東京〜浜松往復を含む646kmを走った実燃費はカタログ値に匹敵する19.7km/Lを記録

2026年6月に発売された新型日産キックスは先代に対する技術の進化ぶりが大きい。発電用エンジンで電気をつくり、その電気でモーターを駆動して走る日産独自のシリーズハイブリッドシステム、e-POWER(イーパワー)を搭載していることに変わりはないが、システムが大きく進化している。

日産キックスのボディサイズは全長4365mm✕全幅1800mm✕全高1610〜1615mm、ホイールベース2655mm。

先代発売当時(2020年6月)の前期型は第1世代のe-POWERを搭載。2022年7月のマイナーチェンジ(後期型)で第2世代に置き換えられている。前期型、後期型ともにエンジンはHR12DE型の1.2L直列3気筒自然吸気を搭載。後期型の走行用モーターは最高出力100kW、最大トルク280Nmを発生しており、WLTCモード燃費は23.0km/L(2WD/FF)だった。

新型キックスは先にセレナe-POWERで採用したHR14DDe型の1.4 L直列3気筒自然吸気エンジンを搭載している。HR12DEはエンジン単体で走る前提で設計されたエンジンで、これを基本に発電用エンジンに転用した経緯がある。いっぽう、HR14DDeはHR12DEをベースに発電専用に仕立て直したエンジンだ。

キックスは第3世代e-POWERを搭載。1.4Lの発電特化型エンジン(HR14DDe)と、モーター/発電機/インバーター/減速機/増速機が一体化した電動ユニットが組み合わされる。

HR14DDe を開発するにあたっては78.0mmのボア径はそのままにストロークは83.6mmから100.0mmに拡大。これによりストローク/ボア比(S/B比)は1.07から1.28に変化している。限界はあるものの一般にS/B比は大きくなるほどシリンダー容積に対する燃焼室の比率が小さくなって冷却損失が減り、熱効率は向上する(燃費向上に貢献する)。数字が大きいほど熱効率向上に寄与する圧縮比は、HR12DEの12.0に対し、HR14DDeは13.0へと高められている。

排気量増にともなって発電能力は高まり、最高出力は60kWから72kWに向上。出力増に合わせてクランクジャーナル径を拡大したり、シリンダーブロックの剛性を高めたりするなどの手を打っている。3気筒エンジンに特有の振動を抑えるため、バランサーシャフトを備えているのもHR14DDeの特徴だ。

12.3インチのディスプレイをふたつ横に並べたダッシュボードが先進的な印象のインテリア。
シフトセレクターはスイッチタイプ。センターコンソールに配置される。
走行支援システム「プロパイロット」は全車標準装備。

e-POWERの世代の数字が表すのはエンジンについてではなく、発電用モーターと走行用モーター、発電用モーターと組み合わせる増速ギヤ、走行用モーターと組み合わせる減速ギヤ、電気のやりとりを制御するインバーターで構成する電動ユニットを指す。先代キックスが搭載していた第2世代e-POWERは、走行用モーターとインバーターのみが一体で、発電用モーターは別体だった。

新型キックスが搭載する第3世代e-POWERは5つのユニットがひとつのケースに収まる、いわゆる5 in 1の構造とした(なおかつ発電用モーターと組み合わせる増速ギヤは1軸減らして2軸にし、コンパクト化に貢献)。ひとつのケースに収めることでケースの剛性が高まり、ノイズや振動を抑える効果が期待できる。

今回の試乗車は「X e-4ORCE」。シート表皮は「織物/トリコット」となる。

HR14DDe型エンジンと第3世代e-POWERを得た新型キックスは、先代に比べてエンジンの存在が希薄な、よりEV(電気自動車)ライクな走りが可能になっている。e-POWERの基本は、バッテリーに充分なエネルギーが残っている場合、エンジンの出番はない。バッテリーに蓄えた電気エネルギーで走行用モーターを駆動して走る、いわゆるEV走行となる。いっぽう、バッテリー残量が少なくなってきたらエンジンを始動して発電し、その電気を走行用モーターに送って走る。

