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「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R(イチニーアール)」は軽量なロードスターソフトトップモデルに2000ccガソリンエンジンを日本向けに初搭載したモデルをベースに更にエンジン内部にまでチューニングを施し、最高出力200馬力(147kw)(ノーマルの184馬力(135kw)から16馬力(12kw)プラス)まで向上させた注目のモデル。
2025年秋から予約を受け付け、限定200台で同年内の発売予定。車両価格は700万円台後半。

「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」はスーパー耐久のレーシングカー12号車を彷彿とさせるエアログレーのボディカラーと随所にレッドを差し色に入れて、「MAZDA SPIRIT RACING」のイメージリーダー的存在感を放つ。濃いめのグレー塗装の特徴的なエアロパーツ、ボンネット中央のレーシーなセンターストライプも標準装着される。

「12R(イチニーアール」のネーミングの由来はこのスーパー耐久レース出場車両のゼッケン「12」。このエアロやホイール、ボディーカラーなどが「12R」用にアレンジされ、「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R」として市販される。エンジン、シャシー、内外装に至るまで随所にレース活動で得られた知見が落とし込まれたコンプリートカーだ。

「12R」のフロントリップスポイラーはグレー色でセンターに凹みのあるデザインが特徴的でフロントバンパー中央下部には赤いセンターラインも入る。フロントグリルは艶のあるブラックの専用メッシュデザイン。少しでもフレッシュエアを取り入れるため、ACC(アダプティブ クルーズ コントロール)は装着不可というストイックさ。フロントノーズのマツダエンブレムは通常のメッキではなく、ダークメタルシルバー色へと変更されている。

フロント同様にセンターに凹みのある特徴的なトランクリヤスポイラー。その下のエンブレムもダークメタルシルバーに変更されており、ROADSTERエンブレムの横には「MAZDA SPIRIT RACING」のロゴ、右側には「12R」のエンブレムも装着される。濃いグレー色のアンダースポイラーはセンターにフロント同様の凹みを設けることで、サーキット走行時に横風の影響を受けにくくなる。メッシュ部分はダミーではなく、本物のメッシュでエアが抜ける様になっており、本物の「レースで得られた知見」が感じられる。専用開発のチタンマフラー(フジツボ製)はシングル出しの大口径で迫力がある。

「12R」は専用ボディカラーのエアログレーのみ。サイドの「MAZDA SPIRIT RACING」ロゴデカールも標準装備。Cリング車高調整式ビルシュタイン製ダンパーによって低められた車高とセンターストライプ、濃いグレーの専用サイドステップ、ブラックカラーの専用レイズ製ホイールなどによって、「12R」のサイドビューはNDシリーズの中でも特に薄く、伸びやかに見える。
「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R(イチニーアール)」は2000ccソフトトップの「マツダ スピリット レーシング・ロードスター」をベースにエンジン内部にまで手が加えられた200台限定車だ。「12R」のネーミングは実際にスーパー耐久レースに「MAZDA SPIRIT RACING」として参戦しているロードスター12号車(ゼッケン12番)に由来する。この12号車のレース活動で得られた知見が落とし込まれたコンプリートカーなのだ。
「12R」のエンジンはは完成車両からわざわざ降ろしてバラされ、専用カムシャフト、専用ピストン、専用コンロッド、専用エキゾーストマニホールド(なんと遮熱バンテージまで巻かれている!)などのスペシャルパーツへと変更。非常に手間のかかるポート研磨(16バルブなので16箇所も!)が施された専用ヘッドなどを採用し、それらを1基ずつ手組みで緻密に組み上げる。レース用エンジンに近いアナログなチューニング手法と工程を経て車両に搭載されるのは非常に珍しい。
これを自動車メーカー自らが行い、保証付で販売するなど滅多にあることではない。ここまでエンジン内部に手が加えられたのは伝説のコンプリートカー「M2 1001」以来、実に30年以上振りの大事件なのだ。
またこのエンジン性能を活かすべく専用オプションが設定されている。スポーツマフラーは複雑な形状をしているがチタン製であるためかなり軽量だろう。独特の形状から、アクセルOFF時の回転落ちに対する排気対策、騒音、レスポンスアップなどが期待できる。年々厳しくなる騒音規制をクリアし、どのような「サウンド」を響かせてくれるのか、とても楽しみだ。
ハイカム、ハイコンプ(高圧縮)と吸排気チューニングの最適化は、パワーとトルクの向上、レスポンスアップが見込めるだろう。当然それに対応する専用チューニングのコンピュータセッティングも施され、元気よく、パンチのあるエンジンに仕上がっているのではないかと期待が膨らむ。コンピュータチューニングは、サイバーセキュリティ対応となった現在、チューニングが困難となっている現状、メーカー自らワークスチューニングによってこれらのセッティングが施した車両が用意されることはとてもありがたい。
シャシー系の強化も抜かりない。アドバン・ネオバAD09タイヤとその性能をフルに引き出すべくラインナップされるビルシュタイン製ダンパーと専用スプリング、スポーツアライメントキットは強化ブッシュ&ショートバンプストッパーへと変更、ブレーキ系にはスリットローター&スポーツパッドなどが用意される。
エクステリアはレースで得た知見からデザインされた特徴的なエアロパーツ。インテリアは「12R」専用RECARO製バケットシート(アルカンターラ製)を標準装備するのがベース車との大きな違いだ。
俊敏なレスポンスのエンジンとソリッド感溢れるシャシー、信頼性とコントロール性の高いブレーキ性能など、「走る」「曲がる」「止まる」の性能が一段と引き上げられ、スポーツ走行を存分に楽しめることが想像できる。しかもそれが1000kg台のライトウェイトFRのロードスターで得られるのだから楽しみだ。サーキットの連続走行であってもおそらくヘビー級スポーツカーほどタイヤや駆動系の負担をあまり気にせず、連続周回が可能だろう。

