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キャブがバイクに向いている理由
クルマの世界では1990年代にはFI(燃料噴射装置)が主流となっていたが、バイクの世界ではキャブレターが進化を続け、4ストロークの市販車で1万9000回転以上を刻むようになり、2ストロークのレーシングエンジンのパワーを電子制御で手なづけるまでに進化する。
エンジンを味わう乗り物でもあるバイクでは、気筒数や各気筒の配置、クランク位相角の違いなどによるトルクや回転の特性やフィーリングがよりダイレクトに感じられる。そのためキャブレターはエンジンのハイパワー化や鋭いレスポンスといった性能面だけでなく、ゆったりとしたクルージング感といった、バイクの性格を“演出”する役割まで担っていた。その演出の部分では、2023年となった現在でもキャブレターの方が優れているとするベテランライダーは多い。
こんなにも素晴らしいバイクのキャブレターだが、どうしても勝てない相手がいた。そう、排出ガス規制である。日本で初めてバイクの排ガスに規制が設けられたのは、1998年。前年に温室効果ガス排出削減を定めた京都議定書に日本が署名したこと受けての規制だ。この規制でまず2ストロークエンジン搭載車が絶滅。そして時を経た2006年。1998年の規制値の3分の1〜5分の1にするというとんでもない削減目標が打ち出され、それに対応できないキャブレター車の多くが消えることになった。2012年に国際協調により少し規制値が緩くなったが、2016年の規制がキャブレター車を終焉に導く決め手となる。国際基準のEURO4に準拠した規制でOBD(車載式故障診断装置)の装備が義務化(規制値は2012年の2分の1)されたのだ。対応が難しいアナログなキャブレター車は軒並み生産終了に追い込まれた。
リーズナブルなアジアンバイクなら
そして2020年からのEURO5に準拠した現在、国内の正規ディーラーで販売される、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキという4つの日本メーカーでは、競技専用モデルを除く全ての排気量のバイクがFI(燃料供給装置)車になっている。BMWやドゥカティ、ハーレーダビッドソンといった日本法人のある有名欧米メーカーも同様で、現行の日本仕様モデルでキャブレター車は皆無だ。
しかし実は、インドや中国、インドネシアといったアジア圏の、地産地消とも言える現地生産の小排気量モデルでは、日本メーカーのキャブレターバイクが作り続けられていた。それらのモデルが商社やバイクショップなどによって“アジアンバイク”と呼ばれる個性的でリーズナブルなバイクとして並行輸入されてきたのだ。
しかしEURO5と時を同じくした2020年、アジアンバイクの世界にも規制の波が押し寄せる。二輪車の販売台数でトップを争うインド(1447万台:2021年)と中国(1785万台:2021年)がともに排出ガス規制を強化。キャブレターではその規制に対応できず、これらの国々でもバイクのFI化が文字通り急加速する。
円安から輸入コストが増大
2022年末時点で筆者が調べたところ、新車で並行輸入される日本ブランドのキャブレター車はホンダXR150L、NAVI110、カワサキW175シリーズ、KLX150シリーズ、Dトラッカー(150)シリーズくらいであった。これらのモデルにしても、2022年は円安が進んだことから、仕入れ価格が上がり、並行輸入されなくなってきている。そしてまたいつFI化されてもおかしくない。たとえアフリカや南米にキャブレター車が存在したとしても、輸送コストを考えると並行輸入されることは考えにくい。 つまり2023年が、信頼性の高い日本メーカーのキャブレター車を新車で購入する最後のチャンスになるかもしれないのだ。新車で買いたいなら早めの決断を!
※新興の海外ブランドのバイクや競技車両に保安部品を付けたオフロードバイクやトライアルバイクでは新車販売されるキャブレター車もあります。