名作マンガ「あしたのジョー」のすぐ北側。東京23区の最北端にある「足立区」はこんな場所

東京都の区部である東京23区の最北端に位置し、埼玉県に隣接。葛飾区をまたげば千葉県もすぐそばにある足立区。同区は隅田川と荒川に挟まれた千住地区と、面積の大半を占める荒川以北地区に分割。かつては陸続きだったが、大正期に荒川放水路が建設されて別々になった。
文豪・三島由紀夫も熱烈な読者だった名作マンガ「あしたのジョー(原作:高森朝雄(梶原一騎)/作画:ちばてつや)」の舞台は、足立区のすぐ南側にある同じ下町・荒川区の泪橋(なみだばし)や台東区周辺。“ドヤ街(※注1)”と呼ばれた日雇いの街・山谷(さんや)エリアだ。
足立区は「あしたのジョー」の舞台としては直接描かれてはいない。しかし同地に行くと、今でも連載当時の風情や気質を匂わせる、“生きる”という貪欲で泥くさい庶民の気迫を体感。同じ東京23区でも、この点は上品なお金持ちの山の手エリアとは明確に異なる。「庶民の意地を感じさせる」のは筆者だけだろうか。
※注1:ドヤ街とは簡易宿泊所が密集し、建設業など日本の高度成長期を縁の下で支えた日雇い労働者が集ったエリア。大阪市西成区(釜ヶ崎/あいりん地区)、横浜市中区寿町、東京都荒川区と台東区の山谷が「日本三大ドヤ街」として有名。近年は高齢者や外国人旅行者の安宿街となっている。

実際に足立区に行って驚くのが、“橋を渡って川を越え、向こう側に行く”のに難儀すること。川に遮られている感じで、スマホのナビやマップを見ていても方向感覚が狂ってしまう。
今回の足立区取材では効率を重視し、NTTドコモが展開する都内で大人気のレンタル式電動アシスト自転車「バイクシェア」を利用。
走行時はグーグル地図も活用したが、土地勘がない。また密集地では急な階段(歩行者専用)が随所にあることも影響し、千住地区から荒川以北地区に移動するための自転車用ルートを見つけるのにとても苦労した。
足立区の特徴は、小さな建物や住宅が密集。また密集地内の道路が狭いこと。
近い将来起こりうるであろう首都直下型地震において足立区及び周辺エリアは、もっとも被害が大きいと推測される。これは、
・23区の中でも地盤が緩くて揺れやすい
・古い建物が多いので倒壊しやすい
・木造建築が多くて火災時に燃えやすい
・道路が狭くて入り組んでいるため(袋小路も多数)、火災時の消防活動が困難
なのが大きな理由。

気取りのない庶民の街・足立区で多発した「アドレスV125」盗難事件とは?

足立区はお笑い芸人・ビートたけし氏が生まれ育った街としても有名。氏の「足立区話」には頻繁に“常軌を逸した大バカ野郎”が出てくる。氏の話にはただ「バカ」が出てくるのではなく、それを成敗する「ヤバい人」が絡んでくるのも特徴だ。
「足立区でポコチンを露出したバカ野郎の出現は当たり前。バカは2・3発ブン殴ると大人しくパンツを履く(氏が少年時代の話)」
「北千住駅前でタクシーが酔っぱらいのオヤジをボンネットに乗せたまま走行。どっちがバカか分からない。ひょっとしたら両方かも(氏が少年時代の話)」
等々、今なら地上波で放送できない足立区の風土をディスる(地元愛の裏返し)、ブラックなネタを炸裂。
氏の話を聞き、足立区に行ったことのない人は「さぞかし治安が悪い場所なんだろう」と思うかもしれない。
確かに近代的な高層ビルが立ち並ぶオフィス街の中央区・千代田区・港区、高級住宅街が多数点在する渋谷区・目黒区・世田谷区・杉並区(いわゆる山の手エリア)などに比べ、足立区の街並みや道行く人の姿・雰囲気は明確に異なる。
具体的には。悪い言い方をすれば、道行く多くの人の身なりは日常的で、大金を持っていそうにない。良い言い方をすれば、気取りがなくて庶民的(あくまでも港区や目黒区と比べたらのお話。しかも筆者の主観です)。
足立区の家賃は23区の中でも、江戸川区と1位2位を争う安さを誇る(他区に比べ、周囲の川が氾濫して水害の被害に遭う可能性が高い。場所によっては交通の便が悪い。地盤が緩くて地震に弱い。23区の中では人気がない等々が理由)。
そんな庶民の街・足立区で、かつてスズキがリリースしていた絶版スクーター・アドレスV125が盗まれる事件が多発。「通勤快速」と呼ばれ、原付二種クラスでは絶大なる支持を集めたこのモデルが、バイク泥棒のターゲットとなっている。一体どういうことだろう?
足立区では「アドレスV125」限定の防犯対策補助金を制定 ※現在は終了

