ランプブレークオーバーアングル:23度ならジムニーとしての走破性をキープできる

3ドアのジムニー・シエラに対してホイールベースを340mm延ばし、リヤドアを追加して5ドアにしたのがジムニー・ノマドだ。ホイールベースの延長分は全長の延長分と同数値で、全長は3890mmである。340mm延ばしても4m以下だ。写真や映像だとずいぶんボリュームがあるように見えるが、実物を目にすると、拍子抜けするくらいコンパクトに感じる。気後れせずに扱えそうというのが第一印象である。

ジムニーノマドは2025年1月30日に発表後、注文が殺到したため2月3日に受注停止。5月30日には増産の案内(目標販売台数1200台に対して、7月から約3300台に増産)を実施。2026年1月30日には一部仕様変更と受注再開が案内された。
スズキ・ジムニーノマド

「長くしたらジムニーの持ち味だった悪路走破性が落ちるのではないか」
「ホイールベースを延ばしたら本格オフローダーではなくなり乗用車風になってしまうのではないか」

そう思われたくなかったので、メディア向け試乗会ではオフロードを試乗コースに設定したのだそう。「軟派なクルマじゃない、と言いたかった」と開発責任者を務める佐々木貴光さんは言う。

開発責任者の佐々木貴光さん。

主なメカニズム系は3ドア軽自動車のジムニー、登録車のシエラと基本的に同じである(車重増に対応して諸元を変えたりはしている)。フロントバンパー下からサスペンションやアクスル、操舵系を覗くと、このクルマの悪路走破性に対する気合いが伝わってくる。リヤだけでなくフロントもサスペンションは3リンク・リジッドアクスルだ。独立懸架式サスペンションに比べて「凹凸路で優れた接地性と大きな対地クリアランスを確保できます」と、カタログに解説がある。

フロントサスペンション:3リンクリジッドアクスル式コイルスプリング
リヤサスペンション:3リンクリジッドアクスル式コイルスプリング

ステアリングシステムは多くのクルマに採用されているラック&ピニオン式ではなく、この方式に比べてキックバックに対する強さの面などで優れているとされるボール・ナット式(リサーキュレーティングボール式)を採用している。ジムニー・ノマドの下回りを覗くと、このクルマの悪路走破性の確保に懸ける意気込みがヒシヒシと伝わってくる。

悪路走破性を高める制御もそのまま受け継いでいる。ブレーキLSDトラクションコントロールとヒルディセントコントロール、ヒルホールドコントロールが代表例だ。ジムニー・ノマドの駆動方式はジムニー/シエラと同じパートタイム4WDである。トランスファーレバーの操作で2H(2WD/FR)、4H(4WD高速)、4L(4WD低速)の各モードを切り換えられるようになっている。舗装路・市街地・高速道路など通常走行では2H、雪道や荒れ地など、2輪駆動では走行が困難な状況では4H、ぬかるんだ道や急登坂、急勾配など大きな駆動力を必要とする場合や、スタックからの脱出時は4Lを選択するのが推奨だ。

機械式副変速機

4WDといえども前後のデフが機能しているため、対角のタイヤが同時に空転するとグリップしている残りのタイヤに駆動力が伝わらなくなる。この状況で、空転しているタイヤにブレーキをかけ、グリップしているタイヤに駆動力を伝えるのがブレーキLSDトラクションコントロールだ。富士ヶ嶺オフロード(山梨県・富士河口湖町)のモーグル路やローラー台で機能を体感したが、完全にクルマ任せで難なくクリアした。

急な下り坂ではヒルディセントコントロールを試した。車両側でブレーキ制御を行なって加速を抑えてくれるので、ドライバーはステアリング操作に集中できる。思っている以上に加速してヒヤッとすることはなく、そのことで安心感を得られるのが大きい。また、急な登り坂ではヒルホールドコントロールを試した。坂道発進時にブレーキペダルからアクセルペダルに踏み換える瞬間、車両側で一時的にブレーキを作動(約2秒間)させてくれる機能である。

ジムニーノマドのインストゥルメントパネル。

ジムニー/シエラに対して数値的に劣るのはランプブレークオーバーアングルである。この角度が大きいほど、障害物を乗り越えやすくなる(亀の子になりにくくなる)。シエラのランプブレークオーバーアングルが27度なのに対しノマドが23度なのは、ホイールベースを340mm延ばしたからだ。

