低迷の煽りを受けて、厳しい状況が続く自動車及び自動車関連企業。ドイツの現状では2025年V字回復するとは考え難いだけに先行きは不透明だ。また、2024年中盤以降に少し値下がりしていたガソリン価格は、2025年は再び値上がりが発表されており、様々なエネルギー価格の更なる上昇も通知されているだけに、更にドイツの経済には大きな打撃となるだろうと容易に想像がつく。
ドイツを襲う大不景気は自動車関連メーカーに留まらず、アパレルや飲食業界や多岐に渡り、酷いインフレやエネルギー価格の上昇により経営が圧迫され、大手チェーン店でさえも廃業せざるを得ない状況が続いている。街中や郊外の大型ショッピングセンターには空き店舗や増える一方で、なんとも不景気を象徴するような街の風景を見るのは決して気分が良いものではない。