プレチャンバーという熱効率向上の新しい切り札[内燃機関超基礎講座]

燃費を良くするために混合気における燃料比率を低くすると、火が燃え広がりにくくなる。リーン燃焼をいかに安定させるか。その切り札のひとつがプレチャンバー技術である。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)

F1やWEC、SUPER GTなどで適用が進んでいるのが、プレチャンバーイグニッション(PCI)だ。副室ジェット燃焼、プレチャンバー、ジェットイグニッションとも通称されるが、同じ燃焼技術を指している。

パッシブ型のプレチャンバーシステムの構造

燃焼室の頂部にリップクリームのキャップほどの小さな副室(プレチャンバー)を持つのが構造上の特徴。副室内で主室と同じ空燃比(A/F)の混合気に点火し、微細な穴(オリフィス)から噴出するジェット噴流で主室の混合気を急速燃焼させるのが、パッシブ・プレチャンバー(上図)。副室を持たないコンベンショナルな火花点火燃焼の場合は点火プラグの電極を中心に火炎が広がるのに対し、PCIは瞬間的に燃える(燃焼速度が速い)。そのため、ノック低減効果が高い(容積比を高められる)。

比熱比を高めて熱効率を向上させるべくリーンの度合いを強めていくと着火しにくくなるので、着火に必要なA/Fを形成するため、副室にもインジェクターを設けたのがアクティブ・プレチャンバーだ。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…