【火曜カーデザイン特集・実感レポート】マツダの "本気" が現れたデザインXC-60

ごまかしをしない “形”をカタチのまま表現 マツダCX-60

縦置きエンジン搭載で登場したマツダXC-60。”魂動デザイン”の新たなフェーズとしての第一歩なのだが、一見するとなんか普通になってしまった、と思うかもしれない。しかしじっくりと見ていくと、新たなフェーズに入ったマツダの本気が感じられるのだ。
レポート:松永大演 / カースタイリング

今の時代にFRレイアウト! しかも直6とは!

EVへと進みつつある今の時代に何で? と思われる縦置きエンジンとして登場するCX-60だが、縦置きエンジンの採用にマツダのデザイン部には歓喜が巻き起こったに違いない。やはり縦置きエンジンのFRレイアウトは、発展期のクルマの原点。そして、プレミアムモデルの象徴とも言える。

マツダとしてもかつては、コスモスポーツ、歴代RX-7、RX-8、ロードスターとスポーツモデルは常にFRレイアウトを採用。コスモもFRだし、カペラもファミリアもおおよそ80年代まではFRレイアウトを踏襲してきた。その後、軽量化やスペース効率の問題から多くが横置きエンジンのFFレイアウトに移行していたのだが、ボディの大型化にあってはFRレイアウトの合理性が見直されてきたとのことだ。直列6気筒エンジンもまた同様に、そのメリットが活かせる時代になったのだという。

マツダRX-VISION
マツダVISION COUPE

直近のコンセプトカーを見てみても、RX-Vision (2015 東京ショー)やVision Coupe(2017 東京ショー)も縦置きエンジン&FRレイアウト前提に見える。コンセプトカーはロータリーエンジンを意識しつつという面もあったかもしれないが、縦置きFRレイアウトが長期的ビジョンであったことは間違いがないと思われる。そんなマツダ全体の姿勢にデザイン部もとびきりの腕を振るったのが、これらのコンセプトカーだ。

そして満を持して登場した、FRを基本とするレイアウトのモデルがCX-60だ。

今秋日本発売となるCX-60。これまでより大人しく見える!?

FRレイアウトだと何が違うのかというと、横置きエンジン搭載車に比べて、フロントオーバーハングが短いこと、そしてフロントタイヤとフロントドアまでの間隔が長いことだ。FRレイアウトではそのメリットを最大限活かすために、フロントタイヤよりエンジンを後方に配置して、良好な重量バランスを得るとともに、慣性モーメントの減少が図れる。デザイン面では、これがメリットなのかどうかわからないが、長いボンネットが採用される。このことによって、ロングノーズのスポーティな見え方のするスタイルが実現できるのだ。まぁ、クラシカルな見え方という面もあるかもしれないが……。

造形に大きな違い、それこそこれからの魂動デザインか

果たしてCX-60も、この定番プロポーションを実現した。その違いはCX-5やCX-8などと比較すると明確だ。しかし、ちょっと待って。でも……CX-5や8の方がアグレッシブでは? と思う方も少なくないだろう。ボディ造形の表現方法としては、抑揚の強い従来の方が一般的には強さを感じることはできる。

マツダCX-5
マツダCX-8
CX-5やCX-8の方が一見するとアグレッシブに見える。それはフロントフェンダーから後方に下がるキャラクターなど、動きを感じさせる造形による表現力。しかしこの造形には大きな狙いが…。

しかし何を見せたかったのか? というところから立ち返ると、この違いが理解できると思う。マツダのこれまでのデザインのひとつの特徴となっていたのは、フロントフェンダーからボディサイドにかけて大きな流れの表現だった。キャラクラー的なラインとしてヘッドライト周りから、フロントピラーを抜けて緩やかに弧を描きながら下がっていくことで、躍動感ある造形を見せた。じつは他方でこの造形は、ボンネットを長く見せるという効果も持っていた。ボンネットの小さなFFベースのフォルムながら、伸びやかさがしっくりと表現されたのはこうした造形にもあったのだ。

