新車価格は690万円! イギリス流のクラシックな世界観を演出するインテリアを45万円で満喫する!!【ジャガーSタイプ・オーナーズレポート vol.3】

激安で買ったアシ車のジャガーSタイプのレポート第3回目はインテリアについて語りたいと思う。少し前のジャガーの車内空間に入ると、ウッドパネルとレザーによる英国車伝統の世界が広がっていることに誰しもが気づくことだろう。腐ってもジャガーだ。それはコミコミ45万円で買った激安中古車でも変わりがない。今回はそんなジャガーのインテリアについての筆者の雑感を交えて語って行くことにしよう。
ジャガーSタイプ
■Specifications
全長×全幅×全高:4905×1820×1445mm ホイールベース:2910mm 車両重量:1720kg エンジン:2967ccV型6気筒DOHC24バルブ 最後出力:243ps/6800rpm 最大トルク:30.6kgm/4100rpm 燃料供給装置:電子制御燃料噴射 トランスミッション:6速AT 駆動方式:FR ステアリング形式:パワーアシスト付ラック&ピニオン サスペンション形式(前後):ダブルウィッシュボーン ブレーキ形式(前後):ベンチレーテッドディスク タイヤサイズ(前・後):235/50R17・235/50R17 新車価格:690万円(税抜)

今、不人気モデルが狙い目? コミコミ45万円!で購入した中古の「ジャガー」は本当にドロ沼なのか!? 【ジャガーSタイプ・オーナーズレポート vol.1】

現在、筆者が愛用しているクルマが2004年式ジャガーSタイプ 3.0V6だ。2019年に走行距離4万7000kmの個体を車両価格35万円(総額45万円・車検2年付)で購入した。走り良く、快適で、大きなトラブルもなく、大変満足している。今回はそんな筆者のジャガーSタイプについてレポートしていこう。 REPORT:山崎 龍 PHOTO:MotorFan.jp

英国車の流儀に則ったインテリアはグローバル化により
今や失われようとしているクラシックな世界

今回はジャガーSタイプのインテリアについて語りたいと思う。写真を見ればわかる通り、Sタイプのインテリアは、ウッドパネルと本革を組み合わせた伝統的な英国車のそれだ。良く言えば伝統墨守、悪く言えば古色蒼然としたものと言えるだろう。

筆者の2004年型ジャガーSタイプ(シリーズ3)のインテリア。英国車の伝統に則ったウッドパネルとレザーの多用が特色。1999年に登場したシリーズ1は、半円状のプラスチッキーなセンターコンソールを採用した内装デザインの評判が悪く、2002年のビッグマイナーチェンジを機に上位モデルのXJに似たデザインに変更された。

当のジャガー開発陣はこのレトロ路線にずっと前から飽き飽きしていたらしく、いつかはモダンでハイテクなクルマへの脱却の機会を伺っていたようだ。彼らが発表してきたコンセプトカーのインテリアは常にモダン志向だったが、ファンがそれを許さなかったのだ。

メーターパネルは左から水温計、液晶のODとトリップを内側に配置した回転系、同じく液晶の時計を内側に配置した速度計、水温計という順番に並ぶ。それぞれのメータの隙間に各種インジケーターランプが配置される。配置やデザインは非常にオーソドックスだ。走行距離は5万8500kmを刻んでおり、購入してから3年半で1万1000kmほど走行した。その間大きなトラブルはほとんどなく、ラインオフから19年が経過した現在でも調子が良い。

果たせるかな、イアン・カラムがデザイナーに就任して以来、ジャガーの内装はウッドパネルの使用量がぐっと少なくなり、ハイテク装備を満載した現代的なものになった。しかし、最近のジャガーはどこか無国籍な感じがして車内空間から英国車らしさが薄れたように感じる。少なくとも筆者はXEやX351型XJ、Eペイスよりも、クラシカルで落ち着いた雰囲気のSタイプのほうが“らしさ”があって好感が持てる。

ジャガーのエンブレムが中央に備わるステアリングはもちろんエアバッグ内蔵。エントリーグレードの2.5V6を除きウッドと本皮の組み合わせとなる。左側のスイッチはオーディオとハンズフリー、右側のスイッチはオートクルーズの操作系となる。
ステアリングコラムの左側、ウインカーレバーの下には電動のチルト&テレスコピックに加え、ペダルの前後調整機能も備えたスイッチが配置されている。

これぞ英国流? インテリアに見るジャガーとドイツ高級車の違い

この英国車の伝統に則ったジャガーのインテリアと対象的なのが、往年のドイツ車だろう。最近でこそ事情が少し変わってきたようだが、かつてドイツ車のインテリアは「クルマはA地点からB地点まで早く快適に移動できればそれで良し」とでも言いたげな、機能的だが素っ気ないものが多かった印象がある。

