素粒子「ミュオン」の生成にジェイテクトの特殊環境用軸受が貢献

ジェイテクトの特殊環境用軸受「EXSEV-WS」が、大強度陽子加速器施設(J-PARC)において、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所が開発するミュオン回転標的に採用された。ジェイテクトの高耐熱・高耐久性を誇る特殊環境用軸受の性能が、J-PARCが取り組む安定的なミュオン生成に貢献している。

ミュオン粒子とその生成方法について

ミュオンとは、電子と同じような性質を持ちながら約200倍の質量を持つ素粒子である。1936年に宇宙線の中で発見された。ミュオンは透過性の高さから、これまで火山やピラミッド、原子炉などの透視に成功するなど、ミュオン透視技術は大きな注目を集めている。

J-PARCにおいては、加速した陽子ビーム※を黒鉛製のミュオン回転標的に照射することで世界最高の質と強度を誇るミュオンを生成し、物質の構造を解明する物質生命科学や物質の根源を探求する基礎物理学に関わる研究に活用されている。

※陽子ビーム:原子を構成する粒子のうち正の電荷をもつ陽子が細い流れのように並進したもの。
J-PARCでは三台の加速器を駆使して、数兆個から数十兆個もの塊となった陽子ビームを、光とほぼ同じスピードになるまで加速している。

ミュオン生成におけるジェイテクトの貢献

ミュオン回転標的におけるミュオンの生成は高温・真空・高放射線場という過酷な環境下で行われるため、これまでの先行研究ではミュオン回転標的に使用される軸受が一年以内に破損するという問題があった。そこで、ジェイテクトの2014年にEXSEV-WSがJ-PARCに採用され、現在に至るまで長期に渡り、ミュオン回転標的の安定的な稼働に貢献している。

この結果を受け、J-PARCと国際共同研究を行っているスイスのポールシェラー研究所(PSI)にもEXSEV-WSが採用され、2021年12月には一年間の安定的なミュオン回転標的の連続運転を達成した。

EXSEV-WSは、耐荷重性に優れており、高温・真空環境下にも適した軸受である。保持器を用いず、二硫化タングステン系自己潤滑複合材のセパレータによって玉を等間隔に保持している。セパレータに含有された二硫化タングステンは耐熱350℃と耐熱性が高く、優れた潤滑寿命を有している。

特殊環境用軸受「EXSEV-WS」のスペック

・潤滑剤に二硫化タングステン系固体潤滑剤を採用することで耐熱性・耐荷重性が要求される真空環境に適応
・圧力 :105Pa(大気圧)~10-5Pa(高真空)
・温度:-100℃~350℃
・ミュオン回転標的に採用されたEXSEV-WSの寸法
d(内径):17mm、D(外径):40mm、B(幅):12mm

J-PARCのミュオン生成エリアと回転標的

ミュオン生成エリア:保守エリアの床面(橙色)から2.4 m低いビームラインにミュオン回転標的は設置される。左下から右上に向かう陽子ビームの経路上に設置されたミュオン回転標的でミュオンが生成され、四方向(写真撮影時は三方向のみ)の紫色の電磁石で実験室に取り出される。

ミュオン回転標的:陽子ビームによって黒鉛標的上に発生する熱や損傷を回転で分散させている。

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