熱効率50%への挑戦。水平対向エンジンならではの難しさ
スバルは2026年10月17日に栃木県佐野市のスバル研究実験センター(SKC)で「SUBARU 開発戦略 説明・取材会」を開催した。この場では自社開発BEV(電気自動車)で取り入れた開発変革、次世代ADAS、次世代プラットフォーム、次世代パワーソース(新エンジン/BEV)、制御統合ECU/E-Eアーキテクチャーなどの説明と試験車の試乗体験があった。本稿では次世代パワーソースのうちエンジンについてレポートする。

スバルは水平対向ガソリンエンジンの開発を止めない。止めずに熱効率50%を目指して進化させていく。「どんなパワーソースでもエネルギーを無駄にしない」コンセプトを掲げ、実用燃費が良く、扱いやすく、走れば心躍る次世代水平対向エンジンの開発に取り組んでいる。
エンジンの熱効率(が高ければ燃費向上に寄与させやすい)と比出力(リッターあたり馬力)はトレードオフの関係にある。燃費を重視すれば出力は上げにくくなるし、出力を重視すれば燃費は我慢せざるを得ない。スバルはこれまで培ってきた過給技術と燃焼の作り込みにより、豊かなトルクと業界トップレベルの熱効率、すなわち50%を目指す。高い熱効率を実現すれば、燃費に全振りすることもできるし、出力側に振ることも可能。燃費もある程度良くて、ある程度力強いエンジンに仕立てることも可能になる。
ショートストロークでも強い筒内流動を生み出す燃焼技術

しかし熱効率を高めていこうとしたとき、スバルには特有のハードルが立ちはだかる。水平対向エンジンを採用しているからだ。この左右方向に幅が広いエンジンの採用を続ける限り、ピストンのストロークを延ばすには限界があるだ。限度はあるもののボアに対してストロークの比率を大きくしていくほどシリンダー容積に対する燃焼室の表面積が占める割合は小さくなり、そこから逃げる熱を抑えることができる。
そのため冷却損失が低減できて熱効率は向上する。また、ピストンスピードが速くなってタンブルの形成に有利になって空気と燃料が良く混ざるし、燃焼スピードの向上にも寄与し、燃焼エネルギーが機械エネルギーに変換される効率が高くなって熱効率向上につながる。クルマの全幅を拡大すればエンジンルームの幅も広くなるので、水平対向エンジンでもある程度ストロークを伸ばすことは可能。だが、非現実的だ。熱効率を追求した他社最新のユニットに比して短いストロークで効率を向上していかなければならない。
スバルはこれまで、ショートストロークでも、いやショートストロークだからこそ強い筒内流動を作るべくシミュレーションの繰り返しなどにより、知見を積み重ねてきた。その知見を生かし、「(他社)ベンチマークに比べて強い筒内のガス流動が実現しつつある」という。これにより、空気と燃料が良く混ざり、きれいに燃えやすい均質混合気ができる。
3次元燃焼解析でノッキングを予測。高効率運転領域は従来の約2倍に
次世代水平対向エンジンの開発では、新たに3次元燃焼解析を取り入れた。これによって点火後の火炎の広がりを精度高く捉えることができるようになったことで、ノッキングの予測が可能に。この解析技術の効果もあり、開発機は熱発生率が高くなった。ピストンが下がっていく過程でだらだらと熱が発生したのでは燃焼エネルギーを効率よく機械エネルギーに変換することはできないが、熱発生率が高いとピストンが逃げる間もなく力が伝わるので効率がいい。
スバルが示した従来機(ハイブリッド車に搭載の自然吸気エンジン)と開発機(過給エンジン)の熱効率マップを見ると、開発機は熱効率の高い領域が従来機の2倍程度に広がっている。これにより特定の運転条件だと燃費はいいけど、そこを外れると途端に燃費が悪くなるということはなく、さまざまな運転条件で燃費が良くなるポテンシャルを得たことになる。つまり実用燃費が良くなる。
ストレートな吸気ポートと過給技術で燃焼を改善
また過給器によって空気量を自在に制御できるため、豊かなトルクを発生する領域が広がっている。そのため、アクセルペダルを踏み込んだら踏み込んだだけしっかり走ってくれるエンジンになる。余裕のある走りと実用燃費の良さが次世代水平対向エンジンの特徴であり、スバルはそこを狙って開発しているところだ。


開発戦略 説明・取材会には開発機のシリンダーヘッドのカットモデルが展示されており、ストレートな吸気ポートが良く見えるようになっていた。担当技術者は、「強い流動と均質な混合気を形成するにあたり、吸気の通り道は重要なポイント。従来に比べてストレートなポートにしているし、断面積も少し絞り流速を上げている」と説明した。断面を絞ると圧損が増えてしまうため、空気を吸いにくくなる。そこで過給によって必要な空気を押し込む考えだ。
VGT、ミラーサイクル、プレチャンバー。熱効率50%達成への次の一手

その過給器は排気流量に応じてタービンの流路を可変制御する可変ジオメトリーターボ(VGT)の採用を選択肢のひとつに挙げている。レスポンスを確保する狙いだが、応答遅れの解消は走行用あるいはアシスト用モーターで補う選択肢もあると認識しているとのこと。また、ミラーサイクル(吸気バルブの閉じタイミングを制御することにより圧縮比<膨張比を実現し燃焼エネルギーの変換効率を高める技術)の適用は考えているという。これにより排気温度が下がるため、VGTに高価な材料を使わなくて済み、採用しやすくなる。
ただし、これらの技術で熱効率50%を達成するのは「正直まだ厳しい」とのこと。熱効率50%を達成する手段としてプレチャンバーは選択肢のひとつとして検討している模様。メインの燃焼室とは別に小部屋(副室)を設け、この副室で混合気に点火。そこで発生したジェット噴流がメインの燃焼室に噴き出ることで、混合気を一気に燃焼させる技術だ。


ジェット噴流の威力は大きく、理論空燃比に対して空気の比率が高いリーンな混合気(にするほど熱効率は高まる)を一気に燃焼させることも可能になる。熱効率を飛躍的に高めるには、通常の点火プラグでは火がつきにくいリーンな混合気をきれいに燃やす、すなわち希薄燃焼をものにしていくことが必須。スバルはそう認識し、「エネルギーを無駄にせず、クルマらしさを失わない」エンジンの開発に取り組んでいる。
