歴史から紐解くブランドの本質【ジャガー編】

「ジャガー」は超高性能を比較的手頃な価格とする良心を持っている【歴史に見るブランドの本質 Vol.27】

世界的なヒット作となったEタイプ。最高速240km/hを誇る超高性能でありながら、比較的低価格で販売された。
世界的なヒット作となったEタイプ。最高速240km/hを誇る超高性能でありながら、比較的低価格で販売された。
自動車メーカーは単に商品を売るだけではなく、その歴史やブランドをクルマに載せて売っている。しかし、イメージを確固たるものにする道のりは決して容易ではない。本連載では各メーカーの歴史から、そのブランドを考察する。

サイドカー製作からコーチビルダー業へ

最高速100mph(約160km/h)を達成したSSジャガー100。エレガントでスポーティなスタイリングのオープン2シーターモデルだ。
最高速100mph(約160km/h)を達成したSSジャガー100。エレガントでスポーティなスタイリングのオープン2シーターモデルだ。

ジャガーはウィリアム・ライオンズとウィリアム・ウォームズレイが1922年、ブラックプールに「スワロー・サイドカー・カンパニー」を設立したのが始まりである。その後サイドカー製作だけでなく自動車のボディ修理も手がけるようになり、それをきっかけにコーチビルダー業もはじめた。

1927年、オースチン・セブンをベースとした四輪車の製作に乗り出す。ライオンズは当初から美しいデザインにこだわり、おしゃれなツートーン塗装なども用意し、それなりのヒット作となった。コーチビルディングが本業となったため会社名も「スワロー・コーチビルディング・カンパニー」に変更する。生産台数が増えるにつれ、オースチン社の近くに移転する必要が生じ、場所をコベントリーに移す。

1932年、スタンダード社のエンジンとシャーシをベースとしたSS1が登場する(SSはスタンダード・スワローの頭文字)。この美しいデザインを持つSS1はヒット作となるが、共同創設者のウォームズレイが会社を去ることになり、ライオンズは1934年に新会社、SSカーズを設立する。

磨きがかかる流麗なスタイリング

1955年から1957年にル・マン24時間レースで3連勝を成し遂げたDタイプ。

ライオンズはより高性能を目指し、エンジンの改良に着手した。サイドバルブからクロスフローOHVに変更、70馬力から102馬力へのパワーアップに成功した。この高性能エンジンを搭載した、シャーシも新設計の新型モデルを「SSジャガー」と名付けたのだ。SSジャガーは高性能にもかかわらず395ポンドという低価格で発売され、エレガントでスポーティなスタイリングもあって大ヒットとなる。このオープン2シーターモデルは最高速100mph(約160km/h)を達成しSSジャガー100と呼ばれた。

第二次世界大戦の勃発により生産は中断されるが、終戦を迎える1945年に社名をジャガー・カーズと改めた。基本的に戦前型のまま生産を開始するが、車名は「ジャガー」となった。但し、エンジンはまだスタンダード社のものがベースのままであった。

本格的な戦後モデルとして登場したのが1948年登場の2シータースポーツカーのXK120である。XK120はジャガー独自開発の6気筒DOHCを搭載した流麗な車で、120は最高速120mph(193km/h)に由来する高性能車である。XK120はモータースポーツにおいても大活躍し、純レーシングカーのCタイプへと発展していく。Cタイプは1954年にル・マン24時間レースに照準を合わせたモノコックボディのDタイプへと成長する。Dタイプは1955年から1957年までル・マンを3連勝し、ジャガーの名声は世界中に轟くこととなった。サルーンモデルにもこの高性能な6気筒エンジンを搭載し、代を追うごとに流麗なスタイリングにも磨きがかかっていき、ジャガーは世界を代表するスポーツサルーンとなっていった。

超高性能でありながら比較的低価格

1961年に登場したEタイプ。当初は3.8リッター直6エンジンを搭載したが、1964年に排気量を4.2リッターに拡大した。

1961年、Dタイプの設計をベースとしたスポーツカー、Eタイプが誕生する。Dタイプのポテンシャルを引き継いだ最高速240km/hを誇る超高性能でありながら、比較的低価格で販売される(同等の性能を持つアストンマーティンやフェラーリの半値程度だったといわれる)というジャガーの伝統が守られたこともあり、世界的なヒット作となる。

現在でも最も美しいスポーツカーの1台とされるEタイプこそ、現在に連なるジャガーのイメージを象徴する1台と言えよう。

現在のブランドを形作った「マクラーレンF1」。現在では極めて貴重な車として認識されており、オークションでは20億円を超える値が付いているという。

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映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』でスタントを務めたレプリカ「アストンマーティン DB5」。映画『007』シリーズ60周年を記念したチャリティオークションにかけられ、292万2000ポンド(当時約4億6700万円)で落札されたという。

ボンドカーで確立した「アストンマーティン」ブランド【歴史に見るブランドの本質 Vol.25】

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著者プロフィール

山崎 明 近影

山崎 明

1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。1989年スイスIMD MBA修了。…