ところがCX-60ではその必要がなくなった。といってしまうと、造形それぞれの狙いが一義的に感じてしまうかもしれないが、全体のプロポーションのなかで手をつけなくて良くなったのだ。CX-60はエクステリアデザインのなかで「引き算の美学」(Less is More)という言葉を用いているが、加えていったラインを取り去る=必要ない、ということに変わってきていることを示しているようだ。つまり、造形ではなくプロポーションこそがデザインなのだと言いたげだ。

CX-60のサイドビュー。引き算の美学を携えて登場。FRらしいプロポーションとともにすべてを変えた。

確かに私たちもこれまで、マツダ車を見るときにボディのリフレクションや堀の深い造形などに気を取られてきた。そんな観点でみると、あっさりとして見えてしまうのがCX-60だ。

造形だけでなくフォルムを楽しむ

しかし、じっくりと全体のフォルムを見るとどうだろうか。豊かなボンネットに、後ろに移動したキャビン。フロントフェンダー上面の滑らかさは、ドア部でショルダーを作りながら力感を表現するのだが、リヤフェンダーの力感と合流するに至って、引き潮のようにピュアにその力を消し去る。大切なのは、この前後の流れを受けるリヤピラーだ。ここの造形は極めて重要で、強すぎず弱すぎずの適度なバランスを見せている。

全体を締めるのはリヤピラーの造形。フロントの滑らかな力感、リヤの活力を引き潮のごとく統合し、キュッと引き締める。だから、キャビンが後ろに移動した感じなのに鈍重さがない。

特に前述のようにキャビンを後ろに移動させて見せていると、多くはバンのように鈍重な印象になりがちだが、CX-60は極めて軽快な印象だ。それはひとつには滑らかにルーフを下げてきたいることもあるが、もうひとつはこのリヤピラーを心地よく締めていることにあるように思う。リヤタイヤがボディを軽く前に押し出しているようなさりげない力感も表現されている。

ブラックアウトせず本質を隠さずに楽しむ

そしてもうひとつとても基本的な重要なポイント。それがボディの下側にブラックアウトのパーツが使われていないということだ。これから先には、そうした仕様のモデルが出るのかもしれないが、発表に当たってはそのようなツートーンの仕立てにはなっていない。

これが意味するところは、本来の機能、パッケージを形にするというある意味、至極真っ当なことだ。最近の流れのなかでは下周りを黒くしているモデルも少なくないが、このメリットはボディが薄く見えることだ。クーペとのクロスオーバーなどを謳うときに、スタイリッシュに表現しやすい。例えばこのCX-60でも下をブラックアウトにするように考えれば、極めてロングノーズで細身のFRプロポーションのクーペを纏うSUVとすることができたはず。

下周りをブラックアウト化すれば、スレンダーなFRプロポーションが見えるはずだが、敢えてそれをしていない。「機能としてあるべき形」をそのまま表現したのだと思う。

しかし、それをしなかったのがCX-60だと思う。たっぷりとした室内の価値をそのままデザインとしても表現し隠さなかったのだ。むしろサイドシルに至っては、ドアでカバーして裾が汚れないような工夫までしている。ボディが縦長に見えてしまうことより、こうした気遣いをそのまま表現しているのだ。

また、前述した通りにFRらしくフロントオーバーハングは短い。対してヘッドライトは少し高め。ノーズを伸ばせばホイールハウスとライトユニットの干渉も避けられ、ヘッドライト位置は下げられたかもしれないが、それをあえてやらなかったと見る。このパッケージの最大限のメリットを守ったのではないか。そんなことを考えると、機能に最大限の敬意を払ったデザインでもあるように見えるのだ。

魂の動きと書く「魂動」デザインだが、確かに車に命を与えてきたと思う。そしてここからは新たなフェーズ。その取り組みは、さらに内面に入り込んできた、と見ることもできるのでなないだろうか。

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著者プロフィール

松永 大演 近影

松永 大演

他出版社の不採用票を手に、泣きながら三栄書房に駆け込む。重鎮だらけの「モーターファン」編集部で、ロ…