高回転化に突き進んだF1エンジン。22,000rpmも実現していた?[内燃機関超基礎講座]

高出力を得るために、同じフォーマット内(排気量)で他よりもとにかく回すことを目指してきたF1のエンジン。回転上限が定められている現在は18,000回転。かつて、制限のなかった頃は20,000回転にも届こうという性能であった。超高回転のエンジンでは何が起きているのか。どのような技術が高回転を支えているのか。
TEXT:世良耕太(SERA Kota) PHOTO:桜井淳雄(SAKURAI Atsuo)/山上博也(YAMAGAMI Hiyoya)
*本記事は2013年5月に執筆したものです

1サイクルあたりに燃焼させる燃料の量を増やすこと。または、単位時間あたりに燃焼する回数を増やすこと。いずれにしても、たくさん空気を吸い込んでそれに見合った燃料を送り込むこと。これが、仕事量=出力を高める手段だ。前者は排気量を増やすこと(あるいは過給すること)で達成でき、後者は回転数を高めることで実現する。

レースはカテゴリーを問わず排気量の上限が定められているのが一般的だから、排気量を増やすことで出力向上を狙うのは事実上不可能。そのため必然的に高回転化の道に進んだ。ところが、世界の多くのカテゴリーで、このアプローチも禁止されている。禁止されていないカテゴリーはあっても、吸気リストリクターの装着が義務付けられている場合がほとんどだ。吸入空気量が頭打ちになるので回転を上昇させる意味はなく、高回転化に歯止めを掛ける決まりとして機能している。

超高回転を実現しようとすると、金属製バルブスプリングが追従できず、サージングを起こしてしまう。そこで、バルブリターンを空気の圧力に頼るニューマチックバルブを使用するのがF1エンジンの常識。空気を供給するエアボトルとニューマチックバルブを結ぶ系統に供給圧/排出圧を制御する機構を設け、圧力を可変制御する(アイドリング時などはエア圧を低くする)。写真はトヨタRVX-09のヘッドまわり。カムシャフトとフィンガーフォロワーにDLCが施されている。

回転上限が定められているとはいえ、現行F1のエンジンは18,000rpmで回っている。これがどんな世界かというと、1サイクル0.0066秒のうち、0.0027秒間だけ吸気ファンネルの上方に設置した最大噴射圧100barのインジェクター(霧化気化を促すため24噴孔を開発したコンストラクターもあった)から、1本1燃焼あたり0.049ccの燃料を噴く世界。1回あたりの噴射量は毒蛇が牙から注入する毒の量ほどでしかないが、なにしろ1秒間に150回注入、いや噴射するので、2.4ℓ・V型8気筒自然吸気エンジンが1分間に消費するガソリンは3.5ℓにもなる。これが、750馬力以上の仕事量に変換されるわけだ。ピストンの重量は230gほどでしかないが、上死点と下死点を行き来するのに8000Gを超える急加速と急減速を繰り返すので、その間、ピストンとコンロッドには2tを超える慣性力が加わる。

コンロッドは強い圧縮と引っ張りを受ける。写真はホンダが2003~04年に開発した中空コンロッド。チタン合金製。ボックス断面にしてねじり剛性を高める(従来比2.5倍)と同時に軽量化(従来比22g減の259g)を実現した。2つの部材を真空状態で加圧・加熱し接合すると、母材同等の接合強度を持つに至る。2005年の規則変更で禁止された。

3ℓ・V10から2.4ℓ・V8に切り替わった2006年までは、回転上限が設けられていなかった。だから、F1に参戦するエンジンコンストラクターはこぞって高回転化に取り組んだ。例えば、2000年から2008年まで参戦したホンダの場合、7シーズンで最高回転数を2600rpm引き上げた。彼らが到達した常用回転数は19,600rpmだったが、ベンチ上では20,000rpmを確認していた。9シーズンの開発で比出力は23%向上させた。F1エンジンは2007年に開発が凍結されて現在に至るが、それまでは1年ごとに新設計するのが基本だった。それも、ボア×ストロークを変更するのは朝飯前で、バンク角を変更したり、冷却水回路を全面的に変更したりといった大がかりな変更が珍しくなかった。

ホンダが2005年に開発(実戦未投入)。クランクシャフトメインジャーナル中央をフリクション溶接で接合する構造により、必要な剛性を確保しつつ0.8kgの軽量化を実現した(中実の2008年仕様は6.8kg)。

F1エンジンの開発は回転数の向上に特化していたとはいえ、ただ数を稼ぐだけでは仕事量は効率良く増えない。燃焼改善や損失の低減といった、量産エンジンを含め、およそエンジンを開発するにあたって外すことのできないテーマにも当然取り組んでいる。例えば、ホンダが出力向上を達成するために掲げたテーマは次の5項目だった。

 1.回転限界の向上
 2.吸排気効率の向上
 3.燃焼効率の向上
   4.フリクション低減
   5.レシプロ系部品の軽量化

 2002年までは約400kmの走行距離を保証(現在は2500km)すればよかったので、全体重量の軽量化は著しく進んだ(車両運動性能の向上が目的)。3ℓ・V10最終年にあたる2005年のホンダのエンジンは88.6kgだった。2.4ℓ・V8に切り替わった2006年は過度な開発競争を防ぐ目的で95kgの最低重量が定められたが、制限がなければ2.4l・V8は78kgで造れるはずだった。現在もF1に参戦するルノー・スポールF1は、もし現在まで開発がフリーだったとしたら、最高回転数は22,000rpmに達し、最高出力は825psを超えていただろうと説明している。リッターあたり出力にして343.75馬力である。

アルミ合金製ピストンの冷却は材料強度と寸法の維持、熱応力低減の観点から非常に重要。写真はトヨタRVX-09用。別の1本と合わせ4本のジェットでピストン裏面を効果的に冷却した。

キーワードで検索する

著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…