ブラックの結晶塗装が施されたSKYACTIV-G 直噴4気筒DOHC 2000cc PE-VPR[RS]型エンジンはノーマルをベースに専用ピストン、専用カムシャフト、専用コンロッド、専用エキゾーストマニホールドなどを採用し、更にポート研磨まで施された専用ヘッドを持つ手組みのエンジンで 最高出力200馬力(147kw)はノーマルの184馬力(135kw)から16馬力(12kw)プラス。
カムカバーにはシリアルプレートが貼り付けられる。ブラックの太い専用ストラットタワーバーはアルミ製。

ロードスターのパワーとトルクを高めるために有効なフジツボ製専用エキゾーストマニホールドを採用。排気効率を大幅に向上させている。展示されていた市販予定の「12R」には手間がかかるが遮熱効果のあるバンテージが1本、1本丁寧に巻かれているが、これもこのままの形で販売されるという!

フジツボ製チタン製マフラーはおそらく純正より大幅な軽量化となっているのではないか。騒音規制が年々厳しくなっている中でどのようなサウンドを奏でてくれるのだろう。複雑な形状をしているパイプは音量や音質のためなのか、低速トルクを出すためか、それともアクセルON/OFF時のレスポンスを向上させるためなのか?興味は尽きない。

ポート研磨された専用ヘッド、専用ピストン、専用コンロッド、そして専用カムシャフトなどを職人が1基ずつ丁寧に組み上げ、黒い結晶塗装が施されたカムカバーには限定200台の証、シリアルプレートが貼りつけられる。

「12R」専用ホイールは鍛造のレイズ製TE37ベースでブラック色にリム切削、「MAZDA SPIRIT RACING」のロゴ切削加工、専用センターキャップも装備。タイヤは205/45R17のアドバンネオバAD09、ハイグリップタイヤを採用する。

フロントはブレンボ製アルミ4potキャリパーで赤く塗装され、ブレーキローターもブレンボ製ベンチレーテッドディスク、サーキット走行にも対応するスポーツパッドが装着されている。ビルシュタイン製ダンパーはRS装着のものではなく、NR-Aに採用しているCリング車高調整機能のついた大容量ダンパーをベースに「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R」専用の減衰力、専用スプリングを採用する。

リヤキャリパーは純正のレッド塗装仕上げ。強化ブッシュ&ショートバンプストッパー、スポーツアライメントキットなどによってサーキット走行をそのまま楽しめる仕様としているが、一般道での快適性も考慮したセッティング。

「12R」専用のRECARO製フルバケットシートもアルアカンターラ製でリクライニング機構も持たない本格派。サーキットでもかなり頼りになるホールド製がありそうだが、前端部分はカットされており、乗り降りがしやすそうだ。

「MAZDA SPIRIT RACING」のロゴ入りのサベルト製4点式シートベルト、3点式シートベルトもレッドカラーだ。ヘッドレストには「MAZDA SPIRIT RACING」のロゴ刺繍、エンブレムも入っている。
「12R」のインテリアは質感の高いアルカンターラを随所に使用。ステアリング、シフトノブ、サイドブレーキグリップセンターコンソール、ドアパネル、そしてフルバケットシートなどシルバーステッチ。ステアリング中央にはレッドのセンターマーク。一方でマツダエンブレム、シフト周り、ドアインナーハンドルなど通常シルバーの加飾部分はダークシルバー調、エアコン吹出口やスイッチ周りはブラックのプラスチックを採用して光り物を少なくしている。ダッシュボード下部のアルカンターラのみレッドステッチを採用し、その助手席前とフロアマットには「MAZDA SPIRIT RACING」のロゴが刺繍されている。