東京都足立区のバイク盗難件数は令和7年、東京23区の中でも上位となる160件。前年比でプラス72件も増加した。
驚くのは、盗難された車種がロングセラーモデルのスズキ・アドレスV125(すでに生産終了)に集中したこと。
この事態を重く見た区では、公式WEBサイトにて広報&注意喚起を呼びかけ。この件は全国版のテレビニュースやネットニュースでも取り上げられた。
足立区WEBサイト https://www.city.adachi.tokyo.jp/kikikanri/bosai/bohan/20250903_motorcycle.html
高級車のレクサスや世界で人気のトヨタ・ランドクルーザー、はたまた売りさばけば高額な利益を生むビッグバイクではなく、庶民の足の代表格だったアドレスV125の盗難が頻発する街、東京足立区。
「あまりにセコくて足立区らしい、涙が出る話じゃねえかバカ野郎。コマネチ!」
「犯人は近く(葛飾区)にある東京拘置所内のバイク泥棒にもチャレンジしろ。拘置所に入るのは簡単だが、死刑なら死ぬまで出られない。懲役付いたら全国の刑務所に直行。ディチャーチン!」
とビートたけし氏がネタにしそうなこの事件に対し、区はU字ロックやチェーンロックなどを活用した防犯を推奨。
また区ではスズキ・アドレスV125(アドレスV125S、アドレスV125G等は対象外)を所有・利用する足立区民や足立区内の法人を対象に、「防犯対策補助金」の制度を導入(2026年5月11日現在は終了)。
市区町村が、車種を限定した防犯対策用アイテム購入金の一部を負担するなんて、筆者は聞いたことがない。
| 防犯対策物品 | 補助率 | 補助上限額 |
| チェーンロック | 4分の3 | 2,200円 |
| ディスクロック | 4分の3 | 2,200円 |
| バイクカバー | 4分の3 | 2,200円 |
| ブレードロック | 4分の3 | 3,000円 |
| U字ロック | 4分の3 | 2,200円 |
スズキ アドレスV125とは?


元祖・通勤快速スクーターとして大ヒット(生産台数21万台)した空冷2ストローク99ccエンジン搭載の原付二種スクーター、スズキ・アドレスV100。排気ガス規制のため生産終了となったV100の後継モデルとして誕生したのが、4ストのアドレスV125だ。
2005年モデル~2013年モデルまで生産・発売されたアドレスV125は、空冷4ストローク単気筒SOHC 2バルブ124ccエンジン搭載の原付二種スクーター。吸気系にはキャブレターではなく、国産125ccクラス初のフューエルインジェクションを採用。
車両重量91kg(初期型)、全長1,750mm、ホイールベース1,235mm、前後10インチの小径ホイールという原付一種並みのコンパクトな車体。最高出力11.4ps(初期型)のパワフルかつ低燃費なエンジン。始動性に優れたフューエルインジェクションなどがポイント。
優れた加速力と取り回しの良さから2ストのアドレスV100と同様、4ストのアドレスV125も「通勤快速」と呼ばれ、世代を問わず幅広い層に支持された。
オプションのフロントインナーポケット、サイドスタンド、リアキャリア、携帯電話等の充電可能になるDCソケット、盗難抑止アラームを標準装備した2万円高の上級モデル・アドレスV125Gも併売。2010年に登場したアドレスV125Sは、V125やV125Gとは外観が異なる。
アドレスV125が、なぜ狙われたのか?

なぜ足立区ではアドレスV125が狙われたのか? 暴走族や不良たちが遊び感覚で盗み、乗り回した後に捨てていった例もあるだろう。
しかし令和7年に集中したことを考えた場合。被害車両の大部分は組織化されたプロの窃盗団による、アドレスV125に狙いを定めた犯行だと容易に推測される。犯行は同一犯、もしくは同じ組織だろう。
バイクでもクルマでも、一般的に組織化されたプロの窃盗団は、盗んだ車両を倉庫や工場に隠し、早期に解体するのが定番。筆者が考える主な理由は4つあり、
①証拠を隠すため
②運びやすくするため(コンテナに積んで海外に輸出)
③パーツとしてオークション等に売却しやすいため
④盗難の足がつかないように分解した部品を組み合わせ、1台にして売却するため
公開された防犯カメラ映像では、数人がトラックで駆けつけ、台車を利用してわずか数分で荷台に積載し立ち去った。盗む車両にあらかじめ目星をつけた、極めて計画性の高いプロによる犯行である。多くのアドレスV125が盗まれた時間帯は夜中~明け方の間で、目撃者の少ない時間帯を狙っている。