新型キックスはエンジンの発電能力が高まっているので、先代に比べてバッテリーの回復が早い。出力30Wの充電器でスマホを充電するより45Wの充電器で充電したほうがバッテリーの回復が早いのと同様だ。加えて、エネルギー回生面でも進化している。新型はドライバーの要求制動力に対してモーターが発電する際の抵抗を使う回生ブレーキと油圧ブレーキの配分を自動的に制御する回生協調ブレーキを適用している。これによりブレーキを踏んだ際の回生能力が高まっており、これもエンジン始動頻度の低減に寄与している。

キックスの荷室容量は2WDが476L(100VAC電源なし車)/400L(100VAC電源付き車)、4WDが340L。

日産が新旧キックスでWLTC市街地モードの走行パターン(約10分)を比較したところ、先代キックスでは発電のためのエンジン始動が4回だったのに対し、新型は1回だけ。そのためエンジンが始動して音や振動でドライバーはじめ乗員をがっかりさせる頻度は減っている(後述するが、始動してもほとんどわからない)。それに、たとえエンジンが始動しても乗員にさとられない技術も投入されている。

走行中のタイヤが路面を叩くことで発生するノイズや風切り音が小さい低車速ではできるだけエンジンがかからないようにし、タイヤ起因のノイズや風切り音などの走行音が大きくなってからエンジンを始動させる制御を採用しているのだ。エンジンが始動した場合の回転数を抑えているのも特徴で、50km/h定常走行時、先代は2400rpmで発電を行なっていたが、新型は2000rpmで発電を行なう。

エンジンは黒子に徹し、モーター走行の気持ち良さが際立つ走り

今回、長距離を走って実用燃費を確かめる狙いと電動駆動4輪制御技術のe-4ORCE(イーフォース。後述)の働き具合を確かめる目的で、新型キックスX e-4ORCEを日産自動車からお借りし、東京〜浜松(静岡県)間を往復した。

試乗車は17インチタイヤを履くX e-4ORCEで、WLTCモード燃費は21.5km/Lである。19インチタイヤを装着するGグレード e-4ORCEのWLTCモード燃費は20.1km/L。ちなみに2WD(FF)のX系は25.7km/Lで、先代2WD比でカタログ燃費は11%向上している。

東京〜浜松(静岡県)間を往復。向こうに見えるのは浜名湖のシンボル、弁天島の赤鳥居。

前回、短時間試乗した際もそう感じたが、新型キックス、とても静かである。耳をそばだてて注意していない限り、「エンジンがかかった」と気づくことはないだろう。エンジン音が目立たない条件のときにこっそり充電する制御のおかげで、エンジンがかかったとしても気づきにくいし、気づいたとしても気にならないレベルである。

発進、加速ともにアクセルペダルの操作に対する反応が良く、スムーズでイメージどおりの力を出してくれるのは、エンジン+トランスミッションの組み合わせでドライバーの要求に応えるのではなく、EVと同様に制御性の高いモーターでドライバーの要求に応えるからだろう。おかげで市街地でも高速でもストレスを感じない。

X系グレードのタイヤは215/60R17サイズを採用。G系グレードは225/45R19となる。

新東名の制限速度120km/h区間でプロパイロットをオンにし、車速を120km/hに設定して走ってみた。メーターに2分間燃費を表示させて確認してみたところ、120km/h巡航時の燃費は17〜18km/Lあたりであることがわかった。浜松方面からの復路では後席での移動も体験したが、上体を倒して耳を前席に寄せなくても、声を張り上げなくても、ドライバーと難なく会話することができた。

付け加えておくと、乗り心地も良かった。ガツンとくる不快な突き上げはない。先代比でいえば、足元を含め空間にゆとりが感じられるのがありがたい。5日間で646.1km走った際の平均燃費は19.7km/Lだった。この段階で満タンにした際(燃料タンク容量は45L)、メーターは875kmの航続可能距離を示していた。