センターコンソールには純正カーナビがビルトインされる。その周辺を囲むようにエアコンの操作パネルが配置され、作動状況はカーナビ画面下の液晶に表示する。温度設定は運転席・助手席独立式だ。その下にオーディオの操作パネルがある。純正オーディオは今となっては懐かしいMDだ。最下段はハザードランプスイッチを中央に、横滑り防止装置やシートヒーター(運転席・助手席)スイッチがある。もちろん、すでに地図情報の更新が停まっており、地デジに対応していないのでTVも見ることができない。

メルセデス・ベンツSクラスのような高級車ともなれば、当然のようにインテリアは贅を尽くしたものとなるが、どこかビジネスライクで趣味性のようなものを感じることができない。
これは「テクノロジーによる時間と空間の支配」というドイツ人(特にプロイセン系)のメンタリティを追求した結果、趣味性という”雑味”が入る余地がなかったと考えれば理解できるのではないだろうか?

シフトゲートはジャガー伝統の”J”ゲート。ジャガーの現行モデルはダイヤル式が主流になっているが、操作性はこちらのほうが好ましいと思っている。なお、パドルシフトは備わっていない。シフトレバー後方のパーキングブレーキはスイッチ式だ。
喫煙者には嬉しい灰皿もまだこの時代はセンターコンソールにビルトインされている。もちろん、シガーライターも備わる。よく見ると火消しやタバコ休めもあり、凝った作りになっているのがわかる。
パーキングブレーキの後方が並列2個のドリンクホルダーとセンターコンソールボックス。ドリンクホルダーはSタイプのインテリアで唯一ラバー塗装がされており、経年劣化で少しベタつく。プラスチック製のバネで入れるボトルサイズに対応する。ボックスは前後はそれほどでもないが深さがあり、DC12V電源が用意される。ETC車載器をこの位置に設置して、インテリアのルックスに影響がないようにした。
ドリンクホルダーを持ち上げると、その下には隠し小物入れが現れる意外な仕掛けが……。オカモトさんを忍ばせるのに好都合だ(笑)。

だが、この「時間と空間の支配」を現実世界で実現するには、その高性能とブランド力で他の交通を威圧し、自分の進路を常にクリアにしておく必要が生じる。時折、高速道路などで周囲のクルマを蹴散らすような走りを見せるドイツ車を見かけることがあるが、そうしたドライバーはドイツ車に潜む魔力にあてられ、クルマに支配されているわけである。
ドイツ製高級車のインテリアが無機質であるだけでなく、何やら独裁者の執務室のような権力志向的な空気感が漂うのは、そうした”ドイツ人的メンタリティ”から来るクルマの成り立ちによるものなのかもしれない。

オーバーヘッドコンソールにはサングラスホルダーが標準装備。
運転席側サンバイザー裏には照明付きのバニティミラーがある。注意書きステッカーを貼ったカバー付きだ。
カバーの取り付けの突起がプラスチック製で、購入直後に壊れてしまった。近くピンバイスと真鍮線で直そうと考えている。

かつてのメルセデスは「最善か無か」を社是とし、自社の高級車を買うようなセレブリティにはスピードと安全性、高い信頼性、そして優れた快適性を保証した。
これは高い技術力を前提にしたドイツ理想主義の発露と言えるのかもしれないが、人間のエゴイズムを臆面もなく顕しているようで、ドイツ車ファンではない筆者のような人間からするとちょっと気になるところだ。人によっては相入れないと感じる部分でもある。

グローブボックスは容量が大きく使いやすい。車検証入れやオーナーズマニュアルを入れてもまだ余裕がある。

インテリアから感じるドイツ車の”権力”志向と英国車の”権威”志向

さて、ドイツ製高級車のインテリアが「権力志向」だとするならば、ジャガーのインテリアは「権威志向」だと言える。
と言うのも、階級社会のイギリスでは、労働者階級はフォードやヴォクスホール、中産階級はローバー、貴族はロールス・ロイスやディムラーと、往時ほどではないが現在でも「クラス(社会階級)」によって乗るクルマがおのずと決まってくるという。

Eセグメント車としては、リアシートも少し小さく足元サイズもあまり余裕がないが、実用上困るほどではない。
フロントシートは車体サイズの割にやや小ぶりだが座り心地は悪くない。ドアトリムとシートとの間に広めの隙間があるのはコートの裾をドアに挟まない工夫だ。

