生産終了から7年、なぜ今「パジェロ」を復活させたのか?

−−まず、先代4代目パジェロの生産について、国内向けが2019年、グローバルでも2021年に終了した理由を、改めてお教えいただけますか?
板垣さん パジェロは我々にとって大事なクルマではあった一方で、当時の世界的なSUVブームが、本格的なものよりもオンロード系のスタイリッシュな方に動いていた時期でした。
パジェロ自体も販売台数がかなり出なくなっており、環境・安全規制も強化されていく中で、ビジネス上その対応に目処を付けられなかったことが、一番大きいと思います。

−−7〜5年のブランクを経て、もう一度パジェロを復活させようと決断された経緯は?
板垣さん 一つ大きいのは今年から始まった中長期ビジョンですね。我々は小さいメーカーですので、尖ったクルマでブランドを作っていくのが、この厳しい競争環境の中では非常に大事になります。
パジェロに関しては、SUVもスタイル重視のものから本格的なものまで、お客様の選択肢もだいぶ広がってきた時期だったので、我々のブランドの核をもう一度引っ張るリーダーとしてやっていきたいという、この時代感と我々の経営戦略とがちょうど合うタイミングでした。
−−企画を始めたのはいつ頃からですか?
板垣さん 開発は4年くらいかかっていますが、企画はそれより前からですね。国内向けの生産が終了してから7年経ちますが、企画担当としては「いつかはパジェロ」という想いをずっと抱いていました。当時はパジェロスポーツも担当していましたので。
−−今の三菱さんは特にASEAN市場で強く、車種数もOEM車を除けば日本より多いと思われます。日本でも車種数を増やすうえでは、そのパジェロスポーツをそのまま輸入するのが一番手っ取り早いと考えますが、今回敢えてパジェロを新しく開発した狙いは?
板垣さん パジェロスポーツ自体の車歴もだいぶ長くなっている(現行3代目は2015年8月にタイでデビュー)うえ、元々ASEAN向けモデルで、多少割り切った作り方もしていますので、日本の法規やお客様のニーズを考慮すると、パジェロとしてもう一度作る方が我々としてもチャンスがあると考えました。
私自身、タイに4年間駐在していたので、ASEANではパジェロスポーツが非常に高い評価をいただいており、それが日本でも受けるだろうというお声もいただいていたんですが、技術的課題もあり、それは実現しませんでした。

−−新型パジェロは全てタイで生産し、グローバルへ輸出されるのでしょうか?
板垣さん はい、そうです。
−−それはやはり、ラダーフレーム構造のFR車ということで、同じようなモデルを生産している拠点がタイだから、ということでしょうか?
板垣さん そうですね。一番大きいのは、タイ工場はフレーム車の経験が非常に長く、知見と設備もしっかりしているということですね。トライトンやパジェロスポーツも含め、タイで生産しています。タイ工場は海外の中では最も大きく、日本との連携も密にできているので、品質面もしっかり確保できます。自動化も進んでおり、日本と比較しても生産上の制約は少ないので、自信を持ってお届けできると思います。
−−タイとオーストラリアと日本が、新型パジェロの最初に展開する市場に挙げられていましたが、その次はどの地域が大きい市場になりますか?
板垣さん 中南米やASEANですね。市場規模の分布についてはトライトンに近いところがあります。

新型パジェロが追求した「悪路快適性」とパジェロらしいデザイン
−−世界初公開の際には長年パジェロに関わっている方の声が紹介されていましたが、そうしたユーザーからは、どんな新型パジェロが欲しいという声がありましたか?
板垣さん 色々な声をいただきました。まず「とにかくパジェロが欲しい。なんでないの?」から始まるんですが、そこにはお客様の思い出が詰まっていて、パジェロが頼りになったということが一番大きいと思うんですよね。
これは我々が目指しているところでもありますが、どんな環境・路面でも信頼できるということにパジェロの価値がありますので、そういうパジェロが欲しいという想いがあったと思います。
そこが今回のコンセプト、パジェロらしいコアの部分は継承しながら圧倒的に進化させるという考え方にも繋がっています。
−−パジェロ不在の間にライバルは増えましたが、新型パジェロのスペックを見るだけでも、ライバルのことを相当意識して開発されたことがうかがえました。
板垣さん 想定されるライバルはもちろん高級車まで、ものすごくたくさんのクルマを今回はベンチマークしています。
その中で今回のパジェロの強みは、パジェロらしさ全開かつ、上質に進化した、この2つにあると思います。
「プレステージ」「コンフィデンス」「コンフォート」という商品特徴のキーワードを掲げていますが、パジェロは悪路での信頼性、耐久性があり、快適性も両立している。特に「悪路快適性」、静粛性や上質感についてはかなり力を入れて開発していますので、ライバルに対する大きな違いになると思います。

