ヤマハ・YZF-R7 ABS……116万6000円(2026年5月29日発売)







ハンドリングがイージーに、潜在能力はさらにアップ

ネイキッドのMT-07をベースに、スチール製ダイヤモンドフレームをアルミ製センターブレースで補強。2022年2月に発売されたスーパースポーツが「YZF-R7」だ。

デビュー直後に一般道でYZF-R7を試乗した際、正直なところ両手放しでこの新型車を称賛することはできかなった。ライディングポジションが深い前傾姿勢となったことで、MT-07以上にフロントへ荷重を掛けやすくなり、スーパースポーツらしい高い旋回力を手に入れたことは確認できた。おそらくサーキットで試乗していたなら、「これが99万9900円(当時)で買えるのか!」と驚いたに違いない。だが、一般道においては、MT-07の持っていたハンドリングの自由自在感、具体的には“どんな操縦であれ自然と旋回体制に移行でき、バンク中でも思い通りにラインを変えられる”というあの魅力がスポイルされてしまったことに、少なからず落胆したのだ。
そんな負のイメージが強く残っていたYZF-R7。しかしモデルチェンジした新型は、走り出した瞬間から様子が違っていた。とりわけ印象的なのが操縦安定性だ。基本的なキャラクターはそのままに、交差点を曲がるような低速域では軽くハンドルへ入力するだけでスイッと向きを変える。そして速度が上がるほど求められる体重移動も従来より明らかに少なく、ライダーとの距離感がグッと縮まった。要するに、走りがだいぶイージーになったのである。

新型はフレームとスイングアームを刷新し、前後には軽量なスピンフォージドホイールを採用。サスペンションセッティングも見直され、標準装着タイヤはブリヂストンのS22から次世代のS23へ進化した。さらにキャスター角とトレール量は24°00′/91mmから23°40′/90mmへ変更され、トップブリッジとアンダーブラケットも新設計。つまり車体は、先代とはほぼ別物なのである。
ハイスピードコーナーでは、アルミツインスパーフレームのような強固な剛性感こそないものの、しなやかさと芯の強さを兼ね備えたシャシーが路面をしっかり捉え、鮮やかな旋回性能を発揮する。一方、高速巡航では、前後サスペンションが路面のギャップをスムーズに吸収し、標準セッティングのままでも十分に快適である。つまり、スポーツ性とツーリング性能を高いレベルで両立しているのだ。
ブレンボ製ラジアルマスターシリンダーを採用したフロントブレーキは相変わらず秀逸で、とりわけリリース側のコントロール性の高さが光る。さらに新型はBC(ブレーキコントロール)、いわゆるコーナリングABSが採用され、バンク角まで考慮した制御へ進化した。これにより、大きな安心感を持ってコーナリングを組み立てられるようになった。なお、リヤのABSをオフにするとBCも連動してオフになるほか、メーターの表示テーマを“Track”にすると自動的にオフ(手動でオンに戻すことも可能)になるのでご注意を。
電子制御が走りを磨き上げ、CP2エンジンの魅力がさらに際立つ

エンジンについては、ハード面に大きな変更はないものの、新たに電子制御スロットルと6軸IMUを採用。この二つを軸に走行支援システムは飛躍的に充実した。先代はABSとアップ側のみのクイックシフター(オプション)程度だったが、新型はPWR、TCS、SCS、LIF、QS(双方向)、BC、EBM、LCS、BSR、リヤABSオフ、クルーズコントロール、YVSLまで搭載。取扱説明書が68ページから126ページへとほぼ倍増したことからも、その進化ぶりがうかがえるだろう。
新設されたライディングモードはスポーツ/ストリート/レイン/カスタムの4種類で、それぞれでPWR(パワーデリバリーモード)が変わる。スポーツのレベル1とストリートのレベル2はピークパワーが同じで、後者はスロットルレスポンスがやや穏やかに。レインのレベル3はピークパワーが低くなり、レスポンスもさらに優しくなる設定だ。

このモードごとの差は想像以上に明確で、シーンに応じて積極的に使い分けたくなるほどの完成度だ。中でも気に入ったのは最強のスポーツモード。低~中回転域では270度位相クランクらしい鼓動感が存分に味わえ、高回転域へ向かうにつれて振動が滑らかに収斂していく。そうした表情の変化が明瞭なフィーリングは、かつてのヤマハ・TRX850を思い起こさせるものだ。さらに、ストリートモードよりレスポンスは鋭いものの、スロットルは開閉の両方向において実に従順。加減速やシフトチェンジの多い市街地でも扱いづらさはまったく感じなかった。
そして特筆すべきは、第3世代へと進化したクイックシフターだ。20km/h以上かつ2100rpm以上でシフトアップ、20km/h以上かつ2000rpm以上でシフトダウンできるため、一般道でも走行中はほぼクラッチ操作が不要。条件によっては変速ショックがやや大きく出る場面もあるが、総じて完成度は高く、実用性は十分以上と言える。

