「自信作!」新型ホンダ・ステップワゴン わくわくゲートはどうなった?開発責任者に訊いた

新型ステップワゴンと開発責任者の蟻坂篤史さん
2022年春に発表・発売される6代目となる新型ステップワゴンの開発責任者は、蟻坂篤史さん(本田技研工業 四輪事業本部ものづくりセンター)だ。蟻坂さんに新型ステップワゴンの開発の舞台裏を訊いた。
新型ステップワゴン。左が「AIR」右が「SPADA」

わくわくゲートはどうなった?

開発責任者の蟻坂篤史さん

MF:今回のステップワゴンは6代目です。先ほどデザイナーの方にも伺ったんですが、初代とか2代目に回帰するという部分があると思います。ステップワゴンのようなミニバンは、モデルサイクル長いですね。5年ではなく、先代ステップワゴンも、7年(先代のデビューは2015年4月)です。となると、新型の開発は、いつ頃から始まるものなんですか? 
蟻坂篤史さん(以下蟻坂):(笑)それは、言えないことなんです。

MF:伺いたかったのは、先代は、わくわくゲートを含めてちょっと変わったことをトライしていました。それがマーケットで受けたのかどうかを見極めてからじゃないと新型の開発の方向性が決められないのではないか……と。
蟻坂:見極めてます。

MF:見極めた結果、新型はこういう方向に戻った方がいいという判断した、と。なるべくシンプルに、という方向に行こうと。
蟻坂:正直言って開発をスタートした頃、私はわくわくゲートはオプションとして残したかったんですよね。ただいろいろ検討はしたんですよ。まず、わくわくゲートを購入された方は非常にこれは使えるってみなさん口を揃えておっしゃるのですよ。その一方で、最初のデザインが非対称であることがリジェクト要因になって、はなっからショッピングリストに載らない方も非常に多かったんですね。

MF:なるほど。好き嫌いがはっきり分かれたわけですね。
蟻坂:それで営業サイドからあれ(わくわくゲート)はもうダメですっていう話がありました。その後、いろいろスケッチを描いてみて、対称に近いけれどもいわゆる縦線があってワクワクがあるようなデザインを調査にかけたんです。その結果、リヤゲートに縦線があるのが嫌って結論なんですよ。そのデザインは嫌だっていうのが圧倒的でした。それでわくわくゲートをオプションしようとするとコストがかかりすぎる。全車に採用しない限りはわくわくゲートはありえないっていう話になりました。ただやめるだけでは芸がないので、それに代用できるような装備としてPTG(パワーテールゲート)を用意しました。それもですね、わくわくゲートが開くこの後ろまででPTGを開けると、どのくらいの荷物が詰めるかを考えると、ほぼこれは事足りるね、となりました。わくわくゲートをほぼ代用できると言い切れはしませんけど、それに近いことはできる、と。これで代用させる話と同時に、「そもそも論」になったんですよ。「そもそもテールゲートを開けて荷物を入れる時ってどういう時?」ってことです。買い物行ったら普通にスライドドア開けて後部座席に置くよねって。お母さんがわざわざテールゲートの中に荷物を入れる頻度って、そんなないんですよ、そもそも。だとすると、PTGでこと足りて、それで新型はロングスライドがあるから、後ろをすごく広くできるので、なんでもここに積めちゃうよね、と。だとすると、あえてわくわくゲートを入れないでもこと足りるね、となりました。

MF:PTGはスパーダ(SPADA)に標準装備していますね。
蟻坂:はい。エアー(AIR)はあえてPTGをなしにしたんですよ。それでも結局、これで問題にはならないだろうと、考えています。ただし、今後は市場の声、お客様の声を聞いてどうするか決めればいいよね、と思っています。

