連載

【歴史を飾ったライバル対決】

1980年代に軽自動車人気を復活させた軽ボンバン

1976年11月に施行された軽自動車の規格改定によって、ボディサイズは全高が200mm、全幅が100mm大きい3200mm×1400mm×2000mm以下となり、エンジン排気量は360ccから550ccに拡大された。これにより、軽自動車の安全性が高まり、高速性能も向上し、排ガス規制対応も比較的容易になった。

1979年5月にデビューしたスズキの軽ボンバン「アルト」

スズキは、規格改定後の1979年5月に画期的なコンセプトの新型車「アルト」を発売した。それは、物品税がかからず価格が安くできる商用車でありながら、乗用車スタイルの軽自動車”軽ボンネットバン(軽ボンバン)”だった。商用車にすることのメリットは、物品税が非課税のため販売価格が下げられること。物品税とは、生活必需品は非課税だが贅沢品には課税するというもので、軽乗用車については当時15.5%の物品税が課せられていたが、軽商用車は非課税だったのだ。

軽ボンバンが誕生した背景には、モータリゼーションが一段落して主婦層が足として利用するセカンドカー需要の増加、また日常で使用する場合の乗車人数は多くの場合2名以下であること、女性ドライバーは乗用車か商用車かを意識しない…といった市場調査の結果があった。

1980年6月にデビューしたダイハツの軽ボンネットバン「ミラ・クォーレ」

市場に放たれた軽商用車アルトは経済性に優れ、しかも安価ということで大ヒット。これを受けて、最大のライバルであるダイハツは、次期クオーレに軽ボンバン仕様を設定。アルトを凌駕する合理的な設計を目指して、室内と荷室空間と大きくした1.5BOXというコンセプトの「ミラ・クオーレ」を1980年6月に発売し、両人気モデルは激しい販売競争を繰り広げた。

“アルト47万円”のキャッチコピーでデビューしたアルト

1979年5月に誕生した軽ボンバン「アルト」のコンセプトを推進したのは、1978年6月にスズキの新社長となった鈴木修氏だった。

1979年5月にデビューしたスズキの軽ボンバン「アルト」

アルトは、FFの5代目「フロンテ」をベースに2ドア化して商用車仕様に変更。商用車規格に合わせて法定の荷室面積を確保するため、後席は簡素な可倒式を採用。多くのユーザーが後席を使わないなら、後席の領域を減らしてでもコストを下げる方が優先という大胆な戦略だ。

さらに、ウインドウォッシャーは電動でなく手押しポンプで、ラジオはオプション設定。左側ドアのカギ穴やシガーライター、フロアカーペット、リアウインドウの熱線デフォッガーなどを省き、パワートレーンは最高出力28ps/最大トルク5.3kgmを発揮する550cc水冷3気筒の安価な2ストロークエンジンと4速MTの組み合わせなど、徹底的なコストダウンが行なわれた。

定員は4人ながら実質2人乗りという荷室が広いアルトは、ワングレードのみで車両価格は当時として驚異的な47万円に設定。当時の大卒初任給は11万円程度(現在は約23万円)だったので、単純計算では現在の価値で約98万円に相当する。

アルトの月販台数は1.8万台を受注する空前の大ヒットモデルになり、排ガス規制対応に遅れて販売不振に陥っていたスズキの救世主となり、また1980年代の軽ボンバンブームを作り出し、軽自動車人気の復活という重要な役目を果たしたのだ。

1.5BOXでアルトとの差別化を図ったミラ・クオーレ

1980年6月にデビューしたダイハツの軽ボンネットバン「ミラ・クォーレ」

アルト発売の翌1980年6月にデビューした軽ボンバン「ミラ・クオーレ」は、軽乗用車「クオーレ」の商用車としてデビューした。もともとクオーレは、「フェローMAX」が軽の新規格に対応して「MAXクオーレ」となり、その後モデルチェンジして1980年に「クオーレ」を名乗ったのだ。

1970年にデビューしたフェローの2代目「フェローMAX」。高性能とFF化が特徴
1977年7月にデビューした「MAXクオーレ」。ミラ・クオーレの先代にあたる

スズキ「アルト」のハッチバックに対して、ミラ・クオーレはハッチバックながら“FF 1.5BOX”を謳ったレイアウトで、エンジンが収まるフロント部をコンパクトに仕上げた上で全高を高くして、室内空間と荷室空間を広くしたことが特徴だった。この設計思想でアルトとの差別化を図った。

スタイリングは、現代的で欧州車風のスタイリッシュなデザインで、視界を広く開放感を実現するためにガラスエリアを広くしている点も目を引いた。極力広い室内空間を得るために、ドライビングポジションをやや立ち気味とし、リアシートについては一体可倒機構を組み込んで利便性が高められた。

1980年6月にデビューしたダイハツの軽ボンネットバン「ミラ・クォーレ」

パワートレーンは、最高出力29ps/最大トルク4.0kgmを発揮する550cc直2 SOHCエンジンと4速MTおよびオートクラッチ4速の組み合わせ。オートクラッチとは、MTをベースにバキューム式(通常は電磁クラッチ)でクラッチを自動断続する2ペダル式である。

車両価格は、アルトよりやや高いが49.3万円の低価格だった。安価な価格と優れた燃費性能、加えて1.5ボックスの実用性の高さから大ヒット。ミラ・クオーレは、乗用車版のクオーレの販売台数を大きく上回り、アルトに続く販売を記録してダイハツの大黒柱へと成長したのだ。

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1980年代に一世を風靡した軽ボンバンだったが、1990年代にはそのブームは去ってしまった。1989年4月に物品税が廃止されて消費税が導入されたことで税制メリットが縮小したこと、安価であることが重視されたそれまでの軽自動車に対するユーザーの要望の変化(居住性や快適性、多用途性などを重視)、その要望にマッチした「ワゴンR」のようなハイトワゴンブームが市場を席巻したためだった。

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