Porsche 911 GT3 Artisan Edition

販促・イベント展示用に貴重な1台を空輸

それはポルシェ・エクスペリエンスセンター(PEC)東京のピットに静かに佇んでいた。多くの最新モデルに試乗することができるこの施設では、整備エリアに“GT3”や“ターボS”、“GT4 RS”といった希少なスポーツモデルが並ぶことも珍しくない。だが、このクルマが発散する空気感は、そんなハードコアなモデルたちとは一線を画す、洗練と凄味を湛えていた。

さて、今年4月に発表されたポルシェジャパン初の日本市場限定モデル「911 GT3アルティザンエディション」。そのプロトタイプがこのたび日本へ上陸した。「Artisan」とは「職人」「熟練工」を意味する英語およびドイツ語で、本モデルはその言葉の通り、911 GT3が誇るサーキット由来のハイパフォーマンスに、日本の伝統工芸である江戸切子や藍染のエッセンスを融合。機械工学とクラフトマンシップという、2つの卓越した世界を結びつけることを意図した特別限定車である。

エンジンに変更はなく、4.0リッターの自然吸気・水平対向6気筒エンジンは、最高出力510PS、最大トルク450Nmを発生。だが、ポルシェのモータースポーツパートナーであるマンタイ・レーシングが手掛けた「マンタイキット」を標準装着することで、ハンドリングや空力性能をアップグレード。挙動を洗練させ、安定感をさらに高めることで、限界領域での扱いやすさを引き上げている。

特徴的なリバリーはペイントでも表現可能

アルティザンエディションの随所に見られる切子のイメージグラフィックは、実はPEC東京のエクステリアにも印象的に使われている。アルティザンエディションは左ハンドルの7速DCT仕様で、限定30台が導入される。価格は5357万円と発表された。
アルティザンエディションの随所に見られる切子のイメージグラフィックは、実はPEC東京のエクステリアにも印象的に使われている。アルティザンエディションは左ハンドルの7速DCT仕様で、限定30台が導入される。価格は5357万円と発表された。

では、ディテールを見ていこう。まず目に飛び込んでくるのはそのリバリー(カラーリング)だろう。前回もレポートしたが、ボディカラーは通常のホワイトをベースに、エクスクルーシブ・マニュファクチャーで提供される特別色の「クラブブルー」を掛け合わせ、そのグラデーションによって空気と時間の流れを表現している。クラブブルーは“ジャパンブルー”とも呼ばれる、藍染の青に近い色として選定。後方へ向かって紙吹雪が舞うようなパターンは、997型911 GT3 RSに用意されていたチェッカーフラッグ柄のデカールと、マンタイのDTMマシンが纏う「グレロ」リバリーにインスピレーションを得ている。こちらはボディにフィルムを貼る形となるが、望めばペイントで施工することも可能だそうだ(もちろん別途、膨大な時間とコストが必要)。

GT3のアイコンである巨大なリヤウイングは、エンドプレートが大型化されたマンタイ製となる。そこには同社のロゴが配されるが、これはマンタイのコーポレートアイデンティティの関係で、通常はレッドかモノクロームでしか表現することができない。だが、今回は熱心に交渉を重ねることで、特別に許可を取りクラブブルーでコーディネートすることができたそうだ。

そしてカーボン製となるウイングの裏にはあるフレーズが書かれている。「Engineered in Flacht, Sharpened in Meuspath, Build for Japan」。フラハトで設計され、モイシュパトで磨き上げられ、日本のために造られた──。なお、「フラハト」はポルシェのモータースポーツ部門が置かれる町であり、GT系モデルの開発が行われる“聖地”。そして「モイシュパト」はニュルブルクリンクに近いマンタイ・レーシングの本拠地だ。なお、こちらはプリントではなく、職人がボディカラーと同色のホワイトでひとつひとつ書き上げていくという。

特製のファブリックは完成までに1年の時間が

インテリアにもこのホワイト×ブルーのコントラストが踏襲される。それはセンターコンソールやドアのトリムパネル、レザーのステッチといった部分だが、最も目を引くのはシートセンターのファブリックだろう。こちらも藍染に見られる白から青へと移りゆく淡いグラデーションをイメージしたもの。それを“染め”ではなく“織り”で表現した。この開発も難儀したそうで、サプライヤーと何度も調整を重ね、完成までにおよそ一年がかかったという。

シートはカーボン製の軽量フルバケットタイプで、中央は白×青のグラデーションが美しい専用のファブリックとなる。ロールケージも特別にセラミカホワイトで塗装される。
シートはカーボン製の軽量フルバケットタイプで、中央は白×青のグラデーションが美しい専用のファブリックとなる。ロールケージも特別にセラミカホワイトで塗装される。

このプロトタイプは今後、販売活動やイベントでの展示などに活用されるとのこと。実車は想像以上にパワフルかつエレガント、そして内に秘めた途方もないパフォーマンスを殊更ではなく暗に顕示してくるようなキャラクターだった。そんな凛として奥ゆかしい佇まいも、日本限定モデルらしいと思った次第だ。

REPORT/市原直英(Naohide ICHIHARA)
PHOTO/佐藤亮太(Ryota SATO)
MAGAZINE/GENROQ 2026年8月号

【問い合わせ】
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/

先日発表されたポルシェ初の日本市場限定モデル、911 GT3 アルティザンエディション。このブルーの印象的なリバリーを纏うスペシャルなGT3は果たしてどのような経緯を辿り、製作されたのだろうか。今回、ポルシェジャパンのキーマン2人に話を聞いた。

日本市場初の限定車「ポルシェ911 GT3 アルティザンエディション」はこうして作られる

先日発表されたポルシェ初の日本市場限定モデル、911 GT3 アルティザンエディション。このブルーの印象的なリバリーを纏うスペシャルなGT3は果たしてどのような経緯を辿り、製作されたのだろうか。今回、ポルシェジャパンのキーマン2人に話を聞いた。(GENROQ 2026年7月号より転載・再構成)