ミニバンネイティブに向けた新型ステップワゴン

新型ステップワゴンのターゲットは、
「30~45歳 子育て期・年収400~800万円」だとしている。そして、
「STEPWGNが誕生した1996年、2021年30歳になるターゲットは5歳だった」として、
ホンダは、彼ら・彼女らをミニバンに慣れ親しんだ世代=ミニバンネイティブ、と定義した。

新型ステップワゴンAIR

MF:プレゼンテーションで”ミニバンネイティブ”という話がありました。生まれた時からミニバンがあって、ミニバンに乗って育ってきてる世代が買うというお話です。ミニバンネイティブは、デザインも含めてどのくらい商品開発を左右するのか。1996年の初代ステップワゴンが爆発的に売れました。その前にオデッセイの大ヒットがあって、こういう商用車っぽくないピープルムーバーが、道具としてすごく楽しくてキャンプにもいくし買い物にもいく便利さに、みんなが憧れてすごく売れた。そこで子供時代を過ごした人が、今30代40代になっているってことですね。
蟻坂:私はミニバンネイティブではなかったので、オデッセイを買いました(笑)。やっぱり、当時はああいう箱型にはちょっと抵抗がありまして、オデッセイに流れたんですけど(笑)、おそらくミニバンネイティブたちはそういう感覚がないだろうな、と。最初からミニバンは楽しいものだと思ってるはずなんですよ。家族でみんなで出かけられて。だからこそ、ミニバンネイティブは、楽しかった思い出をそのまま、こういうクルマで出かけたいなっていうようなものを新型ステップワゴンで感じていただきたいなと思っています。

新型ステップワゴンは「自信作」と言い切る蟻坂さん

MF:ところで蟻坂さん、今おいくつなんですか?
蟻坂:59歳です。
MF:僕も50代です。ミニバンネイティブじゃないから、こういうミニバンを30代40代の頃に買おうとは思わなかった。ある種の抵抗があるっていうのはよくわかります。
蟻坂:最初にミニバンを見た時に買おうと思ったのは、やっぱりオデッセイなんですよ。普通のクルマに見えるから。でもミニバンネイティブの人たちはまったく抵抗がないんですよ。だからこそ、ミニバンネイティブに、進化したミニバンを見せてあげたい。
MF:そうしたら初代、2代目みたいなところに戻ることになったわけなんですね。
蟻坂:じつは2代目ステップワゴンを中古で購入してデザインスタジオに置いてみたんです。みんなで見て、これよくできているね、と。当時は安全基準も違いますから、シートをひっくり返したり、ぐるっと後ろ向けたり……これは確かに今みたいだわって。こんな風にしたいねって。それがソフトパッドを通したり、そういういろいろなところに繋がっています。

エアーとスパーダ、ふたつの方向性

新型ステップワゴンには、エアー(AIR)とスパーダ(SPADA)というふたつのラインがある。他社も含めてこのクラスのミニバンは、エアロパーツを装着したモデルの方が人気が高い。トヨタ・ノア/ヴォクシーなら「煌」「W×B」だし、日産セレナなら「ハイウェイスター」、そしてステップワゴンなら「スパーダ」である。

先代ステップワゴンでは、スパーダの販売比率が90%だった。新型では「SIMPLE & CLEANのAIR」と「STYLISH & QUALITYのSPADA」というふたつのラインを両立させたいと考えている。

ホンダがミニバン購入意向者に「理想のスタイリング世界観」を訊いたところ、「グリーン、温かさ、シンプル」なナチュラル志向の層が29%もいたという。今回のAIRは、そういう層に向けて開発された。

