ロシア〜モンゴルの過酷なオフロードを走破した「カイエン S トランスシベリア」とは?

過酷なトランスシベリア・ラリー3連覇から14年、ポルシェ カイエンが披露した抜群の耐久性と走破性を再考

2006年から2008年にかけて、過酷なロングディスタンスラリー「トランスシベリア・ラリーに参戦したポルシェ カイエン。
競技用「カイエン S トランスシベリア」のラゲッジに搭載されたスペアタイヤ。
歴代ポルシェ同様、SUVのカイエンもまたモータースポーツにおいてパフォーマンスを磨いてきた。カイエンは2006年から2008年にかけて過酷なアドベンチャーラリー「トランスシベリア・ラリー(Transsyberia Rally)」に参戦し、その究極の走破性を証明したのだ。

Porsche Cayenne S Transsyberia

ノーマルに近い2台のカイエンが1-2フィニッシュ

2006年から2008年にかけて、過酷なロングディスタンスラリー「トランスシベリア・ラリーに参戦したポルシェ カイエン。
第3回トランスシベリア・ラリーに投入された2台のカイエン Sは、開発エンジニアのユルゲン・カーンがドライブし、見事優勝を手にした。

ポルシェは2006年の第3回トランスシベリア・ラリーに初めて2台のカイエン Sを投入し、ポルシェのエンジニア、ユルゲン・カーンとロシア人コ・ドライバーのコンビが優勝。2位にもドイツとスペインのプライベーターコンビが入り、見事1-2フィニッシュを果たした。この年はドイツ・ベルリンをスタートし、モスクワ、ノボシビルスク、イルクーツク、バイカル湖などを経由し、モンゴルのウランバートルでフィニッシュ。28チームが参加し、2台のカイエンは約1万kmを走破している。

初代カイエンの開発・テスト担当していたカーンは、2台の市販仕様カイエンに比較的小規模な改造を施して、この過酷なラリーに挑戦した。

足まわりはエアサスペンションに、アンチロールバーとロッキング・ディファレンシャルを含むメーカーオプションの「オフロード・テクノロジー・パッケージ」装着。さらに、頑丈なオフロードタイヤ、ボディ下部全体を覆うアンダーボディパネル、渡河時にエンジンを守るシュノーケルエアフィルター、ウインチや4基の補助ヘッドライトといったラリー用アクセサリーが追加されている。

2006年の経年を踏まえた26台のラリー仕様

2006年から2008年にかけて、過酷なロングディスタンスラリー「トランスシベリア・ラリーに参戦したポルシェ カイエン。
2006年に得た経験を活かし、ポルシェはカスタマー用ラリーカー「カイエン S トランスシベリア」を26台製作。2007年のイベントに投入することになった。

慣れない地形でのナビゲーション、ゴビ砂漠での極限のオフロード、度重なる渡河、モンゴルのダートトラックにおけるタイムトライアルなどにおいて、ほぼノーマル仕様に近い2台のカイエン Sは圧倒的な走行性能を披露する。そして、このトランスシベリア・ラリーでの活躍は、ポルシェの経営陣に明確なメッセージを伝えることになった。

2006年の1-2フィニッシュを受けて、ポルシェはカスタマースポーツプログラムを拡充。さらに、2008年にはラリー専用車「カイエン S トランスシベリア」を26台限定で生産することにった。カイエン S トランスシベリアは、カイエン Sをベースに長距離ラリーイベントへの参加を想定して開発。2007年、モスクワからウランバートル前での6200kmを走行するトランスシベリアに投入されている。

「2007年はすべてのチームが独立運営のプライベーターで、マシンの整備はポルシェが担当していました。ある車両は 20mもジャンプした後、コントロール不能のまま着地し、何度も横転しました。その衝撃でエンジンが車外に飛び出し、ギヤボックスがエンジンから切り離されていたほどです」と、カーンは過酷なラリーを振り返った。

この時のドライバーとコ・ドライバーは、カイエンの頑丈なボディシェルとボディに組み込まれていたロールケージにより、無傷で復帰したという。

水深約75cmまでの渡河も可能に

2006年から2008年にかけて、過酷なロングディスタンスラリー「トランスシベリア・ラリーに参戦したポルシェ カイエン。
カイエン S トランスシベリアには、エンジンに直結した専用シュノーケルが装備され、水深75cmまでの渡河が可能になった。

26台のカイエン S トランスシベリアは、アクシデントでクルーを守ったロールケージに加えて、アンダーボディの補強、市販モデルでも「オフロード・テクノロジー・パッケージ」として用意されていたディファレンシャルロック機能が追加されている。

