熟成極まったランボルギーニ ウラカンの最終章を飾るSTOとEVO、選ぶべきはどちらか?

ランボルギーニ ウラカンの最終章! STOとEVOを箱根のワインディングで味わう

ランボルギーニ ウラカン STOとウラカンEVO フルオ・カプセルのフロントスタイル
ランボルギーニ ウラカン STOとウラカンEVO フルオ・カプセルを公道試乗。似て非なる性格を与えられた2台のウラカンを検証する。
モータースポーツ部門のスクアドラ・コルセが手掛けた究極のウラカンがSTOだ。徹底的な軽量化とエアロダイナミクスの強化が図られているSTOに挑むのは、圧倒的なスタビリティを誇るAWDスーパースポーツのEVO フルオ・カプセル。同じウラカンという車名の2台は、それぞれいかなる性格を持つのか?

Lamborghini Huracan STO×Huracan EVO Fluo Capsule

究極の選択

走り始める瞬間にオドメーターを確認すると、僅か64kmだった。ウラカン STOの公道初試乗なのだから当然か。垂直方向のエアロが異彩を放つ、現代のル・マンカーのようなスタイリング。それと比べると、インテリアにはベースモデルの印象がしっかり残されていてひと安心。シフト系もステアリング周りのスイッチにも大きな違いはないようだ。とはいえドアインナーやフロアは地肌むき出しのカーボン製だし、インナーハンドルも赤いナイロンベルトに置き換えられている。

ウラカン EVOの後方視界はエンジンフードのスリットから覗き込む感じで良好とはいえないが、STOではエンジンの真上に垂直のセントラルシャークフィンが立ちあがっているのだから、いよいよ後方視界は絶望的。サイドミラーの角度を入念に調整する必要がある。

先の富士スピードウェイの試乗会を走らせた個体はチタン製のロールバーがドライバーの背後でクロスしているように見えたが、それがなくても何も見えないのだ。

今回の撮影では都内から箱根まで、STOとEVOという2台のウラカンで自走していく。だが後方視界のせいでいい意味で諦めがついた。どんなに静かにしていても目立つペアなので、ラリーのリエゾン区間と割り切るほうが正解だ。

公道を走れる最低限のエッセンスを含ませたレースカー、ウラカン STO

ウラカン STOはランボルギーニのレース部門、スクアドラ・コルセ(カスタマーレーシング部門)が手掛けた1台だ。今の時代はボディの上に生えた小さなツノのようなエアロひとつにも然るべきエビデンスが必要になる。風洞と数多くの経験則を持った本物のレース屋でなければ、いくらスーパースポーツ、いくらランボルギーニといえど、こんなに「ささくれ立った」クルマを堂々とリリースすることはできまい。公道を走れる最低限のエッセンスを含ませたレースカー。だから最初の試乗会の舞台が富士だったのだろう。

サーキットで市販車を走らせることはよくあるが、逆のパターンは珍しい。そういって、これまで本当のル・マン24時間レースを走ったことのあるレースカーを3台ほど公道で走らせたことがある。

3台に共通するのは、然るべきスピードに達するとえも言われぬ陶酔に包まれるということ。つまりそこに至るまでは熱気と、排気音を凌ぐ盛大なギヤノイズと、トラックの荷台に載せられているような劣悪な乗り心地と戦わなくてはならない。

公道モードは省かれSTO専用モードを採用

だとすれば、ウラカン STOのこの上なく快適な乗り心地は、説明が難しい。アシはこれまで乗ったどのウラカンよりも硬い。それでも一般道を50km/h以下で走っていれば、サスペンションのあたりは柔らかく、洗練すら感じさせてくれる。

カーボン筐体の専用バケットシートは太ももの裏や腰、肩といった要所をしっかりと支えてくれて、おまけにリクライニング機構も付いている。とても快適なので、首都高の渋滞にはまっていると飛び切りのスーパースポーツに乗っている事実を忘れそうになる。こちらを覗き込む視線、そしてバックミラーとサイドミラーに映るエアロの設え光景によって、度々現実へと引き戻されるが。

ステアリング上にあるANIMAのセレクターは印象的だ。上からSTO、TROFEO、そしてPIOGGIAとある。これはSTRADA、SPORT、CORSAが割り振られたウラカン EVOとは性格がまるで異なることを意味している。STRADA(一般公道)のモードはなく、その代わりにSTO(スーパー・トロフェオ・オモロガータ)の推奨モード、サーキット用のTROFEO、最後のPIOGGIAは、ウラカン EVOのRWDモデルにもないウエットセッティングである。つまりノーマルモードは不必要。その代わりにウエットに備えないとリスキーである、という判断だ。

全域でこれまでになくパワフルなフィーリングのV10

箱根ターンパイクで試すウラカン STOの第一印象は「思ったよりも扱いやすい!」だった。スピードを上げていくと快適性という言葉は志却の彼方へと吹き飛んで行く。だがそこから先は、まさにレースカーよろしく「ゾーンに入る」感じで、適度なノイズとバイブレーションの中にある種の調和を感じられるようになる。

ペルフォルマンテとともに登場した640ps仕様のV10エンジンが、全域でこれまでになくパワフルに感じられるのは、車体の軽さによるものだろう。ウラカン EVOのRWD比でマイナス50kg。これを数値的に捉えようとすると4%くらいだが、セダンのラゲッジスペースから余計な荷物を下ろすのとはワケが違う。

