PHEVからNA直4まで揃うレクサス肝煎りの最新SUV、NXを試す

新型レクサス NXを渡辺慎太郎が試乗! 次世代レクサスの第1弾にブランドの将来を見る

新型レクサス NX。NX350hのフロントビュー
レクサス NXは2014年のデビュー以来、世界95の国と地域で累計約100万台を売り上げてきた。RXより一回り小さいサイズによる機動性が美点で、いまやレクサスの最量販車種のひとつとなっている。今回、初のフルモデルチェンジを受けて2代目に進化したNXの実力を、自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎が検証した。
レクサス RXより一回りコンパクトなサイズで、優れた使い勝手によって人気を集めるNXが2021年夏にフルモデルチェンジした。次世代レクサスの方向性を示す重要なマイルストーンとなるモデルであり、その仕上がりには大きな期待が寄せられている。新型へ生まれ変わった2代目NXの実力を測るべく、自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎が国内試乗した。

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Lexus NX

報道のミスリードに惑わされることなかれ

新型レクサスNX。NX350hのフロントビュー
新型レクサスNXは、アルミのブロックから削り出したかのような塊感のあるフォルムが特徴。お馴染みのスピンドルグリルも、より立体感と迫力を増している。グリル下部には冷却性能を向上するスリットを追加した。

2021年12月14日、トヨタ自動車の豊田章男社長はバッテリーEV戦略について記者会見を行い、将来に向けた具体的なヴィジョンを示した。その中で、豊田社長はレクサスについても言及している。

「レクサスは、2030年までにすべてのカテゴリーでバッテリーEVのフルラインナップを実現し、欧州、北米、中国でバッテリーEV100%、グローバルで100万台の販売を目指します。さらに2035年にはグローバルでバッテリーEV100%を目指します」

そもそも社長自らがこのような会見を開いたのは、「トヨタはEVに消極的」という世間に蔓延るイメージを払拭するためだった。決して消極的なのではなく、EV以外の可能性も同時に模索していて、幅広い選択肢を世界中のお客様に提供しようとしていると伝えたかったのだろう。ところが上記のレクサスに関する発言を受けて、一部のメディアは早速「レクサスは2035年に完全EV化」というような記事を配信した。もう一度、社長のメッセージを読み返して欲しいのだけれど、彼は「目指します」と言っただけで「実現します」とは言っていない。こういうミスリードに私たちは惑わされないよう、事実を正確に掴むことが今後ますます重要になってくるだろう。

パワートレインも“多様性”の時代へ

新型レクサスNXのフェイシア
新型レクサスNXは大画面のセンターディスプレイ(14インチもしくは9.8インチ。テスト車は14インチ)を中心に、新開発のステアリングホイールやスイッチ感覚でドアを開閉できる「e-ラッチ」などを採用。最新SUVらしく先進テクノロジーを積極的に投入している。

あまりにも影が薄くて、世間に広く認知されているとはとうてい思えないのだけれど、レクサスはすでにUX300eというEVを販売している。そして新型のNXにレクサス初となるPHEVが加わったことにより、内燃機とHVとPHEVとEVというパワートレインのフルラインナップをとりあえず完成させた。豊田社長の言う「選択肢を広げる」を具現したカタチになる。同時にレクサスはこのNXで次のステップ、つまり多様性と選択肢の拡充へと進むドアを開けた。

レクサスの新型NXはトヨタのGA-Kと呼ばれるプラットフォームを共有する。ボディサイズは従来型と比べると全長で20mm、全幅で20mm、全高で15mm、ホイールベースで30mm、それぞれ大きくなってはいるものの、前後天地左右方向にわずか2cm余りのことなので、実車を目の前にしてもすごく大きくなったという印象はない。

全幅は20mmの拡大であるのに対して、トレッドはフロントが35mm、リヤが55mmも拡大していて、これは20インチのタイヤを履くためでもあるとはいえ、広いスタンスは安定性や接地性の向上に期待が持てる。なおタイヤ&ホイールの締結には、ISに続きこのNXもハブボルトが採用された。ハッチゲートに置かれた“LEXUS”のレタリングはNXが初めてで新型LXもこれに準じている。

PHEV、HV、直4ターボ、直4自然吸気をラインナップ

新型レクサスNX。NX350hのリヤセクション
新型レクサスNXは、リヤに従来のL字ロゴではなく“LEXUS”のレタリングを装備。UXから採用している一文字に繋がるテールランプデザインも踏襲した。

