連載

【歴史を飾ったライバル対決】

1980年代小型軽量なホットハッチが若者から絶大な人気に

1970年代の排ガス規制強化とオイルショックから解放された1980年代を迎えると、高性能・高機能時代が到来した。ターボやDOHCを搭載した比較的排気量の大きい本格的な高性能スポーツである日産「スカイラインGT-R」や「フェアレディZ」、トヨタの「セリカGT」などが高性能を競った。

一方で、若者でも入手しやすい低価格で燃費や経済性に有利な1.0L~1.3Lクラスのエンジンを搭載した小型車が人気を獲得。そんな小型車でも、速く走るクルマが欲しいという若者の要望に応える形で登場したのが、ホットハッチと呼ばれる高性能小型車である。これらは、走り好きの若者のエントリーモデルだったことから、“ボーイズレーサー”と呼ばれた。

1982年9月にデビューしたホンダ「シティターボ」

今回取り上げたトヨタ「スターレット・ターボS」と日産「マーチ・スーパーターボ」の他にも、ホットハッチとしてホンダ「シティターボ(1982年9月~)」、三菱「ミラージュ・サイボーグ(1987年10月~)」、ダイハツ「シャレード・デトマソターボ(1984年1月~)」などが人気を集めた。

1984年にデビューした「シャレード 926ターボ」
1993年に登場した4代目シャレードに設定された「シャレード デ・トマソ」

排気量の比較的大きい本格的なスポーツカーは、圧倒的な動力性能で安定した高速運転が楽しめるのに対し、排気量の小さいボーイズレーサーは、軽さとレスポンスの良さで日常的に運転が楽しめる、エントリースポーツカーなのだ。

“韋駄天ターボ”で一世を風靡したスターレット・ターボS

1969年に誕生したトヨタ2代目「パブリカ」
1973年に誕生したトヨタ「パブリカスターレット」

初代「スターレット」は、1973年4月に2代目「パブリカ」のスポーティな上級派生車「パブリカスターレット」として誕生した。1978年2月に2代目へモデルチェンジ、これを機にパブリカの冠が取れて「スターレット」を名乗り、またクーペからハッチバックとなり、低価格のエントリーモデルとして広い層に支持された。

1984年10月にデビューしたトヨタ3代目「スターレット」

1984年10月には、FRからFFレイアウトに変更された3代目EP71がデビュー。3代目は、基本的なスタイリングイメージである直線基調のプレーンな2BOXハッチバックのまま、全体的にシャープとなった。

パワートレーンは、1.3L 直4 SOHCの最高出力73ps/最大トルク10.3kgmの標準仕様、67ps/10.0kgmの低燃費仕様、82ps/10.5kgmのEFIを採用したスポーツ仕様の3種エンジンと、4速/5速MTおよび3速ATの組み合わせ。3代目スターレットは、FFながら俊敏な動きを楽しめることから、“かっとびスターレット”というキャッチコピーを打ち出して人気モデルとなった。

トヨタ「スターレット・ターボS」

さらに、1986年1月には“韋駄天ターボ”の愛称を与えられデビューしたのが、スポーツモデル「スターレット・ターボS」である。1.3L 直4 SOHC空冷インタークーラー付ターボエンジンを搭載し、最高出力105ps/15.2kgmを発揮した。

トヨタ3代目「スターレット」(EP71)に追加された「ターボS」の2Eエンジン(画像はプチチューン済)

ターボSでは、新たな機構として過給圧を抑制して雨天や降雪時の滑りやすい路面でもスムーズな走りを生む“LOモード”が設定された。通常運転時は、上記のハイパワーな105ps/15.2kgmだが、LOモードでは出力を91ps/13.4kgmに抑えて、安全のために必要以上のパワーを出さないようにしたのだ。

トヨタ「スターレット・ターボS」のコクピット
トヨタ「スターレット・ターボS」の前席シート

車両価格は、3代目が69.3万~117.0万円、追加されたターボSが131.1万円に設定された。当時の大卒初任給は14万円程度(現在は、約23万円)だったので、単純計算では現在の価値で約114万~192万円、ターボSが215万円に相当する。

トヨタ「スターレット・ターボS」

“韋駄天ターボ/かっとびターボ”のスターレット・ターボSは、ボーイズレーサーの代表格として、走り好きの若者から絶大な人気を獲得した。

驚異の「ターボ+スーパーチャージャー」搭載したマーチ・スーパーターボ

1982年10月にデビューした日産初代「マーチ」
日産「マーチ」搭載の1.0L直4エンジン

初代「マーチ」は、1982年10月に日産初のリッターカーとして誕生。内外装の基本デザインは、イタリアの巨匠ジウジアーロが手掛け、パワートレーンは最高出力57ps/最大トルク8.0kgmを発揮する1.0L 直4 SOHCエンジンと4速/5速MTおよび3速ATの組み合わせ。マーチは、世界戦略車として位置づけられ、洗練されたクリーンなスタイリングと運転のしやすさが人気を呼び、日本と同様に欧州でも人気を獲得した。

