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牧野茂雄の【深層レポート】in-depth reporting:コロナ編(3・完) 新型コロナウィルスは自動車産業の破壊者か それとも「再考」のチャンスなのか(3・完)

  • 2020/03/23
  • Motor Fan illustrated編集部
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2003年4月、上海でSARSは「Big Jump」した。この新聞はモーターショー開催中断の翌日の朝刊だ。しかし、街中でマスクをしている人は半分にも満たなかった。筆者はマスクを持っていなかった。ちなみにカメラは150万画素のコンパクトデジカメ。これが当時の標準だった。

気が付けば日本車は、中国依存度が少しずつ高くなっていた。おそらく中国製部品は日本で生産される自動車に、これからもどんどん浸透してゆくだろう。中国よりはるかに人件費の高い日本は部品製造コストも高い。「お客様に少しでも安くお届けするには……」と言われれば、たしかに理解できる。いまや中国は世界最大の自動車生産国であり部品産業の集積度も極めて高い。「中国で作れない部品はない」という状況に近付きつつある。しかし今回、新型コロナウィルス感染の拡大で日本に中国製部品が入らなくなり、一部で自動車・2輪車の生産が止まった。緊急事態への対応は、まだまだ不十分だ。これから先、日本の自動車産業は何ができるだろうか。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

 3月20日にボルボ・カーズ広報部から届いたメールには「スウェーデンと北米の工場を3月26日から4月14日まで閉鎖する」「ベルギー工場の閉鎖が4月5日まで継続する」と書かれていた。意外だったが、調べてみれば3月20日現在、スウェーデンの感染者数はまだ1,423人。人口990万人の中の1,400人なら日本の感染者数が1万7,000人になるのと等しい。しかも、2日後には感染者がさらに200人増えていた。

 欧州ではダイムラー、BMW、フィアットクライスラー、PSA、トヨタなどが3月23日の時点で生産を停止している。米国ではGMとフォードが3月30日まで工場を閉鎖、ホンダは23日から30日まで、日産は20日から4月6日まで、トヨタは当面23・24日の両日だけ生産停止だが、今後どうなるかはまったくわからない。

 2003年のSARS流行のときは、自動車生産の停止は中国国内だけだった。しかし、その後17年間で中国と諸外国の間の「人」「モノ」の移動は比較にならないほど拡大した。少々失礼な言い方になるが、ウィルス拡散の「速度」と「距離」が中国の存在感であり、「速度」と「距離」とは運動方程式である。

東風日産が陽光(サニー)の発売を機に上海で開催した全中国販売店大会。各地から販売関係者が集まり、当然、SARS震源地である広州からも来訪があった。しかし、ほぼだれもマスクをしていなかった。上海モーターショー開催中断の前日である。

 欧米の自動車工場が生産停止した理由は、感染拡大を恐れた政府が行動制限を国民に求めた結果、「スタッフが出社できなくなった」ためだ。中国で零細部品業車が倒産している理由は「物が手元にあるのに運べない」ため売上金を回収できず、資金繰りが行き詰まったためだ。その「モノ」の供給が止まり、日本の自動車工場でも操業停止という事態になった。中国の自動車工場では「人」「モノ」「金」「情報」のすべてがダメージを受けた。

 前回までの繰り返しになるが、サプライチェーンとは「供給連鎖」と和訳される。以前は「原材料・資材・部品の調達」がサプライチェーンと言われるものだったが、IT(情報通信)時代の製造業ではサプライチェーンが持つ意味をもっと広く捉える必要がある。商品企画のためのデータ集め、設計図面から製造図面の変換に必要な作業、その図面の管理、素材・部品調達の発注業務とスケジュール管理、顧客からのクレームや返品情報管理などもサプライチェーンである。

 紙の伝票と口頭連絡だけで済んでいた時代とは違って、現在は多くの業務がデジタル化されている。そのデータ管理もサプライチェーンの一角である。「モノ」「情報」「お金」「スタッフ(人)」のすべてがサプライチェーンだと考えるべきだ。今回の新型コロナウィルス感染の拡大は、各感染地でこの4つのうちのどれかがダメージを受けた。

上海モーターショーの日産ブースでは開催初日に記者会見が行われ、会見後はこのような撮影会になった。取材陣はだれもマスクをしていない。この2日後にショーが中断されるなどだれも思っていなかったが、その2日間でSARS感染者は一気に増えた。

 サプライチェーン寸断で思い出すのは、2011年3月の東日本大震災だ。国内の自動車サプライチェーンが大きなダメージを受け、国内での部品供給が完全に復旧したのは6月だった。この教訓から、自動車メーカーおよびサプライヤーは「災害に強いサプライチェーン」の構築へと動いた。震災から9年を経た現在、BCP=ビジネス・コンティニュイティ・プランニングの策定は進んだ。しかし、近年続いた台風被害はBCPが完璧ではないことを証明した。サプライチェーンは意外なところで寸断されるのだ。

