小変更されたM3のAWDモデルに試乗

「マイチェンで何が変わった?」スポーツサルーンの代表格BMW M3コンペティションM xドライブに試乗

日本仕様のM3は現在この「コンペティションM xドライブ」のみ。
日本仕様のM3は現在この「コンペティションM xドライブ」のみ。
BMWの主力モデルである3シリーズのマイナーチェンジに合わせ、M3も小変更が施された。インフォテインメントシステムを一新し、極めてモダンな室内空間となった。熟成を重ねるスーパーセダン、M3を改めて試乗することで新たに見えてきたものとは。

BMW M3 Competition M xDrive Sedan

M3の変更点はインテリアのみ

ハンドリングや乗り心地は基本ハードウェアに共通点が多いはずのM340iとは別物のゴリゴリとした剛性感とダイレクト感。

2022年秋、BMWの3シリーズが、おそらくモデルライフ折り返しとなるフェイスリフトを受けた。エクステリアでは前後ライトやキドニーグリル、フロントバンパーなどが、BMWの最新デザイン言語に沿ってアップデートされた。ただ、より大きく変わったのはインテリアで、特筆すべきポイントは2つある。ひとつは「カーブドディスプレイ」だ。これは12.3インチのメーターパネルと14.9インチのセンタータッチディスプレイをドライバー席を囲むように湾曲したパネルに一体化したものである。もうひとつは、センターコンソールに屹立していた伝統的なシフトセレクトレバーが姿を消して、指先で操作可能な小さなノブに取って代わられたことだ。これらの新しいインテリア要素は2020年にデビューした新世代電気自動車のiX以降に発売されるBMWに順次採用されている。

というわけで、今回連れ出したM3にも、ベースとなる3シリーズに準じるアップデートが施されている。聞けば、欧州ではM3ツーリング(日本未発売)の登場とほぼ同時期の2022年7月から、この仕様で出荷されるようになっているそうだ。ただ、今回のM3を観察するに、コクピットにはあの握り心地のいいシフトレバーが残っている。改めてエクステリアを見回してみても、見慣れたM3そのままだ。BMWジャパンに確認してもまったくそのとおりで、M3で今回新しくなったのはカーブドディスプレイのみという。走り方面を含めたメカニズムにまつわる変更も公表されていない。

考えてみたら、M3は基本ハードウェアこそ3シリーズベースとはいえ、変更可能なエクスリア部品は通常の3とは別系統の専用デザインだし、そもそも発売時期も異なる。また、通常のBMWは基本的に伝統的シフトレバーを廃止する方向だが、昨年ベールを脱いだXM(M創立50周年記念にしてM1以来25年ぶりのM専用車種)にはシフトレバーがある。真正Mのモデルには今後もシフトレバーが残されるのだろう。

視認性の向上したメーターディスプレイ

今回試乗したM3はコンペティショングレードの、2WDに遅れて追加された4WDである……と書いているそばで国内の最新ラインナップを確認すると、日本仕様のM3はいつの間にか、この「コンペティションM xドライブ」のみとなっていた。ちなみにM4には2WDが残されており、ドイツ本国だとM3でも2WD、非コンペティションの素モデル、6速MTがまだ選べるようだ。

新たにカーブドディスプレイを得たM3のコクピットだが、見た目の好き嫌いはあろうが、視認性が向上したのは事実だ。現代のMはパワートレインからサスペンション、運転支援システムそれぞれを細かく設定可能で、そのインターフェースにもなるセンターディスプレイの視認性は良いに越したことはない。

また、インフォテインメントシステムが最新OS8となって「アップルカープレイ」に対応したのは該当ユーザーには朗報だろう。本国ではアンドロイドオート対応とも公表されているが、日本仕様は現時点ではアップルのみのようだ。残念。

メーターパネルの基本レイアウトは従来どおりだが、BMWの最新アイコンであるヘキサゴンをより幾何学的・抽象的にかたどったデザインとなった。よってエンジン回転数がこれまでほど細かく表示されなくなったものの、M3を“らしく”走らせると、どうせ見ているヒマはないのでまったく問題はない(?)。

FR好きも納得のAWD

走行メカニズム面での変更は伝えられていないのは前記のとおりで、個人的に昨秋に乗ったM3(今回と同グレードのコンペティションM xドライブ)と比較しても、差異は特に感じられなかった。

というわけで、今回のM3の試乗もゴキゲンそのものだった。直噴ターボらしく低中速域からパンチがあふれているくせに、スポーツモード以上では4000rpmくらいからレスポンスが高まり、そのまま7200rpmまで突き抜ける。ターボと自然吸気のイイトコ取りのような性能と快感は名機というほかない。ハンドリングや乗り心地も基本ハードウェアに共通点が多いはずのM340iとは別物のゴリゴリとした剛性感とダイレクト感が伝わってくる。やはり真正のMは別格である。

M3に搭載される4WD=M xドライブの原理も通常のxドライブ同様で、後輪駆動をベースに油圧多板クラッチで必要に応じてフロント配分する。通常のxドライブはフルグリップ時でもアクセル開度や舵角に応じて積極的にフロント配分しており、実際、舗装路でも4WDらしい安心感や安定感が得られる。

対してM xドライブは「フルグリップ時は完全な後輪駆動として走り、前輪へトルク配分するのは基本的に駆動輪のスリップを検知した場合」と資料にも明記される。実際にも、ワインディングで少し頑張る程度までなら、4WDっぽさは見事なまでに微塵もない。例えば急いでUターンしたときや、明確に危うい姿勢になりかけたときに初めて手を差し伸べてくる。

純粋なFRが欲しいなら

M3に搭載される4WD=M xドライブの原理は通常のxドライブ同様。後輪駆動をベースに油圧多板クラッチで必要に応じてフロント配分する。

これなら生粋のFR好きにも、保険としてほぼ不満の出ない4WDではないか(2WDモードもあるし)と思う。今どきこの種のクルマで2WDが残されていること自体が珍しいM3/M4だが、M xドライブなら4WDへの移行もスムーズだろう。2WDのラインナップがじわりと減っているのも理解はできる。逆に「それでも純粋なFRで乗りたい」という向きは、残されたM4の購入を急いだほうがいい。

REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2023年3月号

SPECIFICATIONS

BMW M3コンペティションM xドライブ・セダン

ボディサイズ:全長4805 全幅1905 全高1435mm
ホイールベース:2855mm
車両重量:1800kg
エンジン:直列6気筒DOHCターボ
総排気量:2992cc
最高出力:375kW(510PS)/6250rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/2750-5500rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35R19 後285/30R20
車両本体価格:1382万円

【問い合わせ】
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/

M3の限定ハイパフォーマンス仕様「BMW M3 CS」の走行シーン。

「究極のM3誕生」20kgの軽量化と40PS出力が向上した「BMW M3 CS」デビュー【動画】

BMW M社(BMW M GmbH)は、M3の軽量ハイパフォーマンス仕様「M3 CS」を発表した。モータースポーツ活動からフィードバックされた、専用デザイン、カーボンファイバー強化プラスチック(CFRP)製パーツの導入による大幅な軽量化、エンジン出力の向上、専用シャシーセットアップなどが施されながら、M3が持つ日常域での使い勝手も確保されている。

キーワードで検索する

著者プロフィール

佐野弘宗 近影

佐野弘宗