伝説の「M2 1001」とは
初代ユーノスロードスターベースに300台限定で販売され、もはや伝説ともなっているコンプリートカー「M2 1001(エムツー イチマルマルイチ)」をご存じだろうか。「M2」とはマツダの子会社で1991年から数年、世田谷区砧にM2ビルを構えてロードスターやAZ-1をベースとしたコンプリートカーを限定で企画販売していた会社で「M2」は「2番目のマツダ」を意味する。
その第一弾として1991年に発表、1992年に発売されたのが「M2 1001」で発売当時の車両本体価格は340万円。ベースとなったロードスターが170万円なので約2倍の価格。そして、ほぼ同時期に発売された「アンフィニRX-7(FD3S)」が360万円からだっただけに当時誰もがその高額な価格設定に驚いた。更に購入希望者は実際にM2ビルに足を運んで抽選申込みをしなければならないという高いハードルを設けたにも関わらず、300台に対して、購入希望者が殺到し、約7倍の倍率となった。
「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R(以下 「12R」)」もチューニングスペック内容とベース車の約2倍の700万円台後半という高額な価格設定など、この「M2 1001」を彷彿とさせる。エンジン内部、サスアームブッシュ、フルバケットシート採用のインテリアなど大幅に手を加えられている点など「M2 1001」と「12R」と共通する部分は多岐に渡る。

筆者は当時、レース参戦を続けながら一方では、「M2 1001」を愛車として手に入れ、30年以上に渡って所有し続けてきた。「M2 1001」は普通のロードスターよりパワフルでレスポンスに優れたエンジンと鋭いハンドリングの走りなど、他では味わえない「特別なロードスターに乗っている」という、所有満足感に溢れていた。「M2 1001」で行われていた専用カムシャフト、専用ピストンの採用やポート研磨といった変更点や手組みのエンジンチューニングのレスポンスの良さ、パンチの効いた元気な加速、基本に忠実なドライビングテクニックを習得しなければ操れないサスペンションセッティングなど、自動車メーカーから発売されたクルマとは思えないスパルタンなクルマだった。
筆者はこのクルマでサーキット走行し、ドライビングテクニックを磨き、エンジンやサスペンションチューニングの楽しさを覚えた。その後の人生に大きな影響を与えてくれたことを思えば、340万円の車両価格は今となっては安く感じる。そして今尚、「M2 1001」の現在の中古車相場は新車当時の価格以上。もちろん物価がまるで違うが、ファンの憧れの存在として、価値あるクルマとして根強い人気があると言えるだろう。
2000ccソフトトップモデルを熱望するロードスターファンのために
「マツダ スピリット レーシング」代表の前田育男氏(左)とピストン西沢氏(右)によるトークショーが行われ、「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R」の話題を中心に会場は大いに盛り上がった。

トークショー終了後、筆者が「マツダ スピリット レーシング」代表の前田育男氏を呼び止めて2000ccロードスターについて聞くと「1500ccモデルで「幅広い層へ運転の歓び」を届けるマツダの活動は素晴らしいものだが、一方でレースや走行会などモータースポーツで経験を積んだドライバー、ある程度のドライビングスキルを持つドライバー達にとっては1500ccでは物足りないのも事実。彼らから「2000ccのロードスターが欲しい」という要望もあり、私自身も2000ccないとサーキットなどでは物足りない思いがあったので、少数派ではあるけれど必ずいる「クルマの運転が大好きなドライバー」のために「マツダ スピリット レーシング・ロードスター」を発売した」と語ってくれた。

