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自衛隊新戦力図鑑

VBSS:訪問・乗船・捜索・拿捕

一時は停戦合意が結ばれたアメリカとイランの戦争だったが戦闘は再燃し、7月14日にアメリカは2回目となるイラン沿岸の海上封鎖を開始した。こうしたなかでタンカー「ウェン・ヤオ」号に対し、アメリカ軍が武装部隊による検査乗船(verification boarding)を実行したことを動画つきで発表した。

このような検査乗船は、専門用語では「VBSS(Visit, Board, Search and Seizure:訪問・乗船・捜索・拿捕)」と呼ばれる。今回は公開された動画から、VBSSの目的や手順について解説していきたい。

タンカー「ウェン・ヤオ(Wen Yao)」号の甲板に立つ海兵隊員(写真/アメリカ海兵隊)

検査を受けた「ウェン・ヤオ」は、直前に船籍や船名を変更するなど不審な行動をとっていたことが報じられている。そのため、イランが制裁(核・ミサイル開発に対する経済制裁)を回避するために組織した「影の艦隊(密輸船団)」への関与が疑われたようだ。

とはいえ、民間商船を問答無用で撃沈することは国際法上、許されない。そこでVBSSを実行し、書類や貨物、航路履歴、乗員の証言など証拠を積み上げる必要がある。そのためVBSSを実行する隊員は、(反撃された場合に)相手を制圧できる戦闘スキルに加えて、海洋や船舶、そして法律の知識、捜査や法執行の知識が必要とされる。

タンカー「ウェン・ヤオ」号。船首に白波が立ち航行していることがわかる。米イージス艦が並走しており、停船を命じているものと思われる(写真/アメリカ中央軍動画より)

機械では替えられない「人間」による捜索

では、映像を見ていこう。アメリカ軍の発表によれば実行部隊は「第11海兵遠征隊」。これは2000名規模の海外展開部隊であり、より詳細に言えば、この部隊に所属する強襲専門チーム「海上襲撃隊(Maritime Raid Force)」の隊員が実行したと思われる。

動画は乗船チームがヘリコプターで揚陸艦から発進するシーンから始まる。当初、目標タンカーは航跡を引いており、停船命令に従っていなかった可能性がある。

UH-1Yヘリコプターから「ウェン・ヤオ」号の甲板にファストロープ降下する乗船チーム(写真:アメリカ海兵隊)

VBSSの移動手段には高速ボートとヘリコプターがあるが、相手船舶が逃亡を図っていたことや、海面から甲板までの高低差があるタンカーだったことから、ヘリコプターが選ばれたのだろう。この場合は特に「HVBSS」と呼ばれる(Hはヘリコプター)。

スナイパーライフルを構えた狙撃手が上空から全体状況を観測し、必要があれば射撃で乗船チームを支援する。これは「オーバーウォッチ」と呼ばれる戦術(写真/アメリカ中央軍動画より)

ヘリコプターから降下してタンカーに乗船した隊員が、船橋(せんきょう、ブリッジ)に登っていく様子が確認できるが、これは船長および操舵室を確保するためだろう。乗船チームは船橋を確保する班のほか、船内・貨物を捜索する班、機関室を確保する班、乗員を拘束する班などに分かれて行動する。

船橋に駆け上っていく乗船チーム。右下、タンカー船尾に乗員が集まっているが、おそらくアメリカ軍の指示を受けて敵意が無いことを示すために集合したのだろう。全員が両手を出して、柵を握っている(写真/アメリカ中央軍動画より)

さて、今回は戦時下の事例だが、VBSSは平時の海上安全保障にとっても重要な意味がある。海賊行為、武器や麻薬の密輸、核を含む大量破壊兵器拡散、テロ……広い海洋の制御は難しく、一般商船と悪意ある船舶との区別は容易ではない。人間による目視・対話・捜索をともなうVBSSは、衛星監視やAIS追跡といった技術がいかに発展しても代替できない、海上秩序維持の「最終手段」ともなっている。

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