ナムヤムR&Dセンターの全景。敷地面積は約100万坪だという。

韓国Kia取材レポートの第2弾は、Hyundai Motor Groupの技術開発を担うナムヤン(南陽)R&Dセンターである。

未来の商用EVが生まれる場所!キア「PV5」生産拠点「EVO Plant East」で見た革新的な製造現場【現地取材】 | Motor Fan|自動車情報のモーターファン

日本市場への新たな挑戦者「キア PV5」 キアは、総合商社の双日をパートナーに日本市場へ参入している。同じグループのヒョンデとは異なり、商用車をベースとした「PV5」で日本市場に挑むという独自の戦略を打ち出しているのが特 […]

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同センターは韓国・京畿道華城市に位置し、Kia(キア)Hyundai(ヒョンデ)、Genesis(ジェネシス)各ブランドの車両開発を担う、グループ最大の研究開発拠点だ。ヒョンデのハイパフォーマンスブランド「N」の名称も、NamyangとNürburgringのふたつの“N”に由来する。

研究所内への撮影機材の持ち込みは禁止されている。構内ではカモフラージュを施した開発車両が行き交い、研究員の移動には水素バスも使われていた。施設を見せるためにつくられた場所ではなく、日々の車両開発が進む現場であることが伝わってくる。

同乗試乗させてもらったのは、キアのEV4。CセグのBEVだ。

最初に案内されたのは、1周4.5kmの高速周回路だ。ここではキアのCセグメントBEV、EV4に同乗試乗した。EV4は400V版E-GMPを採用し、最高出力150kW、最大トルク283Nmのフロントモーターで前輪を駆動する。

周回路への出入りはスマートフォンで管理されていた。日本メーカーの高速周回路を訪れた経験は何度もあるが、ナムヤンでは複数の開発車両が同時に走行していたことが印象に残った。レーンごとに速度区分が定められ、それぞれの車両が試験を進めている。

EV4は、速度制限220km/hの最外周レーンへ入った。フル加速するとBEVらしい力強さで速度を上げていくが、速度計は178km/hで止まり、そのまま約2周を走行した。これはコース側の制限ではなく、車両に設定されたV Max(Vehicle Maximum Speed)によるものだという。800Vアーキテクチャーを採用するEV6 GTのV Maxは260km/hであり、最高速度の設定にも車両の性格と狙いが反映されている。

世界の気候を再現する環境風洞

環境風洞のCWT(Cold Wind Tunnel)にPV5をいれて実験中。

次に訪れたのは、熱エネルギー統合開発部門の環境風洞である。施設にはHWT1、HWT2、CWT3の3基が設置されていた。HWTはHot Wind Tunnel、CWTはCold Wind Tunnelを意味するものと思われる。

HWTは20~60℃の温度環境に対応し、ノズル面積は6㎡。主にHVACや車両の冷却・熱マネジメント性能の評価に用いられる。CWTはマイナス40~50℃まで対応し、降雪と降雨も再現できる。ノズル面積は5.6㎡で、降雪量は最大230mm/h、降雨量は最大300mm/h。最高165km/hの風を発生させることができるという。

風洞棟の入口には施設全体の模型が置かれていた。一般的な風洞が空気を水平方向の環状経路で循環させるのに対し、この環境風洞は上下方向に空気を循環させる縦ループ式であることが見てとれた。

試験室には、車体全体に霜が付着したPV5が置かれていた。ここでは暖房能力、デフロスター、着霜や着雪だけでなく、BEVの電池温調やヒートポンプを含む熱マネジメント性能も評価される。ICE車の寒冷地試験では始動性やエンジン暖機が重要だったが、BEVでは空調エネルギーが航続距離に直結する。環境風洞の役割も、電動化によって一段と大きくなっている。

空力6分力を測る実車風洞

風洞で実験中のPV5。

環境風洞に隣接して、Hyundai Motor Group唯一の実車空力風洞がある。1999年に稼働を開始した施設で、完成以前は英国MIRAや日本自動車研究所(JARI)の風洞を利用していたという。

風洞の全長は102m、最大高さ16m、幅5.9m。ノズルサイズは7×4m、収縮比は6.02:1で、最高200km/hの風を発生できる。床面にはムービングベルトを備え、ターンテーブルによって車両にヨー角を与えた状態での試験にも対応する。大型トラックについては、2分の1スケールモデルを使って評価するそうだ。

測定できるのは、空気抵抗、揚力、横力に加え、ローリング、ピッチング、ヨーイングの各モーメントを含む空力6分力である。真正面からの空気抵抗だけでなく、横風時の安定性や高速走行時の車両挙動まで評価できる。

キアの説明では、高速走行時の走行抵抗のうち空気抵抗が占める割合は41%に達し、市街地走行でも19%を占めるという。とりわけBEVでは、空気抵抗の低減が消費電力と航続距離へ直接影響する。Cdを0.01低減すると航続距離は約6.4km延び、その効果は約2万7000円分に相当すると説明された(2万7000円がの電池容量を減らせることのコストなのか、充電の電気代なのかは不明)。PV5は、背の高い商用バンでありながらCd0.29を実現しているという。

見学では、オイルミストを使った流れの可視化も実演された。白い煙がPV5のフロントからAピラー、フロントウインドウ、ルーフへと流れ、車体表面を通過する空気の動きを目で追うことができた。CFDによる解析が高度化した現在でも、実車を用いて流れを確認し、数値解析との相関を取る作業は欠かせない。

この風洞は自動車だけでなく、韓国ボブスレーチームの空力開発にも利用されたという。ボブスレーも空気抵抗が競技結果を左右する高速競技であり、実車風洞の技術を異分野へ展開した好例である。

“使い込まれた研究所”が示すもの

ナムヤンR&Dセンターを見て最も印象に残ったのは、規模の大きさや設備の華やかさではない。高速周回路も風洞も、昨日今日につくられた設備ではなく、長年にわたり実際の車両開発に使われ、必要に応じて改修されてきたことが伝わってきた。

空力風洞は最新世代の設備と比べれば、設計や佇まいに時代を感じさせる部分もある。しかし、古いというより、使い込まれている。試験車が行き交い、設備が日常的に動き、エンジニアが評価を積み重ねている。その雰囲気は、中国の新興メーカーが示す真新しい研究施設よりも、むしろ日本の自動車メーカーの研究所に近かった。

日本ではヒョンデやキアを新しい海外ブランドと受け止める人も少なくない。しかし、世界市場で競争を続けてきたHyundai Motor Groupには、長年にわたって蓄積された車両開発の経験とエンジニアリングの厚みがある。ナムヤンR&Dセンターで見たのは、これから自動車メーカーになろうとする企業の研究所ではない。世界有数のOEMが、地道な実験と検証を積み重ねる成熟した開発現場だった。