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Porsche Taycan
シュトゥットガルトからレヴィへ

ドイツのシュトゥットガルトから北へ、2842km離れたフィンランドのレヴィに向かう。オーロラ観測の拠点と知られる北極圏のレヴィにおける平均気温はマイナス10℃。日照時間は10時から14時までの4時間程度で、 日没後に気温は急降下し、頭上の夜空は底知れぬ黒に染まる。“オーロラ”と呼ばれる天体現象を見たければ、レヴィはうってつけの場所だ。
今回、北極圏から150kmに位置するフィンランドの僻地へのドライブの供はなんと「ポルシェ タイカン」だ。CO2排出量ゼロ、排気音やインダクションノイズもないこのフル電動スポーツセダンは、雪が深く降り積もるなか静かに走り続ける。
EVをこのような環境に持ち込むことに躊躇する人は多いかもしれない。氷点下でのバッテリー性能や充電速度、寒さが航続距離に与える影響について今も多くの疑問が投げかけられる。しかし、ポルシェが開発した800Vアーキテクチャと高度な熱管理システムは、フィンランド北部でその実力を証明することになったという。
「MyPorsche」によるプレヒート機能

今回の北極圏へのドライブツアーにおいて、タイカンは参加クルーから高い人気を集めたという。その理由のひとつが「MyPorsche」アプリだ。MyPorscheによる遠隔操作でキャビンを暖める「プレヒート機能」が便利だ。もちろんタイカン 4以上のグレードに標準搭載されるフルタイム4WDシステムによる、雪道における優れたトラクション性能も滑りやすい路面でドライバーをサポートしたという。
雪と氷に閉ざされたレヴィの過酷な環境に向けた準備も、クルーの防寒装備くらいだろうか。氷点下においてもタイカンは問題なく充電可能であり、20分以内に80%の充電状態(SOC)まで急速充電することができる。これはターボ・チャージ・プランナーからのデータを活用し、充電のためにバッテリーを事前調整する高度な熱管理システムによって実現した。
極寒でも性能を発揮するバッテリー

スマートフォンやカメラでも顕著だが、低温環境でのバッテリーシステムの性能低下は、バッテリー内の電解液中におけるイオンの移動が低下することに起因する。バッテリーの内部抵抗が増大すると、予定された性能を発揮できなくなってしまうのである。
しかしタイカンが搭載する熱管理システムは、高電圧バッテリー内の内部抵抗を抑え、性能をフルに引き出すことが可能になったと謳う。さらに、標準搭載するヒートポンプと組み合わせることで、パワートレインからの余剰熱を利用した効率的な室内暖房も導入されている。
ガラス越しにかろうじて聞こえる外音は、降り積もったばかりの雪を踏みしめる冬用タイヤの音だろうか。鬱蒼と茂る松の木に囲まれた空き地にタイカンを停車すると、視線は自然に空へと引き寄せられる。パノラマガラスルーフを通して、途切れることのない星空が広がる。最初のかすかな緑色の明滅が、周囲の暗闇を静かに照らしていく。すると、フィンランドの地元住民が「レヴォントゥレット(Revontulet)」と呼ぶ、オーロラの優しい光が漆黒の闇を揺らすように広がっていった。