ポルシェ911への最新挑戦者「メルセデスAMG SL43」

スポーツカーの絶対王者「ポルシェ911」にメルセデスAMGの新生「SL43」は匹敵するか?

新型SL43のパフォーマンスは911の領域に入るか? 2台のスポーツコンバーチブルの真っ向勝負の行方や如何に。
新型SL43のパフォーマンスは911の領域に入るか? 2台のスポーツコンバーチブルの真っ向勝負の行方や如何に。
AMGの完全自社開発モデルとして生まれ変わった7代目SLは、電動ターボやAMG初のフロント5リンク式サスなどの先進技術を投入してきた。迎え撃つは王者ポルシェ911カレラ・カブリオレ。次元の高い2台の走行性能とオープンモデルとしての個性に唸った。

Mercedes-AMG SL 43
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Porsche 911 Carrera Cabriolet

エポックメイキングな電動ターボ技術で

ガルウイングドアの初代から数えて7代目となる新型SL。ロングノーズショートデッキや14本の垂直ルーバーのグリル等がAMG GTに似ている。

SLと聞いて「そういえば最近ノーマークだった!」という人も多いのでは? 筆者自身もそんなひとりなのだが。

今年秋に日本市場に導入されたばかりの新型SLは、1954年に登場した有名なガルウイングドアの初代から数えて7代目。丸みを帯びたロングノーズショートデッキのシルエットや14本の垂直ルーバーのグリル等々、新型SLはAMG GTによく似ている。だからこそメーカーは「ボディシェルは専用設計のアルミスペースフレームで、他のモデルからの流用はナシ」というアピールをことさら強くしているのだろう。

新型SLに関するトピックはいくつかあるが、気になるベスト3はSLとしては珍しく(初めてではない)4気筒エンジンを搭載し、そのAMG M139ユニットが電動ターボを採用していること。ルーフが硬質なバリオルーフからソフトトップに戻り軽量化されたこと。そしてシート配置が4代目(R129)以来の2+2シーターになったことだ。

スポーツカーのリヤに備わる“実用的とは思えない”+2シートは、ポルシェ911に対する宣戦布告としか思えないのだがどうだろう?

2.0リッター直4ターボとは思えぬパワー

原初のSLはレーシングカー由来の高尚なスポーツカーだった。だが2代目以降は優雅なオープンツアラーとしての地位を確立しており、911とは異なる路線を走ってきた。それでも今回、機動性が高そうなボディとコンパクトで強力なパワーユニットを手に入れたとあらば、911の領域を侵すようなアプローチがあっても不思議ではない。今回、SL43のパフォーマンスを計るモノサシとして911カレラ・カブリオレを連れ出したのはそういった理由からである。

新型SLの走りで即座に主張してきたのは、やはり電動ターボだった。17万回転まで瞬時に回転を高められるというこの最新の過給機に「超ハイレスポンスターボ!」のようなコピーは当てはまらない。そもそもスロットルのすぐ奥に図太いパワーが待機しているような感じで、それが躊躇なく放出されるのだ。鼻先の質感はそれなりに軽いのだが、パワーの出方はとても2.0リッター4気筒ターボという軽々しい感じではない。この仕事をしていると稀に「あ、これは時代を変えるぞ」と思えるテクノロジーに出くわすのだけれど、これもそのひとつだと思う。最初のパワーが凄くて、そこから先少し収束が早い感じは例えば自然吸気V8あたりの対極で、EVのモーターに近い感じがする。

一方いかなる時も静かでアピール弱めなシャシーも優れている。ボディ剛性はAMG GTロードスター比で横方向が50%、前後方向が40%アップ! と言われても正直「?」という感じなのだが、走り込んでいるうちに納得がいくようになる。モノコックなのだから当然なのだが、芯がないのに硬い感じ。350ccアルミ缶の底の方の硬さ、と言ったらかえって紛らわしい?

