物質・材料研究機構(NIMS):磁石メーカー4社と共同で、磁石マテリアルズオープンプラットフォームの発足

物質・材料研究機構 (NIMS) と TDK 、大同特殊鋼、信越化学工業、日立金属は、2022年5月30日、NIMSを中核とした磁石マテリアルズオープンプラットフォーム(磁石 MOP:Materials Open Platform)の運用に関する覚書に調印した。今後、磁石メーカーで必要とされる共通基盤研究等を磁石 MOP を通じ、アカデミアと連携しつつ進めて行く。

概要

NIMS は民間企業の持つ「基礎研究所」の一部機能を担い、産業界とアカデミアをつなぐ領域別のマテリアルズオープンプラットフォーム(MOP)を2017年以降運営してきた。今般新たに磁石メーカー4社と磁石材料の共通基盤研究をアカデミアと連携して行うプラットフォームとして磁石MOPを設立した。

NIMSは希少元素に依らない次世代磁石材料の基盤研究*を推進し、産業界での開発研究に必要とされる基礎学理と技術基盤を構築することを目的として2012年度から2021年度までの10年間、文部科学省の委託事業として元素戦略磁性材料研究拠点*(ESICMM)を運営してきた。本事業は今年3月にその目的を達成して終了したが、この10年間、ESICMMで培った解析プラットフォーム、および、人材ネットワークを継承し、磁石産業界で必要とされる基盤研究をアカデミアとともに継続するため、磁石MOPを新たに発足させた。磁石材料の世界最高水準の微細構造解析技術やデータ駆動型研究*を、材料設計とプロセス最適化に応用し、用途に応じた必要特性を持つ材料の開発を迅速に行うツールの開発を目指している。また、NIMSの研究者だけでなく大学の人材も取り込むために、クロスアポイントメント制度*等を活用した大学との人材交流をこれまで以上に推し進めていく予定。

これに加えて、磁石MOPから発信する公開情報に基づいてMOP外の磁石ユーザー企業との意見交換を行う会員制連携制度「磁石パートナーシップ」を運営し、将来的に新たな課題設定を行うためのインプットのすそ野を広げる。磁石MOPでの高性能磁石開発の設計技術基盤を構築するという共通課題から参画企業の個別課題を扱う二者間共同研究層への発展を見据えたNIMSを中核とする二階構造の共同研究と合わせた統合的な運営体制も磁石MOPの特長である。磁石MOPでは、これらの特長を活かして、構築された材料基盤技術の参画企業による事業活用を支援し、ひいては電気自動車等での搭載拡大が期待されるモーターの高性能化、省希少元素化を通じて、カーボンニュートラルの実現に向けた貢献をしていく。


次世代磁石材料の基盤研究:
磁石の特性発現に必要なマクロからナノメートル領域に至る組織制御を可能にする材料組織解析評価、材料組織と磁石の磁気的性能との関係を明確に関連付けて研究指針を与える理論解析、材料組織制御と材料製造プロセス設計のための基本的熱力学解析とそれを可能にするデータベースの構築、を主要な柱とする基盤的な材料科学。
元素戦略磁性材料研究拠点:
我が国が抱える元素資源リスクを材料科学で克服するために,2007 年から経済産業省と文部科学省との連携で始まり,2022 年 3 月に主要な活動を完了した文部科学省の「元素戦略プロジェクト」において、2012 年から 10 年間にわたって実施された〈研究拠点形成型〉事業で、磁石材料に特化し NIMS を中核として形成された研究拠点。
データ駆動型研究:
人工知能(AI)を含む情報工学を活用し、プロセスデータや材料組織情報データから、組織構造、材料特性を経て、性能までを一気通貫に予測することで、欲しい性能から最適な材料・プロセスを素早く提案できるようにする研究。
クロスアポイントメント制度:
研究者等が二つ以上の機関に雇用されつつ、一定のエフォート管理の下で、それぞれの機関における役割に応じて研究開発や教育等に従事することを可能にする制度。

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