日本の人口は1年に90万人ずつ減っている

先進国の人口減少は社会問題としてよく取り沙汰され、日本においても有効な対策は打ち出せていない。そのペースは90万人/年とも言われ、人手不足は社会問題となっており、将来的にはさらに加速してく可能性が高い。

株式会社Highlanders代表取締役兼CEO増岡宏哉氏は、人口減少はピンチではなくチャンスと語る。

ハイランダーズ代表取締役兼CEOの増岡宏哉氏はそれをピンチではなくチャンスと捉え、労働人口はフィジカルAI、人型ロボットで補えると考えている。しかも、それを海外に依存するのではなく国産しようというのだ。

フィジカルAI、人型ロボットが労働力不足を救う?

三菱自動車はそんなハイランダーズと提携し、同社の人型ロボットを自社工場で活用するだけでなく、三菱自動車で量産する計画を発表。「人とロボットが共に働く新しい産業基盤づくり」の実現に向けた協業に関する基本合意書(MOU)を締結した。三菱自動車はハイランダーズに出資し、協業を進めているが、今後は追加出資も予定されている。

基本合意書(MOU)を締結した増岡宏哉・ハイランダーズ代表取締役兼CEO(左)と加藤隆雄・三菱自動車工業株式会社取締役会長兼代表執行役CEO。ハイランダーズの人型ロボット「N」と四足歩行ロボットも報道陣の前に披露された。

三菱自動車は来るべきロボティクス化を検討するにあたり、複数社を調査。中でもハイランダーズの技術と意欲、そして「国産」を強く謳う点について感銘を受け、このほどの提携に至ったという。

「国産」であることが提携の重要なファクターとなった。

余談ではあるが、増岡氏は三菱のレジェンド、増岡 浩氏(パリダカールラリーウィナーにして、現・チーム三菱ラリーアート総監督)とたまたま同姓で、親戚がパジェロに乗っていたことから三菱自動車への印象は以前から良く、今回の提携にも”縁”を感じているとか。

ハイランダーズの人型ロボット「N」

記者会見で披露されたハイランダーズの人型ロボット「N」。

三菱自動車が提携したハイランダーズは東京大学発のスタートアップベンチャーで、設立は2023年とまだ若い企業だ。同社はロボティクス・フィジカルAI技術によってさまざまな産業課題の解決を目標としており、強化学習・機械設計・回路・組込が事業内容となっている。

「N」について解説するハイランダーズの上原昇馬CTO。

三菱自動車が導入・量産を計画している人型ロボット「N」は、同社として第4世代にあたり、「4」のローマ数字表記「IV」の字形が名前の由来になっているほか、人型であることから「人間=Ningen」の「N」、国産であることから「日本=Nippon」の「N」、そして「願い=Negai」の「N」という意味も込められているという。

「N」の由来。

ロボティクス分野においては、まずアメリカ、ついで中国が先端を走っている。ハイランダーズでは将来的に人型ロボットを海外に依存することをよしとせず、国産していくことを目標としている。

「N」のスペック。現時点ではNVIDIA製コンピュータなど海外メーカー品が使用されているが、将来的には国産品に置き換えが可能になるという。

三菱自動車との提携は、日本の主要産業である自動車産業における将来的な労働人口減少への対応はもちろんのこと、先行する海外のロボティクス大手への対抗手段としてMADE in JAPANの信頼性の高い量産体制を構築することがひとつの目標にもなっている。

ハイランダーズの四足歩行ロボットも披露された。

増岡氏は三菱自動車との協業はまさに、三菱自動車が長年培ってきた量産設計、品質保証、耐久・安全設計、機電統合制御技術ならびに工場運営ノウハウが、世界のロボティクス大手に国産で対抗するための重要なファクターと考えている。

導入・量産は三菱自動車京都工場で

人型ロボットの導入は三菱自動車京都製作所京都工場(※)で行なわれる。現時点ではまだ人型ロボットがどのような作業に向いているのか、何ができるのかを見極める段階ではあるものの、加藤隆雄・三菱自動車工業株式会社取締役会長兼代表執行役CEOは「いきなり大きい動きをする作業は難しいと思われるので、まずはエンジン組み立てなどその場であまり動かずにできる作業から導入していく」と述べた。
※京都工場は主にエンジン製造が行なわれている。

囲み取材で報道陣の質問に答える加藤隆雄三菱自動車工業株式会社取締役会長兼代表執行役CEO。

人型ロボット導入後はAIによる学習により加速度的にその能力を高め、作業範囲も増えていくことだろう。当初は十数台から始めて、数百台レベルに拡大していきたいとのこと。

AI学習が人型ロボットの運用を加速する。

京都工場の遊休建屋を活用して設立される人型ロボット生産設備は月産1000台規模を予定しており、2027年半ばから後半の稼働を目標にしている。人型ロボットを月産1000台となると、さぞ規模や投資金額も大きいように思われるが、クルマに比べればそれほどではないそうだ。

軌道に乗れば岡崎製作所(写真)など、他の工場へも順次展開されることになるだろう。

後々は京都工場のみならず、水島製作所、岡崎製作所といった三菱自動車の主要工場への展開も考えられている。なお、アライアンスによる日産への展開や同業他社への販売については、現時点では全くの白紙で「まずは自社で」ということになっている。

自動車工場にとどまらない人型ロボット活躍に期待

Tシャツを着た「N」。人型ロボットに求められるのは、人間の行動圏で人間と同じように動くことができること。

「人型」というのは非常に優れた形態であり、その汎用性は非常に高い。そして、その人型が築いてきた文明・社会・システムの中で生きていく以上、その形態が一番望ましいという現実がある。例えば「階段」は長らく移動テクノロジー開発の大きな課題であった。そんな人型社会の中での運用が求められるロボティクスが人型でなければならない理由はそこにある。

人間との互換性が人型ロボットの重要なファクター。「N」は身長175cm/体重75kgと気持ち大きめの成人男性並みのサイズで、着衣やシューズなど人間と同様のものが使用可能。センサーやスピーカーなどは頭部に集中している。

自動化と省力化が進んだ自動車工場にあっても、現在の多くの作業が人間によって行なわれており、そこには継承すべき技術もある。人間の邪魔にならず行動でき、なおかつ技術を学習できるのがフィジカルAI・人型ロボット導入の大きなメリットだ。

自動車映像の現場は、まだまだ人の手による作業も多い。また、人が働く環境として構築されていることも人型であることが望まれる理由だ。写真は岡崎製作所。

そして、人の行動圏で同じように動くことができる人型ロボットは、工場労働のみならず介護や生活サポートといった分野への活用も想定されている。三菱自動車での月産1000台の量産は、AIの学習機会を大幅に増やすことになる。さらに、単価を下げ、かつ安全で確実な自動車レベルのクオリティで提供されることが予想される。となれば、いざ需要が増加した際の導入のハードルも下がることだろう。

三菱自動車の工場で月産1000台を目標に量産体制を築く。

今回の三菱自動車とハイランダーズの取り組みは、人口減と労働力不足を悲観するだけでなく、日本の技術でそれを乗り越え、再び世界のトップランナーになるための大きな一歩を踏み出したのではないかと期待する。

記者会見で披露された「N」と四足歩行ロボットの動きを動画でご覧ください。