1965 Porsche 912 【ポルシェ図鑑:18】

【ポルシェ図鑑】「ポルシェ 912(1965)」ボトムレンジを担った911の兄弟分。

ポルシェ 912のフロントスタイル
新型モデルの911シリーズは高性能が故の高額な車体価格により、販売面では苦戦を強いられることになる。ポルシェは事態を打開するため。911のエンジンや装備を簡素化した廉価版、912をデビューさせた。
ポルシェが満を持してリリースした新型モデル・911は、当時の水準をはるかに超える高性能を誇るスポーツカーだったが、それに見合うように車体価格も高額だった。多くのライバルたちと販売面で対抗すべく、ポルシェ911の廉価版ともいえる装備を与えた912を世に放つことになる。

1965  Porsche 912

911の廉価版としてデビュー

911の廉価版として、1.6リッター空冷水平対向4気筒OHVを採用した912。最高出力は90hp、最高速度は180km/hをスペックシートに掲げた。

ポルシェ 912は、911の廉価バージョンとして1965年4月に追加されたモデル。外観やサスペンションなどの基本的なメカニズムは911と変わらないが、エンジンは356 SCのものをベースとした1.6リッター空冷フラット4 OHVに代わり、装備なども簡略化されていた。現在の718 ボクスター&ケイマンのルーツというべき存在である。

1963年に発表されたポルシェの新世代GT、911は1965年から本格的な生産に入り、その高い走行性能が評価された反面、ハイパワーRRレイアウトゆえのシビアなハンドリング特性と2万1900ドイツマルクという価格設定(356 Cの1万4950ドイツマルクから大幅に上昇したうえ、メルセデス・ベンツ230 SLの2万600ドイツマルクよりも高い設定となっていた)が販売上のネックになっていた。

ポルシェは当座の対策として356 Cの生産を継続していたのだが、クルマ自体の古さが隠せないのはもちろん、当時のポルシェの体制的に異なる2種類のクルマを並行して生産するのも大きな負担となっていた。

356のフラット4を流用

ポルシェ 912のリヤビュー
1965年に登場した際の912の広報写真。よく見るとダッシュパネルがボディ同色のスチールとなり、油温&燃料のコンビメーター、レブカウンター、スピードメーターの3連メーターとなっているのがわかる。

そこで彼らが考え出したのは、911のボディを流用した廉価版の製作であった。しかも早く生産を立ち上げ、確実な結果を得るために、356 SCの1582cc空冷フラット4 OHV 616/16ユニットを911のリヤに搭載することを選択する。

しかしそのまま転用するのではなく、圧縮比を9.5:1から9.3:1とし、カムシャフトなども変更した616/36ユニットを新たに開発。最高出力を95hp/5800rpmから90hp/5800rpmへとディチューンする代わりに、最大トルクが123Nm/4200rpmから122Nm/3500rpmへと変わり、より扱いやすい特性となった。

4気筒を搭載したことにより良好なハンドリングに

1967年モデルの912。見た目ではほとんど911と見分けがつかないのが売りだったが、ポルシェの思うほど販売台数は伸びずに終わった。

当時、開発エンジニアを務めていたペーター・ファルクなどは、新しい911と古い356のエンジンをミックスすることに抵抗していたというが、6気筒に比べエンジン単体重量が54kgも軽くコンパクトになったことでシャシーバランスが改善されたうえ、4輪ディスクブレーキなどシャシー側の基本構成はそのままとしたこともあり、912は単なる廉価版とは言い切れない良好なハンドリングを示した。

ギヤボックスは4速MTが標準だが、オプションで5速MTもセレクト可能。インテリアはステアリングがプラスチック製となったほか、メーターナセルがボディ同色の鉄板むき出し仕上げとなり、メーターも911の5連から3連となるなど簡略化されていた。ちなみに価格は4速仕様が1万6250ドイツマルク、5速仕様が1万6590ドイツマルクと911よりはるかに安価な設定となった。

生産台数はクーペとタルガ、合わせて約3万3000台

1967年モデルから追加された912 タルガ。メカニズム的な内容は912 クーペと変わらず。この年からメーターは911と同じ5連式となる。

912は概ね好評を持って市場に迎えられたが、ユーザーの多くはオプションの5速MTや911と同様のウッドステアリングを選んだこともあり、1966年モデルでは早くもメーターナセルをブラックアウト。1967年モデルでは5連メーターが標準となり、タルガ仕様も設定されるなど次第に911に近い内容へと変わっていく。

そして、1969年に911がロングホイールベースのBシリーズへ進化すると912も同じボディに変更。しかしながら1968年モデルから110hpにデチューンしコストを抑えたフラット6ユニットを搭載した911 Tが発売されたこともあり、912は1969年をもって生産中止となった。この間に生産された912はクーペとタルガを合わせ、合計で3万300台にものぼった。

レア中のレア“ビッグバンパー”ボディの912 Eも誕生

924が登場するまでのピンチヒッターとして、914譲りの1971ccフラット4を搭載して1975年のみ北米市場で販売された912 E。数あるポルシェの中でもレア中のレアモデルと言っていい。

・・・と、912の物語はここで終了するはずだったのだが、912の後継となるボトムラインとして1969年から発売された914が北米市場での販売を終えた1975年、次期モデルの924の登場までの”場つなぎ”として、911のGシリーズ(ビッグバンパー)に914譲りの1971cc空冷フラット4 OHVを搭載した912 Eを投入する。ボッシュ製Lジェトロニックを搭載したタイプ923ユニットは90hpを発揮。ボディはクーペのみの設定とされたが、わずか2080台(2100台という説もある)が生産されたのみに終わっている。

【SPECIFICATIONS】
ポルシェ 912
年式:1965年
エンジン形式:空冷水平対向4気筒OHV
排気量:1582cc
最高出力:90hp
最高速度:180km/h

TEXT/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
COOPERATION/ポルシェ ジャパン(Porsche Japan KK)

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