メルセデスEQファミリーの最新モデル、EQS SUVの完成度をリポート

メルセデス・ベンツの電動旗艦SUV「EQS SUV」にアメリカで試乗! そこで感じたBEVプラットフォームの長所短所

メルセデス・ベンツのEQファミリーに加わった新型車、EQS SUVの450+のフロントビュー
メルセデス・ベンツのEQファミリーに加わった新型車、EQS SUV。最新のフルサイズ電動SUVはどのような仕上がりになったのか。自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎がアメリカ・デンバーで試乗した。
メルセデス・ベンツの電気自動車ファミリー、EQシリーズの最新作「EQS SUV」の試乗会がデンバーで開催された。その仕上がり具合を確認するべく、アメリカに飛んだのは自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎。最速の海外試乗リポートをお届けする。

Mercedes-Benz EQS SUV

スリーポインテッドスターが進化?

試乗会会場となるアメリカ・デンバー市街のホテルに入ったら、ロビーには早速EQS SUVが置かれていた。そのフロントグリルにあるスリーポインテッドスターが煌煌と光り輝いていて「あーついにやったな」と思った。

おそらくコストが下がってきたからだろうと思うけれど、灯火類や装飾にLEDをふんだんに使うのは最近のクルマの流行である。だからいつかきっとスリーポインテッドスターも光らせるに違いないと予想していたが、EQS SUVが第1号車に選ばれたようだ。

GLSよりちょっとだけコンパクト

EQS SUVの登場はすでに告知されていたので、予定通りのお目見えである。メルセデスがBEV専用のプラットフォームとして開発したEVA2と呼ばれるアーキテクチュアはEQSでデビューを果たし、つづいてEQE、EQS SUV、EQE SUVが使用することになっている。つまり残るはEQE SUVのみとなり、おそらくこれも間もなく姿を見せるだろう。

EQS SUVは、アメリカの景色の中で見るとそうでもないけれど堂々とした大きさである。全長5125mm、全幅1959mm、全高1718mm、そしてホイールベースは3210mm。GLSくらいのサイズかと思って調べたら、GLSは全長5210mm、全幅1995、全高1825mm、ホイールベース3135mmで、ホイールベース以外はEQS SUVのほうが小さかった。

でもまあ“サイズ感”としてはこの2台はほぼ同等である。ちなみにセダンのEQSは全長5216mm、全幅1926mm、全高1512mm、ホイールベース3210mmなので、EQS SUVのほうが短いけれど幅広く背が高い。ホイールベースは共有している。

航続距離は最長で671km

現時点での仕様は、450+、450 4MATIC、580 4MATICの3タイプで、EVA2ではeATSと呼ばれるモジュール型のパワートレインユニットを使用する。これはモーターやリダクションギヤなどをひとつのハウジング内に収めたもので、450+はeATSをリヤのみに、4MATICは前後に配置する。

モーターは交流同期型でパワースペックは450+が360ps/568Nm、450 4MATICが360ps/800Nm、580 4MATICが544ps/858Nmとなる。バッテリー容量は108.4kWhで航続距離(WLTP)は450+が540-671km、450 4MATICが511-610km、580 4MATICが511-609kmと公表されている。

同じ容量のバッテリーを積むEQSの航続距離は約700kmなので、EQS SUVのほうが若干短いのは重量とCd値の違いによるものだろう。580 4MATIC同士だとEQSの車重は2585kg、EQS SUVは2735kgなので150kg重く、Cd値はEQSが0.20であるのに対してEQS SUVは0.26となる。

後輪操舵の角度も“アプデ”で拡張可能

サスペンションはフロントが4リンク式、リヤが5リンク式で、すべての仕様に電子制御式ダンパーと空気ばねが組み合わされた“エアサス”が標準装備される。また後輪操舵(最大舵角4.5度)ももれなくついてくる。後輪操舵の舵角はOTAによりソフトウェアを購入&ダウンロードすると最大10度まで拡張できるようになっている。

エクステリアデザインは極めてコンサバティブな造形で、EQSのようなちょっと未来を予感させるような新しさに乏しい。インテリアはEQSと同じ全幅1410mmに及ぶ全面ガラス張りのMBUXハイパースクリーンがオプション、標準はSクラスやCクラスと同じ2モニターを配置する仕様となる。

3列目のふたり掛けシートもオプションで設定。畳めばラゲッジルームのフロアとほぼ面イチになる。ラゲッジルームの容量は5人乗りが645-2100リットル、7人乗りが565-2020リットルである。

やや気になったのは・・・

今回は3つのパワートレインに試乗することができたが、特に乗り心地に関しては個体差が見受けられた。原因は主にリヤのサブフレームの取り付け剛性/精度のバラツキにあったように思う。路面からの比較的大きな入力に対して、それをうまく受け止め収束することができずに乗員までゴツンとショックが伝わってくる場面があった。

1番マシだったのは580 4MATIC。ゴツンはないものの、減衰がやや遅く全体的にフワッとした乗り心地だった。これがEQS SUV本来の乗り心地なのか定かではないけれど、ドライブモードをスポーツにすればそれもほぼ収まったので、おそらくこの辺を狙っているのではないかと推測できる。

バッテリーが搭載されているホイールベース内側は自動的にそれなりの剛性と強度が確保できるものの、前後のサブフレームにはサスペンションとパワートレインが載っかっているわけで、ひとつのプラットフォームでセダンのみならずラージサイズのSUVもまかなうのは物理的にも生産技術的にもなかなか難儀なのだと思う。

自然なフィールが光ったのは“RR”

メルセデス・ベンツのEQファミリーに加わった新型車、EQS SUVの580 4MATIC。リヤビュー
メルセデス・ベンツのEQファミリーが放つ最新作、EQS SUV。日本への導入時期は2023年上半期を予定しているという。

450+や450 4MATICに乗るとこれで十分と感じたものの、580 4MATICに乗り換えるとやっぱりこれくらいのパワーがあると余裕があっていいなと考えを改める。これはいつもの通りなのだけれど、さすがに2.5トンを超える物体を機敏に動かすには450+や450 4MATICでもいっぱいいっぱいだ。

ただ、内燃機よりも圧倒的にレスポンスがいいモーターのおかげでかなり救われる。ハンドリングに関しては後輪駆動の450+がステアリングフィールも含めてもっとも好感が持てた。前輪が駆動していない、言ってみれば911と同じRRのレイアウトだということもあると思う。4MATICは後輪操舵のサポートを意識するが450+ではサポートなしで自然にクルマが向きを変えているような感触が得られた。

“EQS SUVではついにベンツマークが光ります”みたいなことをSNSに書いたら賛否両論だった。日本に上陸したばかりのEQSよりもおそらく高額になるこのクルマがどういう方に刺さるのか、自分なんかにはよくわからないけれど、世の中のたいていのことは琴線に触れる人が必ずいるのである。

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

メルセデス・ベンツ EQS SUVのフロントビュー

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著者プロフィール

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渡辺慎太郎

1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、1989年に『ルボラン』の編集者として自動車メディアの世界へ。199…