足立区の特徴は、
・住宅密集地は道路が狭くて入り組んでおり、死角も多い(バイク泥棒行為が見つかりにくく、発見されても逃げやすい)
・寝静まった多くの住宅密集地は、夜中から明け方まで人通りが少ない
・埼玉県や千葉県がすぐ近く。隠し場所や解体場所となる郊外の倉庫や工業団地などにアクセスしやすい
・明治通りや国道4号線などの主要道路が通り、高速道路へのアクセスも容易
・他区に比べて鉄道交通の不便なエリアが多く(いわゆる陸の孤島)、普段の足として使うスクーターの所有率が高い
など、他区に比べてバイクの盗難がしやすい環境にあるといえる。
今、アドレスV125の中古車相場がジワリ上昇、高騰 っm中

中古車b
2010年モデルのアドレスV125の新車価格は23万6250円。同車の中古車市場相場は、筆者の記憶によると少し前は15万円前後だったが、価格は徐々に上昇中。コンパクトで俊敏なアドレスV125は、現在若者を中心に人気が高まっているようだ。
足立区でアドレスV125盗難を繰り返した(であろう)窃盗団は、この中古車相場上昇に着目して犯行を繰り返したのかもしれない。
グーバイク https://www.goobike.com/
足立区の魅力は「庶民的な街」と「美しい河原」
テレビドラマ「金八先生」にも登場

今回、アドレスV125が多数盗難に遭ったという足立区を巡ってみた。足立区といえばTBSテレビドラマ「3年B組金八先生」の舞台となったことでも有名。筆者は小学6年生の時、「3年B組金八先生」の第2シリーズをリアルタイムで視聴していた。
放送時の1981年当時は、中学校の校内暴力が社会問題となっており、「生徒が先生を殴った」「先生が生徒を刃物で刺した」等々の報道は日常茶飯事。生徒が家庭訪問に来た先生を、自作の改造拳銃で撃ち重傷を負わせたなんて事件も起こった。
筆者が入学した中学校も荒れに荒れており、3年生の番長グループは金髪のリーゼント・長ラン(丈の長い学生服)・ボンタン(ダボダボのズボン)という出で立ち。教室ではタバコを吹かし(中には酒を飲んでいる輩もいた)、麻雀・花札・トランプに興じていた。校内のあらゆる箇所が破壊され、卒業式には警察も出動した。
校門の前で武器(木刀や金属バットがメイン)を持った他校の生徒たちが、報復目的(街でぶん殴られた仕返し)で待ち構えるなんてのは毎日のこと。今では想像できないだろうが、当時は人気マンガ「北斗の拳」や「ビーバップハイスクール」のような出来事が当たり前の、“生きるか死ぬか”のバイオレンスでハチャメチャな時代だった。
校内暴力をテーマにした「3年B組金八先生」の第2シリーズに登場した暴走族「魑魅怒呂(ちみどろ)」、加藤優がバイトするスナック『Z(ゼット)』の店長・神津清一、どう見ても中学3年生には見えない(多分、役者さんの実年齢は20歳前後だと推測)荒谷二中の番長グループの印象が筆者的には根強く残っており、足立区を“ちょっと怖い街”と印象付ける要因にもなった。
登下校シーンに使われていた荒川の土手

荒川に面する土手には舗装されたサイクリングコースも整備。晴れて涼しい春や秋の散歩・ウォーキング・サイクリングは実に気持ちいい。
サッカー(体育)の授業シーンに使われていた荒川の広場

サイクリングコースの横にはサッカー場や野球場の広場も各エリアで整備。取材日の土曜は気温20℃の晴天だったため、スポーツを楽しむ人々やギャラリーでにぎわっていた。
桜中学の生徒たちが高校受験時に乗り降りしていた「堀切駅」

東京都足立区千住曙町にある東武鉄道伊勢崎線の駅。現在は「東武スカイツリーライン」の区間に含まれている。人気テレビドラマ「3年B組金八先生(TBS/主演:武田鉄矢)」「親子ゲーム(TBS/主演:長渕剛、志穂美悦子)」「パパと呼ばないで(日本テレビ/主演:石立鉄男、杉田かおる)」。また名作映画「東京物語(1953年/監督:小津安二郎)」や「の・ようなもの(1981年/監督:森田芳光)」のロケ地にも使われた。
足立区イチの巨大ターミナルステーション「北千住駅」

