BYD RACCO

そりゃあもう大騒ぎ

既に前回のモビリティショーにほとんど市販レベルのプロトタイプが出品され、予定も明らかにされていたからそれほど驚くことではないのだろうが、この7月末に予定通りにきっちり発売した上に、航続距離などの基本スペック両側電動スライドドアをはじめとした充実装備、そして価格も少ない補助金(国のCEV補助金はわずか15万円、サクラなどは約58万円)をものともせずに「日産サクラ」より抑えて来たのだから、まあ騒ぎになっても当然と言えるだろう。

だから、そもそも日本独自の規格であるため、「ガラパゴス」と言われたり、非関税障壁としてやり玉に上がることも多かった軽自動車界に海外メーカーが本当にイチから2年半ほどで開発して、正面切って参入してきたのはこれが初めてである。米国トランプ政権のようにもっと米国車を買わないと他の関税を上げるぞとか、補助金をもっと増やせ、なんて圧力をかけるのではなく、その不利を承知で相手の土俵に乗り込んできたのだから、その意気やよし、である。

ラッコのラインナップは3車種。ベーシックグレードの「200(214万5000円)」とバッテリー容量が大きい「300プラス(239万8000円)」と「300プレミアム(249万7000円)」である。「300」は容量35.84kWhのBYD自慢のリン酸鉄リチウムイオン電池を搭載し、WLTCモードでの一充電走行距離は320km、ベーシックな「200」でも容量22.4kWhのバッテリーで210kmの航続距離を持つという。先行するサクラ(20kWh、180km)を見据えたスペックと言えるだろう。前輪を駆動するモーターの最高出力は自主規制に合わせた47kW(64PS)、最大トルクは160Nmというもので、特にパワフルさを追求したものではなく(サクラは47kW/195Nm)、扱いやすさを重視しているという。

軽EV唯一の電動スライドドアを装備

白紙から開発したというラッコを象徴するのが全車標準の両側電動スライドドアだ。2022年に発売されたサクラは普通のヒンジドア(商用車の「三菱 ミニキャブEV」と「ホンダ N-VAN e:」はスライドドアだが手動)であり、その試乗会では重量増と床下のバッテリーとのスペースの兼ね合いで軽EVで成立させるのはと難しいと説明されていた。

ところがラッコはごく当たり前に(日本の人気モデルは皆パワースライドドアなので)両側電動スライドドアを備えて来た。既存の軽自動車の部品を流用するという縛りがあるかないかという違いだと推測する。しかも試乗車のプレミアムには近づくと足元の地面にライトが当たり、そこを踏むとドアが開くハンズフリー機能も付いている。なかなか感知してくれず脚をバタバタさせる必要がない、賢い仕掛けである。

見習うべきところは徹底的に真似

ラッコは軽自動車界隈で言うところの「スーパーハイトワゴン」に属する。王者「ホンダ N-BOX」をはじめ、「スズキ スペーシア」や「ダイハツ タント」などランキング上位の人気モデルは皆このボディ形状+両側電動スライドドアというボディ形式である。ボディの寸法もN-BOXと事実上変わらず、2520mmのホイールベースもN-BOXと同一だ(サクラはホイールベース2495mm、全高も1655mmと低い)。

一番人気のN-BOXを十分に研究していることはリヤシートのアレンジメカニズムを見ただけで明らかだ。ラッコのリヤシートは5:5の左右2分割で前後スライド機構付き、バックレストを倒すとシート座面はダイブダウンして床面はフラットになるし、座面だけを跳ね上げるチップアップ機構も付く。要するにN-BOXと同じ、見習うべきところは徹底的に真似するという姿勢が気持ちいいほどだ。さらにステアリングコラムのチルト&テレスコピック機構、運転席パワーシートなどホンダにもない装備も付いている。

重量のおかげで落ち着いた乗り心地

パワフルさは追求していないというが、動き出しもスムーズで軽快だし、高速道路のランプでフル加速してみた際も余裕を持って合流することができた。乗り心地は重量のせいで(プレミアムは1230kgとサクラGより150kg重い)当然硬めで、一般道ではややドタバタする場面もあったが、その代わりに高速道路でのスタビリティは不満なし、総じてサクラよりも落ち着いた乗り心地である。気になったのは車庫入れの際など、ごく低速で軽くブレーキを踏んだ時の立ち上がりがカックンと敏感なことぐらい(ある程度スピードが出れば気にならなくなる)だった。

できない、難しいと言ってきたことをラッコが軽々と飛び越えてきたことで従来の言い訳は通じなくなった。しかもラッコの何倍もの補助金(そもそも筋が通らないこと甚だしい)を貰っておいて負けるようなことになれば面目丸つぶれだろう。これからが真剣勝負である。

PHOTO/平野陽(Akio HIRANO)

SPECIFICATIONS

BYD ラッコ 300 プレミアム

ボディサイズ:全長3395 全幅1475 全高1800mm
ホイールベース:2520mm
車両重量:1230kg
電気モータータイプ:永久磁石同期電動機
最高出力:47kW(64PS)
最大トルク:160Nm(16.3kgm)
バッテリー:リン酸鉄リチウムイオンバッテリー(LFP)
電力量:35.84kWh
トランスミッション:1速固定式
駆動方式:FF
サスペンション:前マクファーソンストラット 後トーションビーム
ブレーキ:前ベンチレーテッドディスク 後ソリッドディスク
タイヤサイズ:前後165/65R15
最高速度:─
航続距離(WLTC):320km
車両本体価格:249万7000円

BYD ラッコ

BYDが日本専用設計の軽EV「ラッコ」を発表「目標は年間販売台数1万台」

7月28日、東京ポートシティ竹芝においてBYD Auto Japanが軽BEV「ラッコ」発表会を開催した。BYD初となる日本の軽自動車規格に対応した意欲作である。