新型NXの最大の特徴は、多彩なパワートレインを用意しているところにある。エンジンは、PHEV(NX450h+)、HV(NX350h)、2.4リッターターボ(NX350)、2.5リッター自然吸気(NX250)の4種類で、すべてのエンジンが基本的に4輪駆動と組み合わされるのに加えて、NX350hとNX250には前輪駆動も用意されている。さらにNX450h+とNX350hは後輪にモーターを置くE-Four、NX350とNX250は前後輪をプロペラシャフトで繋ぐメカニカル式で、4輪駆動の形式も2種類存在する。ただ実は“内燃機”という観点では、NX450hとNX350hとNX250は基本的に同じ2487ccの直列4気筒で、2.4リッターターボはレクサス初となる2393ccの直列4気筒ターボだから、2種類でまかなっているとも言える。

レクサス初と言えば“e-ラッチ”もそうである。e-ラッチとは、ドアを開く時にドアハンドルを引かなくても、スイッチを押すことでラッチがリリースされる機構。ボディ側のドアハンドルにはグリップ部の裏に、室内側はドアのアームレスト脇にそれぞれスイッチが配置されていて、軽く押すだけで「カチッ」とドアがリリースされ、後は外にいるなら引き、室内にいるなら押すだけでドアが開く。

電気仕掛けなので、もちろんフェールセーフ機能も備えている。衝突時やバッテリーの電圧低下時などには、手動のリリースハンドルを使ってドアを開くことができる。「ドアハンドルを引く」という機械式な方法を電子制御式にすることで、合理的でスマートな所作が可能となるけれど、最大のメリットは安全性の向上にある。ブラインドスポットモニターと連動しているから、例えば後方から自転車やバイクが近づいてきている場合、スイッチを押してもドアはリリースされないようになっているのである。

スポーティ派にオススメなのはNX350

新型レクサスNX。NX350hのフロントビュー
新型レクサスNXで、ボディとシャシーの一体感が際立っていたのはNX350 。4WDの制御やステアリングレスポンス、電子制御ダンパーのセッティングなど、すべてが巧く仕上がっていた。

新型NXではこういうことをしたかったんだろうなと分かるのはNX350だ。ボディとシャシーがガッツリと一体化していて、走行中は塊感のようなものを感じ、塊感があるとボディは小さく感じる。NX350はF SPORTの設定しかなく、F SPORTには電子制御式ダンパーのAVSが装着されている。

加えて、4輪駆動のシステムは電子制御式のフルタイムAWDで、状況に応じて前後駆動力配分を75:25から50:50の間で随時可変する。NXではこの駆動形式を最適なトラクションの確保だけでなく、曲がるサポートにも使っている点が新しい。例えば発進時には後方へ荷重が移動するように、駆動力の変化はばね上の動きを誘発する。この原理を利用して、コーナリングの制動から旋回、そして再加速までの姿勢変化をスムーズかつ最小限にすることをうまくやっている。

ステアリングレスポンスはよく、その後のヨーゲインの立ち上がりを他のモデルよりも若干早くしてスポーティなハンドリング特性とした。AVSの制御も悪くなく、減衰は比較的速いものの乗り心地には悪影響を及ぼさない絶妙なセッティングである。470Nmの最大トルクは1700rpmから3600rpmまでという幅広い範囲で発生するので、どこからアクセルペダルを踏んでも力強い加速が得られるし、4輪にもしっかりトラクションがかかっていることが伝わってきた。

しっとり&ゆったり派にイチオシがNX250

新型レクサスNX。NX350hのサイドビュー
新型レクサスNXはPHVの「450h+」から自然吸気直4の「250」まで、ユーザーの好みを漏らさず捉える多様なパワートレインを設定した。エントリーグレードの「250」からは全般的に“素”の良さが感じられた。

そこまでスポーティじゃなくてもいいと思うなら、NX250がお薦めである。乗り心地も加減速もハンドリングもどちらかと言えば“しっとり”で統一されていて、ゆったりロングドライブを楽しむなんてときにはうってつけである。パワースペックは201ps/241Nmといたって平凡な数値だが、実は車両重量が1番軽いので(試乗車の前輪駆動は1650kgでNX350hの前輪駆動より110kgも軽い)、じれったい思いをする場面はまったくない。トルクカーブはきれいな線形で、なおかついわゆる“トルクのつきがいい”から、アクセルの踏み込み量に対してリニアでジェントルな加速が得られる。コンベンショナルなダンパーもしっかりと減衰してくれて、速度や路面を問わず同じような乗り心地が常にもたらされた。

