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CHEVROLET C6 Corvette Z06
ドライサンプLS7の出荷停止
GMがついにV8スモールブロック最高峰というべきLS7の“クレートエンジン”オーダーをストップしたと報じられたのは昨年初春のことだ。クレートとは木箱の意味。いつでも簡単にエンジンユニットを買えて、バックヤードでも搭載できる状態で木箱に梱包され、メーカーから送られてくるというアメリカならではのシステムを象徴する単語だ。
試しにシボレーパフォーマンス(Chevrolet Performance)のサイトを見てほしい。そこにはスタンダードからホットロッド、レース用までありとあらゆるクレートエンジンや周辺パーツの情報が掲載されていて、望めばそのままeコマースもできる。見ているだけでも面白いサイトで、私も原稿に疲れるとたまに覗いてみては妄想に耽るのだった。
この原稿を書くにあたっても今一度そのサイトを確認してみたが、やはりもうLS7のクレートエンジンはカタログされていなかった。その進化版でウエットサンプのLS427/570はまだなんとかオーダーできそうな気配だったけれど。
あえてのプッシュロッド式
LS7はアメリカンV8のクラシックな味わいとモダンな高性能を融合した奇跡のプッシュロッドエンジンだった。排気量7000ccのOHV自然吸気で、最高出力は511PS。スペックだけでいうと他にもすごいアメリカンエンジンはたくさんあるけれど、7000rpmまで回るLS7のOHVフィールは快感を通り越しクルマ運転好きをして呆然自失とさせる。
ル・マン24時間で優勝したC6-R用レーシングエンジンの技術を盛り込み、ドライサンプ式オイル潤滑システムやチタン製のコンロッドにインテークバルブなどを採用。最新であるにもかかわらずあえてプッシュロッド式としたことでエンジン高さは驚異的な低さとなり、スポーツカー用として性能と味わいを両立する、つまり古典的でモダンという稀有なV8ユニットとなったわけだ。
補器類のついたクレートエンジンを気軽に買えるということもあって、スワップ用やオリジナルスーパーカー用のユニットとしても重宝されてきた。そうOHVエンジンはミドシップカーとの相性も素晴らしい(だからデ・トマソ・パンテーラはイタリア製V8エンジンを積むモデルよりもずっと素晴らしいスポーツカーだった!)
日に日に良質な個体は減っている
新車時にこのエンジンを積んでいたモデルは「C6コルベットZ06」と「カマロZ28」だ。前者は日本でもよく売れたから、マーケットにはまだ少なからず存在する。それでもいっときに比べて流通量は確実に減っていて、当然ながら価格も上昇気味だ。
走行距離の少ないノーマル個体を見かけることはほとんどなく、あっても700万〜800万円のプライスタグをつけている。500万〜600万円の予算で比較的オド表示が少なく、できるだけ改造のない個体を探すことは日に日に難しくなってきた。今はまだアメリカにもたくさんあるし、エンジンも簡単に見つかる。けれどもLS7の魅力はアメリカンV8ファンなら誰しも認めるところで、早晩、奪い合いになることは必至。狙うなら今のうちだと思う。
アメリカンV8OHVエンジンの印象として誰もがこんなことを言う。「初めてプッシュロッドエンジンを掛けた時の感動を忘れられません!」。筆者もそうだ。初めてドライブしたアメリカンV8はC4コルベットだったが、車体全てがエンジンになってしまったかと思うほどの振動にノックアウトされたものだった。
3ペダルの6速MTのみなのがいい
C6のZ06はもっとそうだ。もうまるでエンジンブロックに乗っかっているというか、腰から下がブロックとつながったかと思うほどの振動で目覚める。その振動がまた心地よく、乗り手の骨身に伝わって快感の脈動となっていく。そして、V8サウンドだ。“七千回転”までよく回り、ワイルド&ビーストながら高回転域では絶妙な滑らかさもみせる。そこでドライバーの脳みそはとろけ出す。
しかも、Z06は3ペダルのマニュアルミッションのみ! ある意味、最後のアメリカンマッスルフィールをリーズナブルに体験したいなら、今がラストチャンスかもしれない。