宮崎さん デザインでも、エクステリアのプロポーションやシートポジションなどもライバルと比較して、今回の新型はどうあるべきかを議論しています。インテリアにおいても、どこを頑張ればお客さんの目を引けるかというのも、色々チーム内で議論しながら進めてきました。
−−運転席からの視認性など、デザイン上でパジェロならではの守らなければならないポイントは何かあるのでしょうか?
宮崎さん エクステリアでは塊感や厚み感、迫力あるフロントまわりを作り出すために、アイポイントとエンジンフードとの関係を、モックアップを何度も作りながら、実験評価部門の方にも入っていただきながら議論しました。

−−パジェロらしさを出すうえで、特に苦労したポイントはありますか?
板垣さん ボンネットの造形はまさにそうですね。
宮崎さん 「王冠」という風に言われているのですが、カモメ形状を出すために、視界要件もあるので、クレイモデルを盛ったり削ったりしながら、実験評価部門の方にも集まっていただき、「これならクリアできる」というのを何度もしました。
新さん それこそ4代目パジェロのボンネットに粘土を盛って、デザイナーが「こうしたい」という形を再現してから走り回り、「これだと角がどこにあるか分からないからもう少し削ってくれ」といったことをしましたね。
今はすごくバランスが取れた、それぞれの角がどこにあるかが分かりやすい、カモメ形状の中心がここというのも分かりやすいので、クルマが真っ直ぐ進んでいるか進んでいないかも分かりやすくなっています。

−−モータースポーツへの参戦まで見据えた視界要件もあるのでしょうか?
新さん 増岡(浩・チーム三菱ラリーアート総監督)のアドバイスとしては、トライトンの時からそうでしたが、ラリーで勝つには速いだけではダメで、ドライバーが疲れずに集中した状態を保てることが大事だというメッセージがありました。また乗り心地の良さとハンドリングの両立についても、こだわって作っています。
板垣さん その増岡が「来年のAXCR(アジアクロスカントリーラリー)にはパジェロで出る」と公言してしまいましたが(笑)
新さん 実験車を数台分取られました(笑)
−−トライトンの開発ではチリの鉱山で働く方々を手伝うくらいの勢いで使われ方をリサーチしたという話を伺いましたが、新型パジェロの開発ではそうした武勇伝はありますか?
新さん パジェロは悪路をどこまでも行けるクルマなので、「十勝アドベンチャートレイル」というオフロードテストコースが、元々あった舗装路のテストコースの横にあるので、オンロードとオフロードを行ったり来たりしながら確かめました。
ただ、唯一なかったのが砂場なんですが、昔は中東やオーストラリアの砂漠に出かけていましたが、比較したい車両を全部持って行くのはすごく大変ですし、限られた期間でしかできないチューニングに留まっていたので、身近な日本にないかと探して見つけたのが、鳥取の「ルナテラス」です。「自動車メーカーさんの問い合わせは初めてです。ぜひ使って下さい」と言っていただけました。鳥取砂丘の裏手にある、月面環境を模した実証フィールドですね。
板垣さん マーケティングや企画の面では、皆さんの頭の中にパジェロ像があるので、オーストラリアやタイなどに行って意見交換しましたね。

ベースはトライトンでも中身は別物! フレームから足まわりまで徹底的に作り込む
−−メカニズム面は、ベースはトライトンで、そこからパジェロ用に作り直した、という認識でよろしいでしょうか?
板垣さん そうですね。ですがほぼ専用チューニングです。先ほど話した視界の面でも、着座位置をトライトンよりも高くしています。視点が変わる=全部やり直しですので。
−−Aピラーの角度もパジェロはトライトンよりもだいぶ立っていますよね。視界の広さを優先しているのが分かります。
板垣さん そうなんですよ。ボディはAピラーを立てて、フロントドアも変更しているので、そういう意味ではまるで違うものを作っている感覚です。