1985年2月にデビューした日産「マーチ・ターボ」
日産・マーチターボに搭載されたMA10ET型エンジン

高出力化を狙ったマーチは、1985年2月のマイナーチェンジで「マーチ・ターボ」を投入。ベースのNA 1.0L 直4 SOHCエンジンにターボを装着し、最高出力は57ps→85ps、最大トルクは8.0kgm→12.0kgmへ大幅に向上した。

1989年1月にデビューした日産「マーチ・スーパーターボ」

さらに、1989年1月には、コンパクトカーのモンスターと呼ぶに相応しい、「マーチ・スーパーターボ」がラインナップに加わった。マーチ・ターボのエンジンに、さらにスーパーチャージャーを追加したのだ。

日産「マーチ・スーパーターボ」に搭載されたMA09ERT型エンジン
日産「マーチ・スーパーターボ」のシステム

ターボとスーパーチャージャーは直列に配置され、低回転域ではスーパーチャージャーのみが過給を行ない、回転が上がってターボが利き始めるとスーパーチャージャーとターボの両方で過給。高回転域ではターボのみで過給する。両方の強みを生かして、両方の弱みを補填するシステムである。

日産・マーチ スーパーターボ リトルダイナマイトカップ仕様:1987年、草の根モータースポーツ振興のためのワンメイクレース「マーチ・リトルダイナマイトカップ」が始まった際、参戦者へレンタルマシンで提供されたのが、NISMO製作によるこの「マーチ・スーパーターボ」。そのエンジンは、全回転域での過給コントロールのため、低域をスーパーチャージャーに、高域をターボチャージャーに受け持たせた画期的な仕様で、排気量987ccにして110psを発生した。1988年8月には、排気量をモータースポーツのクラス分類に合わせて930ccに縮小しつつも同等の110psを発生する「MA09ERT型」搭載の競技専用車「マーチR」が発売され、1989年1月には、同一エンジンを搭載したロードカー「マーチ スーパーターボ」もリリースされた

全域での性能向上とレスポンスを向上したマーチ・スーパーターボは、最高出力110ps/最大トルク13.3kgmを発揮。リッターあたりの出力は何と118ps! この値は当時国産車最強だった。軽量なマーチにこれだけのハイパワーエンジンを搭載すると相当なじゃじゃ馬なので、高度なドライビングテクニックが必要とされた。

日産「マーチ・スーパーターボ」のコクピット
日産「マーチ・スーパーターボ」のフロントキャビン&シート

車両価格は、130.8万円(5速MT)/132.6万円(3速AT)、同時期のマーチ・ターボより約5万円高く設定された。現在の価値では、約183万円/186万円に相当する。

小型車マーチにターボとスーパーチャージャーを装備するとはなんと贅沢、と驚きをもって迎えられたモンスターマシンだった。

トヨタ・スターレット・ターボS vs.日産・マーチ・スーパーターボのまとめ

最後に、両モデルの基本スペックと性能を整理する。

トヨタ・スターレット・ターボS 日産・マーチ・スーパーターボ
エンジン1.3L 直4 SOHC 12V
インタークーラーターボ
1.0L直4 SOHC 12V ターボ
+スーパーチャージャー
最高出力/最大トルク105ps/15.2kgm110ps/13.3kgm
駆動方式/トランスミッションFF/5速MTFF/5速MT
車両重量790kg770kg
全長/全幅/全高3770/1600/1380mm3780/1560/1390mm
パワーウェイトレシオ7.5kg/ps7.0kg/ps
最高速約182km/h約190km/h
0→40mm加速約15.9秒約15.7秒
車両価格131.3万円130.8万円
トヨタ「スターレット・ターボS」vs.日産「マーチ・スーパーターボ」

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「スターレット・ターボS」は、中速トルクが太く加速に優れ、排気量が大きいにも関わらずリーズナブルな価格で、まさにボーイズレーサーを代表するモデルである。一方の「マーチ・スーパーターボ」は1.0Lながらスーパーチャージャーによる高レスポンスとターボによる最高出力100psの達成という、ターボとスーパーチャージャーの良いとこ取りしたモデル。ボーイズレーサーからは少し外れるが、技術をアピールした異色のホットハッチである。

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