「AIR」が目指すもの

AIRのコンセプトを表したスケッチ
新型ステップワゴンAIR

「SPADA 」に担う役割

SPADAのコンセプトスケッチ
新型ステップワゴンSPADA

MF:新型ステップワゴンは、エアーとスパーダで商品性を明確に分けました。今までスパーダが9割を占めていました。新型は販売台数が増えると想定した場合、エアーを何%にしたいという目標はあるのですか? スパーダは今まで以上に売れるという前提で。
蟻坂:販売台数は圧倒的に増えていただかないと困るんですけど、ほぼ4割がこっち(エアー)にしたいです。シンプル、ナチュラルを求めている層が約3割いると想定しているので、エアーは、もっと売れるんではないかと考えています。
MF:それはトレンドが変わってきて、流行というかムードが変わってくるからですか。
蟻坂:やはり昨今、家電のカタチが変わってきています。電気販売店へ行くと、キューブ形の洗濯機だとか、デザインを入れたものってシンプルな方向にいってるんですね、どれもこれも。それは兆しだろうと感じています。こういう方向に世の中が流れていく。要は意味のないものをつけるのではなくて、削ぎ落として素にしたような、そういうカタチをきれいに思う方々が増えていくと思っています。だからこそ、こいつ(新型ステップワゴン)がこれから、結構トレンドになっていくんじゃないかな、と。ある意味、勝負ですから。

MF:初代のような大ヒットがまた再現できるといいですね。 第一印象として、可能性は充分あると感じました。きれいでかわいいけど大人が乗れるミニバンだと。
蟻坂:とにかくパッと見てきれいだなんと思えるものにしたかったんですよ。

MF:蟻坂さんはこれまでどんなクルマを担当されてきたのですか?
蟻坂:私は、アジアにいました。ずっとタイにいました。アジア専用機種のアメイズ(AMAZE)、モビリオ、B-RVの3機種を開発しました。ですから、アジアは得意です。アジア諸国ほとんど回っていますから。各国のお客様の嗜好性は、地域は変われど徹底的に調べればわかってきます。日本だから全然違うというよりも、日本は日本人を調べればいいだけで、やることは同じなんですよ。
MF:ということはかなりリサーチをしたのですか?
蟻坂:はい。いろんなところへ行きましたね。ミニバンがあるところは、片っ端から行きました。マンションの駐車場など、いろんなとこ見に行って、まずみんなどういう風にシートを畳んで使っているかを自分の眼で見ました。3列目はどうなっているんだろう? 跳ね上げている人の確率ってどれくらいあるんだろう、とか。そういうのも全部調べたんですよ。なるほどね、こうやって使われているんだっていうのをわかった上で、ちゃんと企画をして作ってます。
MF:それはご自身で回ったのですか?
蟻坂:私は常に一緒に行きます。自分で見てないものは基本的に信用できない人間なんで。

MF:一時期、ミニバンってものすごくシートアレンジできる時期があったじゃないですか? あの多彩なアレンジって本当に使われていたのですか?
蟻坂:聞き取り調査を含めていろいろやりました。シートはどのくらい動かしますか、週に何回?とか全部調べました。結局、シートって一度決めると、そのあとはほとんど動かさないんですよ。
MF:でも購入するときは、きっと違うんですよね。
蟻坂:いろいろなことを考えて買っていただくのですが、実際はもう動かさないです。
MF:難しいですよね、買うときはさまざまシーンを夢見て、こういうシートアレンジができた方がいいって考える……。
蟻坂:現行のわくわくゲートのユーザーは、本当面白かったですね。まず7、8割はゲート側のシートは格納している。それに対して意外と他社さんミニバンは跳ね上げシートは跳ね上げてないんです。そのままシートは出たままになっています。

MF:ミニバンのターゲット層は、30~40代で年収はこれくらい、どこにボリュームゾンがあるか。言い換えると、ターゲットは明確です。
蟻坂:ミニバンは、かなり山がはっきりしているんですよ。例えばヴェゼルだと、年齢に山がありません。フリードだと広範囲に渡っている。フリードだと私くらいの年齢でも買うんでしょうね。しかし、ステップワゴンは、完全にファミリー、子育て世代です。片っ端からデータを見て分析しました。

MF:じゃあ自信作ですね、新型ステップワゴンは。
蟻坂:はい。自信作です。

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著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…