X e-4ORCEのカタログ燃費は21.5km/Lであるのに対して、646.1km走行後の燃費は19.7km/Lだった。

イメージどおりに気持ち良く曲がれる。これもe-4ORCEの効果のひとつ

今回の試乗で確認したかったもうひとつのポイントであるe-4ORCEは、電動4輪駆動車だからこそ可能になる制御である。新型キックスの場合、最高出力105kW、最大トルク315Nmを発生するフロントモーターに加え、リヤにもモーターを搭載。こちらの最高出力は50kW、最大トルクは140Nmである。e-4ORCEは前後のモーターとブレーキを統合制御することで、車両の挙動を自在にコントロールする技術だ。

フロントサスペンション:ストラット式
リヤサスペンション:トーションビーム式

例えば、減速時には前後のモーターの回生ブレーキ力を制御することにより、車体の揺れを抑える。より具体的には前のめりになるような動きを抑え、フラットな姿勢を保とうとする。通常走行時はフロントモーター主体で走るが、旋回シーンでステアリングを切り始めるとリヤモーターの駆動力を増すよう制御。その結果フロントタイヤの余力が増すので、狙いどおりに曲がりやすくなる。そこからさらに加速していくシーンでは旋回内輪側に軽くブレーキをかけて旋回方向にヨーモーメントを発生させ、曲がりやすさをサポートする。

旋回シーンでのe-4ORCEの効果は例えば、高速道路入口の料金所から左に大きく曲がるカーブを経て本線に合流するシーンで味わえる。「いまe-4ORCEが働いている」ことを体感できなくても、実際には制御に助けられていると考えていい。イメージどおりに気持ち良く曲がるのは、キックスの車体やサスペンションの設計&作り込みによる素性の良さに加え、制御がひと役買っているからだ。

リヤモーターは最高出力50kW(68PS)、最大トルク140Nmを発生する。

これまでe-4ORCEの働き具合を確かめるすべはなかったが、新型キックスにはe-4ORCEの作動状況をリアルタイムにディスプレイに表示するモードが用意された。これを動画で撮影し後で確認してみると、高速道路の料金所から本線に合流するようなシーンはもとより、信号交差点で右左折するシーンでも制御が介入していることがわかった。

e-4ORCEの作動状況はメーターで確認可能。

4輪駆動というと雪道などすべりやすい路面での走破性ばかりが注目されるが、e-4ORCEは普段の走りにおいて快適性の面でも、走りの面でもドライバーと乗員に恩恵をもたらす守備範囲の広い技術である。より上質な乗り心地、より楽しい運転を求めるなら一考の価値がある技術と言えるだろう。筆者は元来4WD好きなことも手伝い、キックスを選ぶなら走りが楽しくて、雪道やウエット路面も安心なe-4ORCE一択だ。

グレードキックス X e-4ORCE(4WD)
全長4365mm
全幅1800mm
全高1610mm
室内長1930mm
室内幅1450mm
室内高1230mm
乗員人数(名)5
ホイールベース2655mm
最小回転半径5.3m
最低地上高170mm
車両重量1550kg
パワーユニット1.4L直列3気筒+e-POWER(第3世代)
エンジン型式HR14DDe
エンジン最高出力72kW(98PS)/6000rpm
エンジン最大トルク115Nm(11.7kgm)/6000rpm
燃料(タンク容量)レギュラーガソリン(45L)
モーター型式・種類フロント:YM52/リヤ:MM48(交流同期電動機)
モーター最高出力フロント:105kW(143PS)/リヤ:50kW(68PS)
モーター最大トルクフロント:315Nm(32.0kgm)/リヤ:140Nm(14.3kgm)
バッテリー種類リチウムイオン電池
燃費(WLTCモード)21.5km/L
サスペンション前:マクファーソンストラット式 後:トーションビーム式
ブレーキ前:ベンチレーテッドディスク 後:ディスク
タイヤサイズ215/60R17
価格359万9200円