新さん フレームもトライトンと似た構造ですが、ただ短くしただけではなく、剛性を上げるためにサイドフレーム同士をつなぐクロスメンバーの本数を増やしたり、クロスメンバーの形もトライトンはただの鉄パイプですがパジェロはしっかり剛性が出る最中(もなか)形状にして、ねじり剛性を上げています。

−−「悪路快適性」をフレーム構造で実現するのはハードルが高いと想像しますが…。
新さん その目標があったから、そういうフレームが必要ということになりました。土台がしっかりしていると、サスペンションも綺麗に動き、上のボディもぐらぐらしません。専用のリヤ5リンクサスペンションは、オフロード走行に必要なストローク量を確保しつつ、オンロードで乗った時も乗り心地をスポイルしない設定をミリ単位で作り込みました。
板垣さん 人を快適に運ぶか、荷物を載せるかというところでも、トライトンとは全然違いますので、リヤ5リンク式サスペンションはリーフスプリングからコイルスプリングに変更して、乗り心地や高速安定性を高めています。

宮崎さん 先ほどの増岡の話にもありましたが、本来ならセンターコンソールをもっと太く作って、カップルディスタンスを広げ、もっと高級そうに見せることもできたんですが、それをすると人を長時間拘束するので、長時間乗ると疲れやすいクルマになってしまうんですね。ドアトリムやパワーウィンドウスイッチまわりも全部柔らかいものにして、膝が当たっても痛くないようにしています。さらにしゃくれた形状にすることで、少しでも脚を広げられるようにしました。
−−シフトパネルなどにザラザラした質感のパネルが使われていますが…。
宮崎さん 従来はそうした箇所にピアノブラックを使っていましたが、非常に傷つきやすいので、鋳物に似せたマットな質感表現をしました。

−−グローバルでは2列5人乗り仕様も選べるんですか?
板垣さん グローバルではご用意していますが、日本ではいざという時に多人数乗れることが重要ですので…。3列目も普通に座れるよう設計しています。

価格設定への自信と「パジェロイオ」「パジェロミニ」復活の可能性
−−昨今の円安では海外からの輸入がかえって価格設定の足かせになりかねない状況だと思いますが、価格戦略はどのような考えで決定されたのでしょうか?
板垣さん 価格自体は基本的には市場で決まっていくので、他社さんも含めてベンチマークしながら、どの辺りの量販帯で戦っていくのかを一つひとつ議論してきました。
−−4グレードあり、価格帯に200万円弱の幅がありますが、直接比較されやすい最上級グレード同士ですと、キャラクターが最も近いトヨタ・ランドクルーザー250よりもだいぶお高い値段になっています。それを踏まえた勝算はどのようにお考えですか?
板垣さん まずは実車を見て乗っていただきたいと思いますが、値付けを含め、我々はかなり自信を持って設定できたと思っています。我々としてもかなりチャレンジングな価格帯ではありますが、クルマとしてはそれだけの価値があると思っています。同価格帯の車種を見ても高級感や上質感を持たせているので、それをぜひ体感していただきたいと思います。
−−9月の発表会ではパジェロシリーズの今後の展開として、より小さいモデルが2車種あることが示唆されましたが、どういうクルマになるのでしょうか?
板垣さん 中身はお伝えできませんが、コンパクトとスモールになります。開発はスタートしています。私の立場としては、最初のパジェロが成功しなければなかなか次に続けられないので…。
−−それらは板垣さんが担当されているんですか?
板垣さん 今のところは先行開発の段階ですね。
−−パジェロを名乗る以上はフレーム構造の本格的なものを期待したいですが、モノコックボディになるという噂もあり…。
板垣さん いろんな選択肢があると思いますが、高い耐久性がありつつ快適で扱いやすいのがパジェロらしさで、プラス車種ごとの特徴があると思います。今回はパジェロをフラッグシップとして上質さを追求しましたが、コンパクトやスモールでどうすべきかは検討中というか、考えていくべきことだと思いますね。
−−以前は「イオ」と「ミニ」がありましたので、両車の復活を待っている人はいるのでは…?
板垣さん ぜひお声をいただきたいですね。このパジェロを発表して以来、パジェロ自体にもそうですし、その後のラインアップに対してもやっぱりいろんなお声がいただけるようになったので、本当にありがたく、参考になる声もあります。まずは今回のパジェロがしっかり立ち上がって、成功したら次の可能性がいろいろあると思います。
−−パジェロの成功とその先の展開を強く期待しています。ありがとうございました!


