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Ferrari Roma
藍染め、着物、刀、茶筒、家紋に着目
フェラーリは、日本の伝統技法である藍や着物、刀、茶筒、家紋などからヒントを得るとともに、各方面のプロフェッショナルに協力を依頼し、“和風スペチアーレ”ともいえる世界に1台のローマを作り上げた。
同社は近年、顧客の好みに応じて多彩な仕様に仕上げることのできるテーラーメイドプログラムを展開してきた。今回作られたローマは、そのテーラーメイド部門の確かな手腕と、高い美的感性をアピールするのに十分過ぎるほどのインパクトをもつ。
フェラーリの製作陣が徳島県を訪ねた理由
日本に古来から受け継がれてきた伝統工芸品や職人技に着目したのは、フェラーリのチーフ・デザイン・オフィサーのフラヴィオ・マンゾーニ氏。そして、今回の製作に協力した米国の独立系出版社、クール・ハンティング社の創設者であるエヴァン・オレンステン氏。2人は調査のために数回訪れた日本のものづくりに、「すっかり心を奪われていた」といい、その手法をテーラーメイドに落とし込むこととなった。
本車モデルのテーマカラーといえるのが「藍」。藍は日本の伝統的な天然の染料で、古くは着物に、今もデニムやバッグなどに幅広く使用されている。現在、徳島県には5軒の藍農家が残っているが、そのうちの一軒を製作陣が訪問。その製法や本物の色合いをその目で実際に見て学んできたという。
そうして生み出されたのが「インディゴ メタル」と呼ぶ特製の外板色。よくあるネイビーとは異なる、ほのかに緑がかった複雑なトーンで、工業製品にはなかなかお目にかかれない色味である。
日本古来の“リサイクル製法”も駆使
藍色のテーマはキャビンにも使われている。ここで使用されたのが、なんと本物の着物。しかも、使わなくなった着物を裂いて織り上げる日本古来の「裂き織り」である。古い織物を新しい生地としてリサイクルするというサステナブルな手法は、古く江戸時代から行われてきたという。
シートやカーペットに使われたのは、約75年前の藍染めの着物と、約45年前の大島紬。後者は藍染めの糸と、奄美大島の泥初めの糸を用いて織り上げられたものである。伝統的な「裂き織り」は、着物を裂いたものに綿や絹の糸を織り込んで仕上げるが、今回は自動車の部品として十分な耐久性を確保するべく、伸張性のあるナイロンが用いられた。ちなみに、この新しいファブリック材自体も、奄美大島を拠点とする大島紬の織元「はじめ商事」が製作している。
日本とイタリアの伝統的製法がコラボ
天井部には、日本とイタリア職人の技術が融合したルーフライナーが張り込まれている。染色には、京都で藍染めを手掛ける「浅井ローケツ」が協力。単色で染め上げたものと、「ろうけつ」という技法で柄を書き込んだものと、2枚のレザーが“原材料”となっている。ちなみにろうけつ技術の発祥は8世紀にまで遡るといい、蝋で防染することで、単色の地に複雑な反復模様を浮かび上がらせる製法を指す。着物や帯の装飾に広く用いられてきた職人技術である。
職人の手作業により完成した2枚のレザーはイタリアへ送られた後、帯状にカット。今度はイタリアのアルチザンが「イントレッチオ」と呼ぶ編み細工を施し、一枚のタペストリーとして仕立てあげた。
オリジナルの家紋も製作
銅めっきを採り入れたシフトゲート周りのデザインは、京都の老舗、開化堂の茶筒が発想元となっている。蓋を茶筒の口にそっと合わせるだけで、スーッと自然に閉まっていく精密精巧な作りの茶筒は世界で高く評価されてきた。また、インナードアハンドルにも、日本が誇る技法にオマージュが捧げられている。ブラックの革紐を手作業で巻き付けたデザインは、刀を握る部分、柄(つか)を覆う柄巻に着想を得たものだそうだ。
この特別なローマの画竜点睛ともいえるのが、「家紋」をモチーフにした世界に1つだけのエンブレム。東京で家紋を専門にデザインする「京源」協力のもと、牛車の車輪+8スポーク+8つの波を組み合わせたオリジナルのシンボルが生み出された。8は、ローマが搭載するV8エンジンを象徴する数字だ。
日本の様式美がふんだんに盛り込まれた世界に1台のローマは、ニューヨーク・デザイン・ウィーク期間中、パークアベニューにあるフェラーリ・テーラーメイド・ショールームに展示されている。