レクサス初となるPHEVのNX450h+は、満充電で88km(WLTCモード)のEV航続距離を実現している。PHEVは防音対策がひとつのカギとなる。EVモードでは当然のことながらエンジン音がしないので、エンジン音に隠れていた音が耳に届いてしまうし、エンジンがかかった途端に騒がしくなるようなことも避けなければならないからだ。EVモードでの静粛性はとても高く、それでも加速感や車速はけっこうなもので、内燃機とは明らかに異なるこうした風景がEV、あるいはPHEVの特徴のひとつと言える。ところがエンジンがかかると想像以上にエンジン音がキャビンに入ってきた。

そうはいっても「ウルサイ」と感じるほどではないので音量自体は許容できるけれど、音質はちょっと看過できなかった。というのも、ヤリスやプリウスのハイブリッドと酷似した音質だったからだ。せっかく“にわかEV”の静粛性を楽しんでいたのに、そこに「ウィーン」というトヨタ製ハイブリッド特有の音が飛び込んできて、一気に興醒めした感じである。NX450hは700万円以上もする立派な高級車なのに、その音がヤリスやプリウスと同等というのはちょっとどうなんだろうと思った。これはNX350hも同様だった。

総じて「飛躍的に進化」、気になったのは・・・

新型レクサスNX。NX350hのリヤビュー
新型レクサスNXの車両価格は、エントリーグレードの「250」が455万円〜、F SPORTのみの設定の「350」が599万円、ハイブリッドの「350h」が520万円〜、そしてフラッグシップグレードのPHEV「450h+」が714万円〜となっている。

今回の試乗会では全車が20インチのランフラットタイヤを履いていて、それでもNX350とNX250の乗り心地はよかったのに、どういうわけかNX450h+とNX350hはイマイチだった。具体的には、NX350やNX250ではほとんど感じなかったばね下の重さが気になり、実際に路面状況によってはバタつくようなこともあったのである。ハンドリングに関しても、ステアリングの切り始めにスッと動くまではいいものの、ターンインでリヤが突っ張ってフロントのアウト側に荷重が寄ってしまうような挙動を見せた。ハイブリッドの2台は共にこうした傾向が見られた。

実はNX350にはボディに補強が入っていて、それがあの塊感やスポーティなハンドリングにひと役買っていたと推測できる。NX250はおそらく車重と動力性能と操縦性がちょうどいいところでバランスよくまとまっているのだろう。一方でハイブリッドの2台は重量増の分を消化しきれていない印象を持った。おそらく売れ筋はハイブリッドになるだろうから、早急な改良が必要と思われる。新型NXは全般的に従来型よりも飛躍的に向上しており、将来的なレクサスの方向性を示唆するモデルになっていると思うけれど、仕様によって乗り味に差が生じている点だけがちょっと残念だった。

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
PHOTO/峯 竜也(Tatsuya MINE)

メルセデス・ベンツ C 200 4マティック オールテレインのフロントビュー

メルセデス・ベンツ Cクラスに「オールテレイン」登場! 渡辺慎太郎がドイツで初試乗

メルセデス・ベンツは、新型Cクラスのステーションワゴンをベースにした「Cクラス オールテレイン」を投入した。車高を引き上げ4WDシステムを組み合わせ、悪路走破性を高めたクロスオーバー仕様とし、Cクラスの多用途性を一段と高めている。そのCクラス オールテレインに、自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎がドイツで試乗。その結果、意外にも見つかったのは“あのメルセデス”との共通点だった。

【SPECIFICATIONS】
レクサス NX350h “version L”
ボディサイズ:全長4660×全幅1865×全高1660mm
ホイールベース:2690mm
トレッド:前1605 後1625mm
車両重量:1790kg
エンジン:直列4気筒DOHC
総排気量:2487cc
最高出力:140kW(190ps)/6000rpm
最大トルク:243Nm/4300 – 4500rpm
トランスミッション:CVT(無段階変速機)
駆動方式:FWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ:前後235/50R20
車両本体価格(税込):608万円(テスト車:722万700円)

【問い合わせ】
レクサス インフォメーションディスク
TEL 0800-500-5577

【関連リンク】
・レクサス 公式サイト
http://www.lexus.jp

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著者プロフィール

渡辺慎太郎 近影

渡辺慎太郎

1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、1989年に『ルボラン』の編集者として自動車メディアの世界へ。199…