 今回、日本の自動車産業は情報寸断に見舞われた。中国の現地工場では、取引先サプライヤーに「どこでどんな部品の生産が止まっているか」の情報が集まらないため、自動車メーカーはただ「待つ」しか手がない。中国製部品の到着を待つ日本の工場も同じで、生産再開がいつになるのかの情報が入らない。情報が入っても、果たしてそれが正確なのかは判断できない。

 自動車は2〜3万点の部品で作られる。ひとつとして無駄な部品はない。その部品の多くを外部から調達する。自動車メーカーが直接取り引きを行うのはティアワン(1次下請け)企業であり、トヨタグループで言えばデンソーやアイシン精機などである。ティアワンはティアツー(2次下請け)から必要な部品を買う。ティアツーはティア3あるいはティア4からも仕入れを行う。

 どこかで小さな部品の生産が止まれば、その影響は上流の工程におよぶ。最終的には自動車メーカーの車両生産ラインに影響がおよぶ。「部品」を中心にみれば、すべての部品が最終的には自動車メーカーに集まるわけであり、その意味では部品中央集権である。部品製造ピラミッドの頂点が自動車メーカーだ。

 すべての部品がそろわないと自動車にはならない。自動車生産は中央集権であり、地方自治はあり得ない。何かの部品が欠けた不完全な状態では出荷できない。これはあらゆるの工業製品について言えることだ。

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 中央集権と地方自治のバランスは、政治の世界ではつねに問題になる。じつは自動車にも同じ課題がふたつある。ひとつは車両制御だ。すべての制御を中央ECU(演算装置)がこなす中央集権のほうがいいのか、それともステアリング、ブレーキ、エンジン、トランスミッション、サスペンションなど個々の機能にも制御をある程度分担してもらい、中央ECUの負担を軽くするほうがいいのか、という課題である。自動運転の研究開発が進むにつれて、この課題が重要になってきた。

 もうひとつはサプライチェーンについての情報管理である。自動車メーカーがすべての素材・資材・部品についての生産情報を握っていればいいのか、それともサプライヤー(供給業者)それぞれも同じ情報を共有する対等な立場に置くほうがいいのか、という点だ。

 いま、世界はGAFA(グーグル/アップル/フェイスブック/アマゾン)に代表される巨大プラットフォーマーがあらゆる情報を握るようになった。情報の中央集権化、独占化が進んでいる。米国でインターネットが構築されたきっかけは、核戦争などによって政府の意思決定機能がダメージをうけたときに「素早く補修する」「補修が無理な場合はだれかが代わりを務める」ことだった。集中か分散かではなく、世の中を切り盛りすることが目的だった。しかし現在は「情報をお金に変える場所」になった。

 同じように考えると、どこかで部品生産が停止した場合のバックアップは「どの部品が生産されていないのか」を突き止め、その情報をすべてのサプライヤーが共有し、「その部品、ウチでも作れますよ」と手をあげるサプライヤーを引き出し、サプライチェーンを修復するという一連の流れである。情報を中央に一元化していたのでは無理だ。参加者すべてが同じ情報をいつでも共有できるブロックチェーン化が必須だ。

「我われが必要なものを、我われが必要な数だけ届けて欲しい」と、部品在庫を持ちたくない自動車メーカーはサプライヤーに言い続けてきた。日系自動車メーカーの海外車両工場も日本国内のティアワンと完全な同期生産である。この写真のトランスミッションは出荷待ちの状態だが、ストックヤードにとどまるのは8時間ほど。作るそばからトラックで出荷される。

 日本の自動車産業では現在、自動車メーカーがGAFAである。情報は上流へ集まるだけで下流には伝わらない。ある企業のBCP担当は「東日本大震災以降、BCP構築を進めてきたが、災害のたびに欠陥が露呈する」と言っていた。今回の新型コロナウィルス感染の拡大でも欠陥は露呈した。筆者はこれを「中央集権、一元管理の限界」と見る。

 インターネットはなんでもできる。かつてそう言われた。世界じゅうから一番安い部品を調達できると言われた。しかし、インターネット購買がもたらしたのは品質問題だった。結局、ネットで安い部品を買うなどは幻想だった。中には「いい業者」を見つけた例はある。品質もクリアした。しかし輸送距離が遠くなり、調達のための兵站線は伸び切ってしまった。

 新型コロナウィルス感染拡大はいずれ沈静化する。ワクチンが開発され、インフルエンザの一種のようになる。付き合っていくウィルスのひとつになる。筆者はそう思う。人類には知恵がある。「そろそろあの季節だね」とは言われても、人びとは普通の生活をする。そんなふうになるだろう。

 しかし、自動車産業には、学ばなければならないことがある。今回のようなサプライチェーンへの攻撃にどう対処するか。そして、世界が正常に戻り自動車需要が回復したとき、真っ先に供給すべき商品は何か。日頃からできる防衛策は何か。再考のチャンスとして活かせるかどうかが、自動車産業に与えられた課題であると考えたい。(おわり)

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