「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R」は、内外装、エンジン、シャシーと細部までレーシングテクノロジーが詰め込まれた凄いクルマだ。しかしながら拘りの変更箇所があまりにも多岐に渡り、バランス良くまとめられているが故に、よく研究しないと走りを重視した「レーシングスポーツ」なのか高級で上質なパーツを詰め込んだ「プレミアムスポーツ」なのか、キャラクターが分かりにくく、誤解を生みやすいのではないか。
「12R」一番の注目点はやはり手組みのメカチューンによるエンジンだろう。安易なターボ化や排気量アップではなく、自然吸気エンジンらしさを重視した基本に忠実なチューニングによってパワーアップとレスポンス向上を目指している。サーキットやスポーツ走行時の気持ち良さに重点を置いて開発されているであろう「12R」のエンジンは実に魅力的だ。昨今の厳しい排気ガス規制、騒音規制をクリアするのが容易ではな時代の中で、燃費にも厳しい目が向けられている。またユーザーは自身のドライビングテクニックを磨くより、スポーツカーにまで運転の安楽さを要求する人が増えている。そういった時代の変化の中で「M2 1001」のような乗り手を選ぶ、研ぎ澄まされたクルマを発売するのは非常に困難だ。
「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R」は私たちにどんな走りを見せてくれるのだろうか。限定ではない「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER」も用意されていることから、市販車とは思えないほどアクセルのON/OFFに即座に対応する「これはワイヤースロットルではないの?」と思うような鋭い電子制御スロットルのセッティング、アクセルOFFでは鋭く回転が落ちて、しっかりとエンジンブレーキ効果が出るようなセッティングを期待したい。辛口なモデルの発売が難しくなってきている昨今だからこそ、「12R」のような車両だけでもクルマ好きが唸るような「乗り手を選ぶレーシーで官能的なエンジン」を期待しているのは筆者だけではないはずだ。ドライバーを甘やかすのではなく、「これを乗りこなしてみたい!」と思わせる「プロが使う道具」のような骨太なスポーツカーであって欲しい。何をやってもエンストしない、ギクシャクしない、「クルマとの対話」が出来ないクルマはドライビングスキルの高いドライバーにとっては物足りないのだ。「12R」が万人向けではない、プロ好みのセッティングであることを祈るばかりだ。

ニュルブルクリンクでも独自にテスト走行を行い、これだけ拘って、細部まで手が加えられたスペシャルな「12R」の価格は700万円台後半。この価格は自動車メーカーが販売する手組みエンジンのコンプリートカーとしては「安すぎる」とも言えるものだが、一方でこれを普通に「ロードスター」クラスという見方をするならば、「高すぎる」という意見になるだろう。この他とは比較にならない「独自の拘り」「独自の文化と哲学の価値」を理解できるユーザーが日本市場にどれだけ育っているのか、発売時の動向に注目したい。もちろん、筆者は「12R」のようなモデルを発売してくれることを高く評価している。
「サーキット走行をこよなく愛し、究極のエンジンを搭載したNDロードスターで走ってみたい!」という方、「NDロードスターのデザインが大好きで究極のNDが欲しい」「メーカー自身が限定販売する手作りの稀少価値もあるNDを所有したい」「12Rの目指す走り、デザイン、色使いなど全てにワクワクし、共感する」そんなマツダファンにとって、「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R」をど魅力的なモデルはない。また今後のガソリン車を取り巻く環境の問題や過去の自動車歴史を振り返ってみても「12R」のようなモデルが再び生まれる可能性はかなり低い。それは「M2 1001」からの歴史を振り返るとわかるように「12R」の発売は「30年に一度の奇跡」なのだ。
「MAZDA SPIRIT RACING」は「MAZDA」と別ブランド展開とすることで、2000ccのNDロードスターを日本初の発売へと漕ぎ着けた。「不可能と思われていたことを現実にする」のは、モータースポーツとスポーツカーを愛する情熱がなければなかなか出来ないことだ。前田育男氏が代表を務める「MAZDA SPIRIT RACING」は第一弾として「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R」と「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER」の発売を発表した。その活動とそのスピード感ある実行力に賞賛を送りたい。
また今後、「Mazda3ベースでマツダスピードバージョンのようなスポーツモデルを復活させてくれるのか?」「直結ロータリーハイパワースポーツカーは?」と「不可能と思われていたことを現実にする」彼らから、今後の活動から目が離せない。
その一方で、「MAZDA SPIRIT RACING」の活動自体がスーパー耐久レースへの参戦、eスポーツからのリアルへのステップアップやグッズ開発、車両開発、パーツ開発……とあまりに多岐に渡りすぎていて、「これがやりたい!」というメッセージがダイレクトに伝わりにくいと感じているのは筆者だけではないだろう。せっかく1つ1つは素晴らしい活動なのに全体として、どこか曖昧なものに感じたり、よく研究しなければ価格を割高に感じてしまうのではないだろうか。例えば高価な「カーデザインの専門書」を買って読んでもちょっと難しすぎて最後まで読めない感じに似ているというか……もっと明確で解りやすく、「求心力のある展開」を今後の「MAZDA SPIRIT RACING」に期待したいし、筆者自身も今後もっと深く取材して、読者が理解しやすいように情報を整理し、注目点を端的に伝えていきたい。
「マツダ スピリット レーシング・ロードスター 12R」フォトギャラリー


























