その中でジャガーはアッパーミドルの階級のクルマだ。昔風に言うなら「ジェントルマン」の語源になった「ジェントリー」のクルマと言えるかもしれない。
ジェントリーとは新興地主階級、爵位を持たない領主のことで、15世紀の地方で誕生し、産業革命が起こった18~19世紀頃に隆盛を誇った。彼らは地主なので十分な経済力を持ち、上級貴族同様に使用人を雇い、家紋を持つことを許され、相応な教養や立居振舞を身に着けてはいたが、(爵位)貴族になることは許されなかった。
そんな彼らはたとえ貴族に叙せられることはなくとも、せめて生き方だけでも貴族でありたいとして自らを厳しく律して日々の生活を送っていたという。

リヤウインドウには格納式のサンシェードが用意されている。折り畳みアームによる自立型で、メッシュのシェード生地と合わせて後方視界を妨げない。
サンシェードのスイッチはマップランプやルームランプ、サングラスホルダーと合わせてオーバーヘッドコンソールに配置する。

偽物から出発し、己に磨きをかけることで本物になる
ジャガーの成り立ちはジェントリーそのもの

こうしたジェントリーの精神を今に引き継ぐのがジャガーである。
もともと同社はサイドカー製造から出発し、大衆車をベントレー風にカスタムすることで商業的に成功し、会社の基盤を作った。それに続くSSシリーズはベントレーやアストンマーティンの半額で流麗で立派に見えるクルマが買えるということで人気を博したモデルだ。

ウッドパネルをあしらったフロントドアトリム。グリップは本革を使っているが、トリム自体は樹脂製だ。ドアポケットは幅と高さは控えめだが、前後長はそこそこある。
運転席側のドアトリムに備わるパワーウィンドウの集中スイッチ。輸入車に多いラバー塗装を使っていないのはありがたいが、プラの質感はフォード車に見られるチープなものだ。ミラー調整スイッチと、ドライビングポジションのメモリスイッチも配置される。
後部座席のドアトリムにはパワーウインドウスイッチに加え、昨今はすっかり見かけることがなくなった灰皿が備わる。灰皿の容量は少なめだが、火消しはきちんと用意されている。

率直に言って”ジャガー”の出自は本物の高級車の”まがい物”であり、当初はエンスージアストから”見掛け倒し”と酷評されたと言う。だが、エンジンやシャシーの自社開発に踏み切り、技術力を磨き、レースに積極的に参戦して結果を残すことで、自らの実力を証明して”本物”としての名声を勝ち得ることで、いつしか誰もが認める高級車となった。
こうしたメーカーとしての成り立ちが、貴族以上に貴族らしく生きたかつてのジェントリーたちと重なって見える。それは裏を返せば貴族へのコンプレックスから生まれた権威志向の権化とも言えなくはないが。そうしたジャガーらしさはこのインテリアにこそよく現れていると筆者は思うのだ。

グローバル化で失われ行く英国車の伝統的なインテリアが
今なら手頃な価格の中古車で味わえる

レトロなSタイプと比べると、Fペイスのインテリアはすっかり垢抜けたモダンなものとなった。質感も向上しているようだが、無国籍風で英国車らしさがイマイチ感じられない。グローバル化というのはクルマの個性を失わせることなのかと嘆きたくなる。

ジャガーSタイプのインテリアは、フォードの資本参加によってコストダウンが進んだきらいはあるし、登場した時代を考えても旧態然としたものではあるが、これはこれで独自の世界観と居心地の良さを感じる。
昨今はグローバリズムの影響なのか、メーカーや生産国ごとの違いをインテリアから感じることは少なくなったように思う。どのクルマも似たり寄ったりで個性が消えつつある現在、ジャガーらしさが残るSタイプのインテリアは、手頃な価格で買える輸入中古車の中では希少な存在なのである。

はじめて買ったイギリス車! 45万円の激安ジャガーSタイプは大当たり? 中古輸入車購入必勝法【ジャガーSタイプ・オーナーズレポート vol.2】

アシに使っているジャガーSタイプの記事が予想外に反響が大きく、少々戸惑いを感じている筆者。前回はジャガーSタイプの車両概要を紹介したので、第2回目となる今回は購入の動機と経緯についての話をしよう。激安ジャガーは絶好調! アシに乗るには価格も安く、信頼性・整備性も良好なのでかなりお気に入りの1台だ。

Sタイプのステアリングを握っていると否が応でもジャガーをドライブしていることを意識させられる。それにこの居心地が良くも重苦しいインテリアだ。クルマが「あなたはジャガーを運転されているのですよ。常に紳士たれ。下々の人間の手本になるように上品な運転を心かけて下さい」と訴えてきているようだ。
権力志向のドイツ車とは性格がまるで違うが、どうにも偉そうで周囲の人間を見下しているのはこちらも同じ。まあ、他を威圧する走り方を煽ってくることがない分、ジャガーのほうがマシではあると思うのだが……。

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著者プロフィール

山崎 龍 近影

山崎 龍

フリーライター。1973年東京生まれ。自動車雑誌編集者を経てフリーに。クルマやバイクが一応の専門だが、…