「ノマドを開発するなかでの一番の命題は、ホイールベースをいかに延ばさないか、でした」と佐々木さんは話す。「ホイールベースを延ばすとランプブレークオーバーアングルが減ってしまうからです。坂を登りきって降りるところで腹を擦ってしまう。23度という数字は具体的な目標としたわけではなく、この数字ならジムニーとしての走破性はキープできるという目安です」

リヤドアを追加するにはホイールベースを延ばすしかないが、延ばせばランプブレークオーバーアングルが減ってしまうので、最小限に食い止めたい。そこで、ノマド(余談だが、開発初期は「シエラの5ドア」として開発を進めていたそう)の開発では、フロントドアを100mm程度短くしたうえで乗降性を確保できる最低限の寸法を導きだした。後席部分のモックアップを作って乗降動作の検証を繰り返し行なったという。

「リヤドアのサイズをいくつにするかと。モックアップを作り、いろいろな体型の人に試してもらって乗り降りを確かめました。その結果。足抜けスペースが300mmあれば、長靴を履いていても足を通せるねと」

後席の足抜けスペースは300mmを確保した。

ノマドはシートのクッション部が載る台の部分を削り込むなどし、300mmの足抜けスペースを確保している。こうしてギリギリの乗降性を確保した結果、ホイールベースの延長を340mmに留めることができ、その結果が23度のランプブレークオーバーアングルになった。「(ノマドは)ジムニーじゃないって言われないように作り上げたつもりです」と佐々木さんは語る。

ジムニー/シエラにも後席はあるが、後席を常用する用途は想定して設計していない。いっぽう、ノマドは後席を頻繁に使うケースを想定している。だから、リヤシートの考え方も異なる。

「シエラはふたり乗りで使う方が多い。そのため、リヤはできるだけフラットになるよう薄いシートにしています。荷室にボックスを付けてかさ上げすることでフラットになる。ノマドの場合は後席にも人を乗せ、かつ荷室も使う想定。最初からボックスを付けると高さ方向の容量が減るので付けていません(アクセサリーとして用意)」

リヤシートの座面はシエラ比で前上がりの形状としたうえで厚みを増して20mm高くした。そのぶんヘッドクリアランスが犠牲になっている。実際に乗り降りしてみると(筆者の身長は184cm)、腰の出し入れや足の出し入れには気を使わない。ただ、間口が狭いこともあって頭が開口部の縁にぶつかりそうになる。そこは要注意点だ。しかし、前に倒したフロントシートの隙間から後席にもぐり込む3ドアに比べれば格段に楽である。

フロントシート
リヤシート。1段階のリクライニング調整機能付き。

後席は広々とはしていないけれども、窮屈さは感じないギリギリの線でまとまっている印象。シエラは張り出したホイールハウスの影響を受けて中央寄りに座らせられたが、ノマドはホイールハウスの影響を受けずに済んでいる。カップルディスタンスは90mm拡大しているとのこと。ただしベースは軽自動車なので、後席は2名掛け。乗車定員が4名であることに変わりはない。

シエラのリヤシートは体育座りのような姿勢を強いられ、座面から太ももが浮くため長時間座っていると尻が痛くなる問題が指摘されていたが、ノマドの場合は太もも裏もサポートしてくれるので快適性は向上している印象。リヤシートにシートリクライニング(1段階)が付いているのも朗報である。

シエラは後席へのアクセスを考えてドアが長めに設定されていたが、リヤドアを得たノマドは前述したようにフロントドアを短くしており、振り出し量が減っている。3段階に開くフロントドアを全開にしたときに振り出し量はシエラが1075mmなのに対しノマドは970mm。1段階目はシエラの590mmに対してノマドは535mmで、狭い場所での乗り降りはしやすくなっていそうだ。

ジムニーノマドのドアオープン時の振り出し量

荷室の拡大も大きい。ノマドの荷室長はシエラ比+350mmの590mmもあり、左側面にラゲッジルームランプが追加されている。シエラの場合はノートでも立て掛けておく?と戸惑うようなスペースしかなかったが、ノマドの荷室を見ると、スーパーで1週間分の食材やら日用品を買い込んでも気にせず詰め込めそうと感じられて頼もしい。