ボディやドアにはサイドウインドウの高さまで水が入らないようにシーリングが施され、エアサスペンションを「ハイレベルII」に設定した場合、水深約75cmまでの渡河が可能になった。ルーフにまで伸ばされたシュノーケルを設置し、渡河時にもエンジンにフレッシュエアを供給。強化型フロントサスペンションにより、トレッドは34mm拡大された。

4.8リッターV型8気筒自然吸気エンジンは、ベースの最高出力340psから385psにパワーアップ。さらに燃費も改善された。シャシーには「ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロール(PDCC)」を採用。カイエン S トランスシベリアは2007年のトランスシベリア・ラリーでも勝利。表彰台を独占しただけでなく、トップ10台のうち7台がカイエンという、圧倒的な強さを発揮した。

2007年と同じ車両で圧巻の3連覇を達成

2006年から2008年にかけて、過酷なロングディスタンスラリー「トランスシベリア・ラリーに参戦したポルシェ カイエン。
2007年に使用されたカイエン S トランスシベリアは、ほぼそのままの状態で翌2008年のトランスシベリア・ラリーにも投入。見事イベント3連覇を達成した。

トランスシベリア・ラリーにおける2度目の成功は、カイエンのオフロード性能だけでなく、その信頼性と耐久性をアピールすることになった。「2007年に使用された車両はラリーに耐えただけでなく、そのほとんどが翌年のトランスシベリア・ラリーに投入されたのです」と、カーン。

2008年のトランスシベリア・ラリーにも、19チームが同じカイエン S トランスシベリアでエントリー。「2008年用に新車は作らず、シャシーのセッティングにも手は加えませんでした」とカーンは振り返る。ただ、ロシアやモンゴルの長いグラベル(未舗装路)セクションに向けて、より頑丈なオフロードタイヤが装着された。

2008年はモスクワからウランバートルまで7000km以上を走破し、3連覇を達成。さらにトップ10中、カイエン以外の車両は1台のみという、圧巻の勝利となった。

2009年にトランスシベリアの市販仕様を発売

2009年にはラリー仕様を再現した市販仕様「カイエン S トランスシベリア」が285台限定で販売された。
2009年にはラリー仕様を再現した市販仕様「カイエン S トランスシベリア」が285台限定で販売された。

2009年、ポルシェはトランスシベリア・ラリー3連覇を記念し、公道走行可能な「カイエン S トランスシベリア」の発売を決定。わずか285台が限定生産されている。

カイエンGTSに搭載されていた4.8リッターV型8気筒自然吸気ガソリンエンジンは、最高出力405psを発揮。6速マニュアルギヤボックス(ティプロトロニックSも用意)は最終減速比をGTSと同じ4.1:1とし、加速性能が大幅に向上した。0-100km加速はベースモデルから0.5秒速い、6.1秒以下を実現している。

「ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメント(PASM)」を含むエアサスペンションを標準装備し、ハイレベルIIを選ぶと、271mmの地上高を実現した。ただし、ラリーバージョンとは異なり、この状態での走行は60km/hに制限される。

ルーフにはレーシーな4連装ランプを装着することも可能。トランスシベリア・ラリー用ラリーカーをイメージし、「ブラック/オレンジ」「クリスタルシルバーメタリック/オレンジ」「ブラック/メテオグレーメタリック」「メテオグレーメタリック/クリスタルシルバーメタリック」という4種類のカラーリングが用意されていた。

ポルシェ初のSUVという境地を切り拓いたカイエンだが、それはマーケットだけでなく、ポルシェらしいモータースポーツの場に於いても同様に結果を残したと言えるだろう。

ポルシェ カイエン S トランスシベリアを動画でチェック!

2002年の初代カイエン開発時、ボディバリエーションのひとつとして検討されていた「カイエン コンバーチブル」。

非公開: 20年前にあえなくボツになった「ポルシェ カイエン コンバーチブル」の数奇な運命

2002年にポルシェ初のSUVとしてデビューを飾った「カイエン」。ポルシェは早い段階からカイエンのボディ形状について、コンベンショナルな5ドアに以外の選択肢を検討していた。不採用となったいくつかの候補のなかで、最もアバンギャルドなスタイルを持つのが、このカイエン コンバーチブルだろう。

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ゲンロクWeb編集部

スーパーカー&ラグジュアリーマガジン『GENROQ』のウェブ版ということで、本誌の流れを汲みつつも、若干…