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ヘリで重機を運ぶべきだった?
狭隘な能登半島では、地割れや土砂崩れで道路が寸断された箇所も多く、発災直後には徒歩で被災地に向かう自衛隊部隊の姿も見られた。こうした状況に対して「ヘリで重機を吊下げて輸送すれば、迅速な人命救助や復旧に活用できたはずだ!」との批判をする者がいる。そもそも自衛隊のヘリで重機を懸吊することは可能なのだろうか?
可能か不可能か、で言えばヘリによる空輸は可能だ。実際、2004年の新潟県中越地震では、陸上自衛隊の大型輸送ヘリ「CH-47」が重量約12トンのバックホウ(油圧ショベルカー)など複数の重機や発電機を、陸路が寸断された被災地に輸送している。だが、それは決して簡単な作業ではなかった。以下、国土交通省北陸地方整備局の記録をもとに、解説をしていこう。

分解と再組み立て—思いのほか手間のかかる空輸
まず、同記録は「大型ヘリの輸送可能重量は6トンであったため、すべての資機材は6トン以下に分割輸送する必要」があったと記している。スペックの上では、CH-47は最大11トンを懸吊可能だが、もともと空輸を想定した専用車両ではないため、輸送中の機体バランスなどによる制限があったのではないかと思われる。
また、分割されたバックホウを組み立てるため、現地に組立用のクレーン(7.3トン)が必要となったが、このクレーンも分割輸送しなければならない。そのため、「バックホウを組み立てるクレーンを組み立てる」ための小型クレーン(3.2トン)を最初に輸送し、段階的に組み立てるという手間のかかる作業となったようだ。

このときは4台のバックホウが空輸されたが、記録によれば、分解作業に36時間を費やしている。さらに、ヘリ懸吊時のバランスを確認する作業に1日、現地での組み立てにも2日かかり、単純計算でも稼働までに4.5日を要している。バックホウや人員の手配を考えれば、実際に重機が被災地で活動できるようになるまでには、さらに多くの日数が必要だろうことは間違いない。
災害救援におけるヘリの役割
以上にように、ヘリによる重機の空輸は簡単でもないし、迅速ともいかない。少なくとも、人命救助のタイムリミットと言われる災害発生後72時間には間に合わない。いっぽう、自衛隊は震災発生から3日後の1月4日には、近海に展開した輸送艦「おおすみ」から、ホバークラフト揚陸艇LCACを用いて重機の陸揚げを開始しており、わざわざ空輸する必要性は乏しい。そもそも、中越地震の事例も、陸路が寸断された山間部での河道閉塞に対する仮設排水路の建設という、特定の状況下で行なわれている。

ヘリの真価は、災害発生直後に被災地へダイレクトにアクセスし、物資を送り届けたり、被災者を安全な避難場所に移送したりするなど、「命をつなぐ」ことにあり、能登半島地震の救援活動でも、大きな役割を果たしたことは間違いないだろう。