ボディカウルのカーボン置換は、重量物を車体中央に集中させる結果につながる。この4%は鍛え上げたボクサーが試合に向けてさらなる絞り込みをかけた結果なのだ。

ミッドシップ、RWD、大パワーというSTOの性質と上り坂という要素が絡むと、ドライビングで気になるのは中高速コーナーの進入だろう。しっかりとブレーキングで前荷重にするわけでもなく、むしろ少しスロットルを開けて入るようなシーンで考えられるリスクは「すっぽ抜けアンダー」だ。

歴代ウラカンのどれよりもフロントの接地感が強い

ところがSTOのアルカンターラ張りのステアリング越しに聞こえてくる囁きは「そんなことは気にするな」と言っている。実際に、ペルフォルマンテやEVOのRWDモデルなど、これまでドライブしたどのウラカンよりも、STOはフロントタイヤが路面に吸い付く印象が強い。

直線路でもペースを上げれば上げるほど前輪の接地面積が広がったようなグリップの高まりが感じられる。

今回は3段階に調整可能なリヤのセンターウイングをMEDIO(ミディアム/中間)に固定しているからフロント偏重ということもあるのかも。標準のウラカンとは完全に異なるコファンゴと呼ばれる一体型フロントカウルによるダウンフォース増加も著しいのだろう。

F1やラリーのドライバーの「フロントの接地感さえちゃんとしていればいい」というコメントを何度か目にしたことがあるが、STOはまさにそんな感じ。とはいえもちろん公道で「リヤをどうにかする」ことなどできるわけもない。リヤにだって相応のダウンフォースが掛かり、ピタッと安定しているのである。

RWDとAWDの違いだけではなく両車のキャラクターは別物だった

一通りSTOのパフォーマンスを味わったところでウラカン EVOに乗り換えてみる。これが、思っていた以上に違いが大きくて驚かされた。十分にハードなはずのEVOの乗り心地がひどく柔らかく感じられたのだ。当然だがロードノイズも少ない。ピレリタイヤのあたりは硬いのだけれど、アシはストロークしており、一般的には「微か」と表現すべきロールも、ちゃんと感じられる。これはSTOが履くBSタイヤを褒めるべきかもしれない。

車体重量に由来する身のこなしの違いもすぐにそれと分かった。だが今回の2台の最大の違いはハンドリングだった。それは2駆と4駆の違いなのだが、それだけではない。RWDのウラカン EVOには後輪操舵が付かないが、STOは2駆であるにもかかわらず後輪もステアする。

空力で路面に吸い付けられ、しかも後輪が舵を補うSTOのコーナリングは、少ない舵角でこれ以上ないほど鋭く切れ込んでいく。一方のEVOはステアリングの中立付近の反応がSTOと比べるとかなり曖昧で、切り込んでいったときのスリップアングルも大きめ。

モデル末期に追加されたSTO、これは衝撃的な問題作といえる

もちろんEVOのそれは日常性とのバランスを探った結果だろう。一方STOの鋭さは「ゾーンに入る」きっかけにもなるが、クルマが求めるスピードに達しなければトゥーマッチなクセとして映る。

今回の2台は、ともにウラカンを名乗るが、その実態は完全な別物だ。STOのドライビングに集中していると911 GT3 RSの像と重なる部分が多くあることに気づかされる。コーナーをなぞるように走るのではなく、奥深くまで直線的に突っ込み、エイペックスの手前でクイックに向きを変え、最小限の舵角で立ち上がっていくメリハリのある感じをクルマが求めているのである。

スクアドラ・コルセが手掛けたのだから、スタイリングのみならずコーナリングマナーもレーシーになるのは当然? 緩やかに収束に向かうと思われていたウラカンのライフに現れた急先鋒。これは問題作だ。

REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2022年 1月号

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【SPECIFICATIONS】
ランボルギーニ ウラカン STO
ボディサイズ:全長4547 全幅1945 全高1220mm
ホイールベース:2620mm
乾燥重量:1339kg
エンジンタイプ:V型10気筒DOHC
総排気量:5204cc
最高出力:470kW(640ps)/8000rpm
最大トルク:565Nm(57.6kgm)/6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前245/30R20 後305/30R20
最高速度:310km/h
0-100km/h加速:3.0秒
車両本体価格(税込):4125万円

ランボルギーニ ウラカンEVO フルオ・カプセル
ボディサイズ:全長4520 全幅1933 全高1165mm
ホイールベース:2620mm
乾燥重量:1422kg
エンジンタイプ:V型10気筒DOHC
総排気量:5204cc
最高出力:470kW(640ps)/8000rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前245/30R20 後305/30R20
最高速度:325km/h
0-100km/h加速:2.9秒
車両本体価格(税込):3282万7601円

【問い合わせ】
ランボルギーニ カスタマーセンター
TEl 0120-988-889

【関連リンク】
・ランボルギーニ 公式サイト
https://www.lamborghini.com/jp

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著者プロフィール

吉田拓生 近影

吉田拓生

1972年生まれ。趣味系自動車雑誌の編集部に12年在籍し、モータリングライターとして独立。戦前のヴィンテ…