ジムニーシエラに対して+350mmとなる590mmの荷室床面長を有するジムニーノマドのラゲッジルーム。
こちらはジムニーシエラのリヤシート。
ジムニーシエラのラゲッジルームは、荷室床面長が極めて短い。

オンロードでの試乗は5速MT仕様で行なった。心配だったのは動力性能である。シエラと同じガソリン1.5L直列4気筒自然吸気エンジンで、シエラ比+100kgの車重(1200kg)に対して充分なのかと。最高出力74kW/6000rpm、最大トルク130Nm/4000rpmのスペックに変更はない。なんなら、5速MTの変速比も最終減速比もシエラと同じである(4速AT仕様も同様)。

「もともとシエラは先代(JB43型)で1.3Lのエンジンを積んでいました。それが非力だったので現行(JB74型)で1.5Lにした。余裕はありませんが、まあまあ走れるようにしました。ノマドでは100kg増えているのですが、このクルマを考えたら1.5Lで充分だろうと。ギヤ比についてはいろいろシミュレーションしましたが、加速性能や燃費の観点で、現状のままでバランスがとれていると判断しました」

さんざん検討した結果、シエラと同じ諸元に落ち着いたというわけだ。

1.5L直列4気筒自然吸気ガソリンエンジンを搭載。最高出力は74kW(101PS)、最大トルクは130Nm。

「ターボを付けたりすると(出力/トルクが大きくなるので)いろいろ強化しなければいけなくなる。すると重くなる。(乗車定員4名ではなく)5人乗せようと思うと幅が広くなる。すると、もうちょっと長くしたいねと欲が出る。そうなるとジムニーではなくなってしまう。どこを狙って作っているんだと。ターゲットを広げすぎるとブレてしまう。いろいろ『ごめんなさい』なところはあるんですが、ジムニーらしさは守ろうと。そういう目線で見たときに、1.5L(自然吸気)のままで大丈夫だろうと」

ノマドは1.5Lエンジンの実力を目一杯引き出して走る感覚だ。発進から巡航スピードに達するまでのシーンでは余力はないものの、後続車に迷惑をかけないで済むだけの力はある。エンジンのおいしいところを使いながら変速していくプロセスが楽しい。メカ起因のノイズはほとんど気にならない。ホイールベースが長くなった効果とシエラに比べて重心に対して前寄りの着座位置になるためか、シエラに比べると全般的に動きはおだやかな印象だ。

タイヤサイズは195/80R15。ジムニーノマドのアルミホイールは専用デザインを履く。

真っ直ぐ走らないわけではないが、センター付近の手応えはやや緩く、カーブへの進入では気持ち早めに舵をあてておかないといわゆる手アンダー状態に陥るのは、ボール・ナット式ステアリングとラダーフレームシャシー構造に特有のクセだろうか。言い換えれば、いかにもジムニーらしい部分ではある。ただし、シャキッと動くクルマからノマドに乗り換えた人を拒絶するようなクセの強さではない。むしろ、ジムニーらしさが感じられて好印象を与えるのではないか。

ジムニー・ノマドについて簡潔にまとめれば、オフロードではとことん頼もしく、オンロードでは楽しいクルマということになる。ジムニーらしい悪路走破性はほぼそのままに、とくに日常生活での付き合いとオンロードでの使い勝手が増した印象だ。

スズキ・ジムニーノマド
グレードスズキ・ジムニー ノマド FC 5MT(4WD)
全長3890mm
全幅1645mm
全高1725mm
室内長1910mm
室内幅1275mm
室内高1200mm
乗員人数(名)4
ホイールベース2590mm
最小回転半径5.7m
最低地上高210mm
車両重量1180kg
パワーユニット1.5L直列4気筒DOHC(自然吸気)
エンジン最高出力75kW(102PS)/6000rpm
エンジン最大トルク130Nm/4000rpm
燃料(タンク容量)レギュラーガソリン(40L)
トランスミッション5速MT
燃費(WLTCモード)14.9km/L
駆動方式副変速機付パートタイム4WD
サスペンション前:3リンクリジッドアクスル式 後:3リンクリジッドアクスル式
ブレーキ前:ベンチレーテッドディスク 後:ドラム
ステアリングボール・ナット式
タイヤサイズ195/80R15
価格292万6000円