
「富士山オールドカーフェスタ2026」の会場で一際目を引いたのが、この美しいコンテッサ1300クーペ。日野自動車が乗用車を生産していたことを知らない人もいるようで「これ日野のクルマなんだ」という来場者の声も聞こえてきた。確かにコンテッサ1300が生産を終了してから59年も経っているのだから、知らない人がいるのも当然のことだろう。

コンテッサ1300クーペはデザインも美しいが、この個体は程度も抜群に良い。しかもナンバープレートを見れば「静岡55」という古い登録であることがわかる。ぜひとも取材しようと思ったが、オーナーらしき人物は見当たらない。会場で取材を終え最後にコンテッサのもとへ立ち寄ったところ、女性が助手席を開いて何かしている。これは娘さんが同乗してきたのだろうと声をかけると、なんとその女性がコンテッサのオーナーだった。

オーナーは40代の山河めぐみさん。どうしてまたコンテッサに乗ろうと思われたのかと聞いてみれば「子供の頃に家族旅行でいろいろな場所へコンテッサで行った思い出があります」と、お父さんがコンテッサに乗られていたのだ。では、このコンテッサはお父さんから譲り受けたのだろうと思いきや、実はそうではない。なんと山河さん自ら購入されたクルマなのだ。

当初はお父さんのコンテッサを譲ってもらおうと思っていたが、まさかのNG。そこで仕事を頑張り自分で買えるようになろうと決意された。実は山河さんはシングルマザーのため、仕事と育児を両立させるため大変な苦労をされた。それだけ負けん気が強いのだろう、今では会社の経営者にまでなられた。さらに実家とは別に土地を購入して車庫まで建てられたというから、下手な男性旧車オーナーより気合が入っている。

最初に手に入れた乗り物は2輪のホンダ・モンキー。今でもカスタムシーンで大人気のモンキーだが、乗ってみるととても楽しく感じられた。趣味が男性的であることも山河さんの特徴で、いつかコンテッサを買うためにと働き続けた。いよいよ買える段階になると頼りになったのがお父さんと日野コンテッサクラブの情報だった。

初めてのコンテッサはセダンで、4年前に手に入れた。こちらはバンパーレスでボディがカスタードイエローに塗装されたレーシーな雰囲気の個体。「かなり錆びてます」とのことでカスタムされた状態のまま維持することにされた。それから2年後になってこのクーペを増車されたのだ。

RR方式を採用する流麗な国産クーペといえば先に紹介したフロンテクーペを思い浮かべる人も多いことだろう。フロンテクーペはジウジアーロがデザインしたものをベースに手直しされたスタイルを採用したが、コンテッサ1300はジョバンニ・ミケロッティがデザインしたオリジナルのスタイル。その美しさからイタリアのコンクールで何度も受賞した歴史があるほどだ。

山河さんもこの美しいデザインとRRによる独特の操縦性が魅力だと語っている。しかもクーペはオリジナルに近い状態と保ち程度も抜群なため、「なるべくイジらず今の状態で乗り続けます」とのこと。貴重な「静岡55」ナンバーを継承しつつ、オリジナルを維持したいとの気持ちはまさに旧車オーナーの鏡といえる。

日野コンテッサクラブにも所属されているが、山河さんは地元の静岡クラシックカークラブの会員でもある。ただ「普段は幽霊会員なんですよ」と、ほぼ活動には参加されないのだとか。とはいえ、地元のイベントであるこの日は当然ながら参加されている。旧車を取材して20数年になる筆者だが、女性オーナーのコンテッサを取材したのは初めてのこと。世の中にはいろいろな人がいるのだと改めて思い知らされた。