ともあれこれまでのSL像(筆者の場合、世代的にR129だ)はいきなり消し飛んでしまった。そしてこれなら911の敵足りえるぞ、とも。

素のカレラ・カブリオレは古典かつ王道の秀作

対する911カレラ・カブリオレは992型になってから初めてドライブする。カレラ4やターボSのカブリオレは以前ドライブしているのだが、ベースモデルは派手さがないためか、案外縁がない。

さっそくソフトトップを下ろし、走りはじめる。そういえばSLはルーフ開閉のスイッチもセンターモニターの中に組み込まれ扱いにくかったのだが、物理スイッチの911はアナログ的な良さがある。伝統の5連メーターも中央のレブカウンターだけはちゃんとリアルなタイプが付いて全体の質感を高めている。

911カレラ・カブリオレの第一印象はシャシーだった。カチッとしていてアシが911クーペでもかくやと思えるほどバタつかない。ワイドボディのターボSはそのタイヤ幅を完全には掌握し切れていない感じがした。ところが今回のナローボディはPASMをはじめとする電制がこちらのドライビングを補ってくれていることは承知しているが、それよりも芯の強さを感じさせるシャシーの素性の良さが前面に感じられる点がいい。

2駆ということも手伝ってクルマ全体の動きが明らかに軽快。ワイドボディターボ系のベタッと路面に張り付いて走る感じも他にない911のキャラクターだが、スタビリティの高いAWDモデルなんて今どきいくらでもいる。その点においても古典かつ王道、素のカレラ・カブリオレは想像を超えた秀作だった。

比較を許さない問答無用のオーラ

4代目(R129)以来の2+2シーターとなったSL。これも+2シートを備えるポルシェ911とまさに競合する点だ。

今回の2台をスポーツカーという定義で切り取ったら、いい勝負ではあるがそれでも911に軍配が上がる。SLは色々な最新ギミックの助けを借りることで優れたスポーツカーとして成立しているのだが、そのアプローチが作為的に思える部分もある。また20世紀までのSLが湛えていた、ライバルとの比較を許さない問答無用のオーラが感じられないことも、少し残念なポイントだ。たぶんこの印象はV8モデルが登場しても変わらないような気がする。

それでもラグジュアリーツアラーとして斬れば、絶対的な乗り心地という点でカレラ・カブリオレはSLに敵わない。新型SLが+2シートという実用的なラゲッジスペースを追加してきたこともプラス方向にはたらくと思う。今回の2台の判断基準は“スポーツドライビングにどれくらい重きを置くか”それに掛かっているのだと思う。

REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2023年2月号

SPECIFICATIONS

メルセデスAMG SL 43

ボディサイズ:全長4700 全幅1915 全高1370mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1780kg
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1991cc
最高出力:280kW(381PS)/6750rpm
最大トルク:480Nm(48.9kgm)/3250-5000rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/40R20 後295/35R20
車両本体価格:1648万円

ポルシェ911カレラ・カブリオレ

ボディサイズ:全長4520 全幅1850 全高1300mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1575kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHCターボ
総排気量:2981cc
最高出力:283kW(385PS)/6500rpm
最大トルク:450Nm(47.9kgm)/1950-5000rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前235/40ZR19 後295/35ZR20
車両本体価格:1728万円

【問い合わせ】

メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/

スーパースポーツ的ハンドリングのSL43は、ラグジュアリースポーツではなく、紛れもなくAMGが本気で造ったスポーツカーだ。

「これはポルシェ911に匹敵するかも!?」メルセデスAMG SL43を箱根路で試乗して痛感した実力

メルセデスのモデルの中で最も長い歴史を持つのがプレミアムオープンのSLだ。誕生70年という記念すべき年に7代目となる最新モデルが上陸を果たした。電動ターボ、AMG初のフロント5リンク式サスなど先進技術を採用した、AMG完全自社開発モデルの走りを箱根路で堪能してきた。

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著者プロフィール

吉田拓生 近影

吉田拓生

1972年生まれ。趣味系自動車雑誌の編集部に12年在籍し、モータリングライターとして独立。戦前のヴィンテ…