北千住駅はJR、東京メトロ、東武、首都圏新都市鉄道が乗り入れる東京北部&足立区屈指のターミナル駅。1日あたりの乗降人員数(2024年度)は約144万人で、横浜駅に次ぐ国内6位を誇る。

北千住駅は丸井やルミネなどの大型商業施設に加え、下町情緒が残る商店街が多数集積。2000年以降は駅周辺の再開発が進み、東口には東京電機大学などの大学が駅徒歩圏内に新設。駅前広場も整備された。利便性の高さから超高層ビルやタワーマンションなども次々と建設。

筆者は再開発前の1990年頃に来て以来となるが、「ここがあの北千住なの!?」と駅前の変わり様に驚愕。取材日の土曜は気温20℃の晴天だったこともあり、駅周辺は世代を問わず、多くの人でにぎわっていた。
「北千住駅」周辺の繁華街

北千住駅近くにある人気の「千住宿商店街」は、ママチャリも頻繁に行き交う庶民派の通り。北千住はオシャレさと昔ながらの下町情緒が共存した、来る人を拒まない誰でもウェルカムな街。若者から老人まで、世代を問わずに親しまれている様子がうかがえた。



西新井大師

足立区西新井にある「西新井大師」は、弘法大師を祭る「関東三大厄除大師」のひとつ。年末年始には多くの初詣客で賑わうことでも有名。威風堂々とした本堂は迫力満点。
公式WEBサイト https://www.nishiaraidaishi.or.jp/
見沼代親水(みぬまだい しんすい)公園

農業用水として足立区の農業を支えていた用水は、昭和59年4月に憩いの場「見沼代親水公園」として生まれ変わった。親水路の長さは約1,700m。春は親水水路沿いに美しい約70本のサクラ見物ができる。
あだち観光ネット https://www.adachikanko.net/spot/id-082
足立区生物園

足立区保木間にある生物園。南国の蝶が舞う大温室、年間を通して飼育しているホタル、里山の自然を再現した昆虫ドーム、金魚が泳ぐ大水槽、小動物とのふれあいコーナーなど、特色ある生き物のゾーンが盛りだくさん。入園料は大人(高校生以上)300円、子供(小中学生)150円、未就学(幼児など)無料。
公式WEBサイト https://seibutuen.jp/
伊興(いこう)遺跡公園・展示館

伊興遺跡公園は1993年に開園。公園整備時には足の踏み場のないほどの膨大な量の土器や勾玉などの玉類が出土し、祭祀が盛んに行われた重要な地点ではないかと考えられる。公園となった場所は伊興氷川神社に近く、現在も遺跡公園の下には、調査することのできなかった多くの遺構・遺物が眠っている。展示館では出土した貴重な遺跡も見学可能。入館無料。
足立区公式WEBサイト https://www.city.adachi.tokyo.jp/bunka/ikoisekikoentenzikan.html
足立区で出会ったスクーターたち(一例)




まとめ:バイクの盗難と防犯対策は足立区だけの問題じゃない!
東京23区の中では何かとイジられることの多い足立区。久々に訪れてみると、今も昔も気取ったところのない、庶民のパワーに満ち溢れたエネルギッシュで魅力的な街だなぁと感じた。
区内には西新井大師、見沼代親水公園、足立区生物園、伊興(いこう)遺跡公園・展示館など、一度は訪れてみたいスポットも多数。
足立区は今でも「治安とガラがよろしくない」というイメージが先行しがちだが、実際は親しみやすい、至って普通の下町という雰囲気。
特に巨大な北千住駅周辺は再開発でオシャレに生まれ変わり、筆者が再開発前に感じた“人生の悲哀を感じさせる湿ったオヤジの酒場”的な風情。
またビートたけし氏の「北千住駅前でタクシーが酔っぱらいのオヤジをボンネットに乗せたまま激走」というネタのイメージはほぼ払拭されたのではないか。
今回、足立区で起こったスズキ・アドレスV125の盗難多発事件は、同車の中古車相場の上昇によるものだと思われる。
しかしバイクの盗難は、どこの街でも起こりうること。特に貴重なお宝ビンテージモデルなどは、「常に狙われている」という危機意識を常に持っているくらいが丁度いい。そのくらい全国各地で頻繁に起こっている。SNSで共有される盗難バイクの情報希望の多さを見れば一目瞭然だ。
屋外でバイクを駐車時(貴重なモデルは屋内でも)は、盗難防止用の各種ロックの使用はもちろん、目立たぬようにバイクカバーを被せ、盗難から愛車を徹底的に守るべし。
これは足立区のライダーだけでなく、日本全国のライダーの常識であることをお忘れなく。「盗まれないかと気が気でない」という人は、バイクの盗難保険への加入をおすすめしたい。
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