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Volkswagen ID. Buzz
どこか懐かしく、すごく新しい21世紀のワーゲンバス
21世紀のワーゲンバスが誕生した。フォルクスワーゲン肝煎りのEV専用プラットフォーム「MEB」をベースにしたミニバンタイプの電気自動車であり、レトロスペクティブなデザインと最先端のデジタル機能の両方を兼ね備える。
ID. Buzzには、5人乗りの乗用仕様と3人乗りの商用バン仕様の2モデルがラインナップされる。車両寸法は全長4712×全幅1985×全高1937mm、ホイールベース2988mmで、ボディの長さはちょうどトヨタ ヴォクシー/ニッサン セレナ/ホンダ ステップワゴンクラスに相当する。グロスで82kWh、実容量で77kWhのバッテリーをフロアへフラットに敷き詰め、最高出力150kW/最大トルク310Nmのモーターで後輪を駆動。170kWの急速充電を使用すれば、約30分で5〜80%までチャージすることができる。
前後のオーバーハングは最小限に
パワートレインをコンパクトにまとめたEV専用プラットフォームの恩恵により、ラウンジのように広々としたキャビン空間を確保。荷室容量は1121リットルで、2列目シートを折り畳めば最大2205リットルまで拡大できる。2人乗り/3人乗りから選択可能な商用バン仕様は、固定式パーティションの後方に3.9平方メートルの広大な積載エリアが広がる。
ワーゲンバスの面影を湛えるモノフォルムのボディは前後のオーバーハングが非常に短く、ドライバーはボディ先端近くに着座できるため前方視界も良好。EVの航続距離に大きく影響する空力性能も徹底的に追求し、ミニバンスタイルながら0.285のCd値を実現(バンは0.29)している。
動物由来のマテリアルは一切不使用
他車の信号や周囲の環境と相互通信できる「Car2X」(車車間/路車間通信システム)をはじめ、衝突被害軽減ブレーキやレーンアシスト、同一車線内全車速運転支援システム「トラベル アシスト」といったADAS機能も充実。さらに、駐車の際に任意で保存した走行ルートを自動的に走行させることができる「メモリーファンクション」も採用した。OTA(オーバージエア=インターネット経由で自動車のソフトウェアを更新する技術)にも対応しているので、ID. Buzzは購入後も常に新しい仕様へとアップデート可能だ。
ID. Buzzはワーゲンバスにとって最大の魅力であった「楽しげなムード」も継承した。エクステリア/インテリアデザインはいかにも愛嬌たっぷりで、シングルトーンで7色、ツートーンで4タイプと多彩なボディカラーも用意。白と淡い色味のバイカラーを基調とした内装も往年の雰囲気を思わせる。
ID. Buzzにはサステナビリティに配慮したマテリアルも多数使われている。レザーなど、動物由来の素材は一切使用せず、代替マテリアルを積極活用。ステアリングホイールのリムは一見本革のように見えるが、ポリウレタンを利用して上質な見栄えと触感を実現している。約10%の海洋プラスチックと約90%のペットボトル再生材から作られたリサイクル糸「SEAQUAL yarn」や、エコフレンドリーなマイクロフリース素材「ArtVelours ECO」も使用している。
実はワーゲンバスから始まったVWのEVづくり
フォルクスワーゲンの電気自動車開発はタイプIIから始まった。1970年にウォルフスブルクに設立した未来研究センターでは、eモビリティの開発が「早急な課題のひとつ」として掲げられていた。責任者として着任したのは、電気化学の博士号をもつバッテリー研究の専門家、アドルフ・カルベラー。彼とそのチームは、世界の石油埋蔵量はあと20年しかもたないと言われていたその時代に、ガソリンに代わる次世代の自動車の原動力を模索するべくeモビリティの研究をスタートさせた。
彼らが1972年に開発をスタートしたのが、大手電力会社のRWEとコラボレーションした「タイプ II e-キャンパー」。当時のビートルよりも重い850kgのバッテリーを搭載したe-キャンパーは、約70kmの航続距離と70km/hの最高速度を達成。いわゆるシティコミューター向きのEVとして大きな期待が寄せられたe-キャンパーは総勢200台超のテスト車が作られたが、価格と重量、そしてインフラの未整備がネックとなり、20台強の販売に留まっている。しかしその知見はその後もフォルクスワーゲン社のeモビリティ開発の豊かな土壌を作り出だし、いよいよ21世紀の「EV時代」に花を咲かせることとなった。