新型YZF-R7で唯一、最後まで慣れなかったのは二段階フラッシャー機能を有するウインカースイッチだ。このシーソースイッチにキャンセルボタンはなく、「軽く押す」と3回点滅して消灯、「強く押す」と5km/h以上、15秒以上かつ150m走行すると自動的に消灯する。同じ方向にもう一度押すことでも任意にキャンセルできるのだが、まず押し方の強弱が分かりづらく、車線変更のために軽く押したつもりでも強く押したと判定されることがたびたびあった。また、「15秒以上かつ150m走行」という条件がすでに「あっ、このライダー、ウインカー消し忘れてるぞ」と周囲に思わせる範疇であり、仕方なく手動でキャンセルすると、タイミングによっては点滅を継続させてしまうというか追い炊きになってしまうことも。そして、そうしたシステムとの齟齬(諸条件により自動消灯しないことも多々)が、いちいちメーターパネルのインジケーターを見ないと分からないのもまた大きな短所だ。視線を落とさず確実にキャンセルできる従来のプッシュキャンセル式の良さを、あらためて実感させられた。

新型YZF-R7は、YZF-R25やR3からのステップアップとして理想的な1台であることはもちろん、レーサーレプリカ全盛期を知るベテランライダーにも強く刺さる完成度を備えている。そして何より、新旧の違いがこれほど明確なモデルチェンジは近年では珍しい。先代オーナーも、ぜひ勇気を持って新型に試乗してみてほしい。その進化の大きさにきっと驚かされるはずだ。
ライディングポジション&足着き性(175cm/66kg)
上半身がしっかり前傾するスーパースポーツらしいライディングポジション。ハンドルは従来比で位置を3.6mm上方&8.4mm後方へ移設されている。シート高は5mmダウンの830mmで、車体がスリムなこともあって足着き性は良好だ。なお、燃料タンクを覆っている樹脂カバーは3分割から4分割となり、タンク容量13Lを維持しつつ後端の傾斜をなだらかにし、体重移動の自由度を高めている。
ディテール解説











ヤマハ YZF-R7 ABS(2026年モデル) 主要諸元
認定型式/原動機打刻型式 8BL-RM60J/M427E【8BL-RM39J/M419E】
全長/全幅/全高 2,070mm/725mm/1,160mm【2,070mm×705mm×1,160mm】
シート高 830mm【835mm】
軸間距離 1,395mm
最低地上高 135mm
車両重量 189kg
燃料消費率 WMTCモード値 25.2km/L【24.6km/L】(クラス3, サブクラス3-2) 1名乗車時
原動機種類 水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ
気筒数配列 直列, 2気筒
総排気量 688cm3
内径×行程 80.0mm×68.5mm
圧縮比 11.5:1
最高出力 54kW(73PS)/8,750r/min
最大トルク 68N・m(6.9kgf・m)/6,500r/min【67N・m(6.8kgf・m)/6,500r/min】
始動方式 セルフ式
潤滑方式 ウェットサンプ
エンジンオイル容量 3.00L
燃料タンク容量 13L(無鉛レギュラーガソリン指定)
吸気・燃料装置/燃料供給方式 フューエルインジェクション
点火方式 TCI(トランジスタ式)
バッテリー容量/型式 12V, 6.0Ah(10HR)/YTZ7S
1次減速比/2次減速比 1.925(77/40)/2.625(42/16)
クラッチ形式 湿式, 多板
変速装置/変速方式 常時噛合式6速/リターン式
変速比 1速:2.846 2速:2.125 3速:1.631 4速:1.300 5速:1.090 6速:0.964
フレーム形式 ダイヤモンド
キャスター/トレール 24°00′/91mm【23°40′ / 90mm】
タイヤサイズ(前/後) 120/70ZR17M/C (58W)(チューブレス)/180/55ZR17M/C (73W)(チューブレス)
制動装置形式(前/後) 油圧式ダブルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ
懸架方式(前/後) テレスコピック/スイングアーム(リンク式)
ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ LED/LED
乗車定員 2名
※【 】内は2022~2025年モデル
※製造国 日本



