内燃機関超基礎講座 | 対向ピストンエンジンを積んだ世界最速級の戦車[KMDB 6TD-2/T-84 Oplot]
- 2020/12/01
- Motor Fan illustrated編集部

水平対向エンジンの仲間ではあるけど、対向ピストン型。奇抜な形式ではあるが理にはかなっている。ウクライナの戦車が同形式を積みハイパフォーマンスを誇る。
ウクライナのKMDB(O.O.モローゾウ記念ハルキウ機械製造設計局)の6TD-2エンジンは、水平対向のディーゼルエンジンではあるが、スバルやポルシェの方式と異なり、向かい合うピストンがひとつのシリンダーを共有する「水平対向ピストン方式」を採用している。「対向しているのがピストンなのかシリンダーなのか?」という点に着目し、スバルやポルシェのような方式を特に「水平対向シリンダー方式」と呼んで区別することがある。

水平対向ピストン方式の場合は、片側のピストンは混合気の圧縮専用、対向するもう一方のピストンが通常のピストンの働きをする。一般的にはバランスをとるため、圧縮側のストロークがやや短くなる。左右のピストンは細長いコネクティングロッドで接続されて連動するようになっており、吸・排気バルブと点火プラグは、シリンダー中央や圧縮側ピストン寄りに取り付けられる。混合気は左右のピストンによって圧縮され、爆発は両ピストン間で起こる。吸気および排気バルブは、シリンダーの同じ側に取り付けられて、カムシャフトは1本ですむようになっている。無論、この方式は強力な圧縮比を得るため、ひいては同一排気量でコンパクトなエンジンサイズと破格の高出力を両立するために用いられる。ピストンの動きをボクサーの打ち合いになぞらえるのが語源ならば、この方式の方が「真のボクサー・エンジン」と呼べるかもしれない。


かつてはガソリンエンジン車でもこの方式のエンジン(気筒配置は水平ではなく垂直だが)が採用されたことがあったが(1904年のフランスの「ゴブロン ブリリエ」)、製造コストがかさむこと、耐久性に乏しいこと(燃焼方式を考えればおわかりだろう)から普及には至っておらず、現在、3気筒の3TD、5気筒の5TD、6気筒の6TDというディーゼルシリーズをラインアップしているKMBDでも、いずれも戦車などの特殊車両、もしくは一部を改造してのモーターボート用(5DN、6DN)という極めて限定的な特殊用途にしか用いられていない。
もともとKMDBは蒸気機関車の設計を行なっており、本エンジンの設計も蒸気機関に端を発すると言われているが、第二次大戦前にライセンスを取得したドイツ・ユンカース社の航空機用垂直対向ディーゼルエンジンの影響もあったとも言われている。

尚、最新仕様のターボ過給、直噴の6TD-2エンジンはT-84 Oplot(オプロート=砦)戦車などに搭載されているが、車重48トンの車体を1200hpで最高時速70km(整地)で走らせることができる。軍用車両のスペックは実際の7〜8割程度に低く見積もって公表するのが常なので、実際には時速100km超であろう。整地最高速だけで比較するならば日本の90式戦車と同じで、他国の第一線級戦車よりも優速であり、「世界最速の戦車」とも言われている。

■ KMDB 6TD-2 specifications
最高出力(hp/rpm)1200/2600
最大トルク(kgm/rpm)307/2050
燃料消費率(g(/e.hp.h))160
シリンダー直径(mm)120
ピストンストローク(mm)2×120
ピストン排気容積(ℓ)16.3
空気消費量(kg/s)1.80
乾燥重量(kg)1180
全長×全幅×全高(mm)1602×955×581

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