イタリアの3ブランドが生み出した記念モデル

モーターサイクルの世界で培ったドゥカティの個性が、海という新たな舞台へ広がる。創業100周年を記念して発表された「PIRELLI 44 | Ducati Edition」は、ドゥカティ、ピレリ、SACS Marineの協業によって誕生した特別なボートだ。性能へのこだわりとイタリアらしいデザインを、ひとつの船体に凝縮している。
世界初公開の場となったのは、2026年9月10日のフランス・カンヌ。カンヌ・ヨッティング・フェスティバルに合わせ、Zuma Cannesで披露された。生産数は26艇に限られ、その数字にはドゥカティが創業した1926年への敬意が込められている。100年の歩みを祝うモデルに、ブランドの出発点を刻んだ形だ。
協業の土台には、ピレリとSACS Marineが20年以上にわたり築いてきたボート開発の関係がある。そこにドゥカティの造形やスポーツ性を重ねることで、陸上で親しまれてきたブランドの魅力を水上へ展開する。長年のパートナーシップと周年の節目が交わったことが、このプロジェクトの背景にある。
バイクの造形を船体へ映すデザイン

デザインの核となるのは、ドゥカティの100周年記念モデル「Superleggera V4 Centenario」から着想を得たカラーリングだ。Centro Stile Ducatiとの協業を通じ、モーターサイクルの世界観をボートの外観へ落とし込んでいる。船体の大きさや用途が変わっても、ひと目でドゥカティを連想させる表現を目指した。
エンジン部分には、MotoGPマシンのテールセクションに着想を得たウイング形状のパーツを採用した。レースマシンを思わせる造形は、停泊中にもスポーティな印象を伝える要素となる。バイクの細部を知るファンにとっては、そのつながりを探す楽しみもあるだろう。
船体を囲むチューブの模様にも、タイヤとの関係が表れている。通常のモチーフに代わり、今回は公道用ハイパースポーツタイヤ「Diablo Supercorsa SP」のトレッドパターンをもとに、ピレリの研究開発拠点の職人たちが再構成した。カラー、ウイング、チューブという異なる部分に共通の背景を持たせることで、全体の印象をまとめている。二輪の意匠を船体の各所で読み替える手法に、今回の協業の特徴が見える。
合計1500hpのエンジンと細部へのこだわり

動力には、1基あたり500hpを発揮するMercury Racingエンジンを3基搭載する。合計出力は1500hp。大きなパワーは、このモデルが掲げるスポーティな性格を端的に示している。ドゥカティは、高速性能に加えて航行時の安定性、安全性、快適性も備えると説明しており、操る体験全体を重視した構成としている。
船底にはMannerfelt Design Teamが手がけたダブルステップハルを採用。上部のハードトップにはカーボンファイバーを使い、スチール製の部品はブラックで仕上げた。素材と色を組み合わせ、外観の各部に統一感を持たせている。
操船する人が向き合うダッシュボードとパイロットシートには、アルカンターラ仕上げを取り入れた。遠くから眺めた際のシルエットだけでなく、乗り込んだときに目にする質感にも配慮した仕様だ。
さらに、専用の記念プレートとカスタマイズ可能なナンバープレートを用意する。限られた生産数に加え、個々の艇を意識させる装備を備えることで、記念モデルとしての性格を強めた。性能、素材、仕上げを通じて、所有する楽しさにも目を向けている。
100周年から始まる新たなブランド体験

今回の取り組みでは、3社が何を共有しているかも重要なポイントになる。発表に際し、ドゥカティのクラウディオ・ドメニカーリCEOは、デザイン、技術革新、性能の追求において価値観が一致したと説明した。SACS Marineも、オーナーを中心に据え、操船する喜びを高めることを重視している。
こうした姿勢から読み取れるのは、ブランドの魅力を「乗り物を動かす体験」として広げようとする意図だ。道路と海では操り方も環境も異なる。それでも、外観に心を引かれ、自ら操り、その反応を楽しむという関係には接点がある。今回のボートは、その接点をデザインと装備で具体化したものといえる。
プロジェクトは発表だけで完結せず、今後数か月にわたり、開発の背景や3ブランドが共有する性能への考え方を伝えるイベント、特別企画を予定している。製品そのものに加え、誕生までの物語も発信していく構えだ。
限定26艇という希少性は目を引くが、注目したいのは、100周年を新しい分野への出発点にしたことだ。PIRELLI 44 | Ducati Editionは、ドゥカティが積み重ねてきたスタイルと情熱を、海上でどのように表現できるかを示す一艇となる。
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