1973 Porsche 911 Carrera RS 2.7 【ポルシェ図鑑:24】

「ポルシェ 911 カレラ RS 2.7(1973)」 語り継がれるナナサン・カレラの伝説 《ポルシェ図鑑》

ポルシェ 911 カレラ RS 2.7のフロントスタイル
1973年に登場し、一躍世界中のエンスージアストを虜にした名車、ポルシェ 911 カレラ RS 2.7。日本では「ナナサン・カレラ」と呼ばれ、911シリーズ屈指の人気を誇る。
共通車名を60年近くにわたって現在も採用する世界でも稀有な存在のポルシェ 911シリーズ。空冷の水平対向エンジンこそ水冷式になってターボ装着がデフォルトになったものの、リヤアクスル後方にエンジンを搭載するレイアウトは堅持されている。そしてシリーズの長い歴史の中で随一の名車と呼ばれ、現在も高い人気を誇る911の1台が、レースのホモロゲーションモデルを出自とする911 カレラ RS 2.7、通称「ナナサン・カレラ」だ。

1973 Porsche 911 Carrera RS 2.7

スペシャル911の原点

新車当時の911カレラRS 2.7。これも広報写真だが、 RSLのスチール製と違いGFRP製リヤバンパーを持つライトウェイト仕様のRS(M471)である。

“ナナサン・カレラ“ことポルシェ911カレラRS 2.7は、1973年に生産されたFIAグループ4GTのためのホモロゲーション・モデルである。

1963年に発表された911は、1965年のモンテカルロ・ラリーに出場し総合5位、クラス優勝という華々しいデビューを飾って以来、数々のサーキットレースやラリーで好成績を納めていた。以来ポルシェは、1967年に20台限定で製作したレースモデルの911Rなど、ワークス&カスタマー向けのレース仕様を少数ながら送り出してきた。

グループ4GT規定のホモロゲーションモデルとして開発

ボディカラーは定番のグランプリ・ホワイトのほか数色を用意。ホワイトのみサイドのカレラ・ストライプを赤、青、黒、緑の中から選ぶことができた。

しかし1972年からFIAスポーツカー・マニファクチャラー選手権のレギュレーションが3.0リッター以下に変更され、5.0リッターのモンスター・マシン、917での活動休止を余儀なくされると、彼らはGTカテゴリーに活路を見出し、1973年から911をベースとしたグループ4 GTマシンで参戦することを決断する。そこで“1年間に500台を生産”というグループ4GT規定を満たすためのホモロゲーション・モデルとして開発・製造されたのが、911カレラRS2.7である。

大排気量の強力なライバルに対抗するために開発された空冷フラット6「911/83」ユニットは、基本的に911S 2.4と同じものであったが、従来のバイラルシリンダーでは強度的にボアを拡大できないため、917譲りのニカシルメッキシリンダーを採用。排気量は2687ccとなり、最高出力210hp、最大トルク255Nmとスペックも大幅に向上した。

軽量かつハイパワーで想定外の大ヒット

ポルシェ・ミュージアムに展示中の911 カレラ RSR 2.8。近年レストアが完成した個体で、1973年のタルガ・フローリオでレオ・キニューネン/クロード・ハルディ組がドライブし3位入賞を果たしたカラーリングとなっている。

その増えたパワーを受け止める7Jのホイールを装着するために、ボディはリヤフェンダーが拡大されたほか、風洞実験を繰り返してリフトを抑えるためのフロント・チンスポイラーと、ダックテールと呼ばれるリヤスポイラーを装着。加えてリヤシートの撤去、GFRP製のバンパー、リヤフード、薄肉フロントガラス、1973年4月までの生産分に関しては0.8mm厚の鋼板が使用されるなどの徹底的な軽量化が図られた結果、車重を900kg以下に抑えることに成功した。また足まわりも、ビルシュタイン製ガス充填式ダンパー、フロント18mm、リヤ19mm径のスタビライザーを装着。加えて、リヤサスペンションのクロスチューブの中央をフロアトンネルに溶接するなどの改良が施されている。

当初は規定通り500台の限定生産の予定だったものの、1972年2月のパリ・ショーで発表されるや否や世界中から注文が殺到。最終的に予定の3倍以上となる1580台が生産されることとなった。その内訳は、純コンペティション仕様のRSHが17台、RSRが55台。ロードバージョンは、後席などの装備を簡略化したライトウェイト仕様のRS(M471)が200台、トリムや装備を充実させたツーリング仕様のRSL(M472)が1308台となっている。

そしてこの商業的な成功が、現在のGT3へと続く“レースと直結したスペシャル911”という新たなマーケットを開拓するきっかけにもなったのである。

Porsche 911 Carrera RSR 2.8
ナナサン・カレラの戦闘力をさらに高めたレース専用“RSR”

ル・マン24時間で総合4位に入ったガイス・ファン・レネップ/ヘルベルト・ミューラー組のRSR。リヤフェンダーいっぱいまで広げたリヤスポイラーはスパ1000kmから投入された。

一方、レース・バージョンの911カレラRSR 2.8では、ボアを92mmとして排気量を2808ccへと拡大し、308hpを発生する「911/72」型ユニットを搭載。さらにシーズン中にはボアを95mmに拡大し、シリンダーヘッドも新設計とした315hpを発揮する2994ccの「911/74」型ユニットも投入されている。

ホイールはフロント9インチ、リヤ11インチとなり、前後フェンダーもさらに拡張。前後のベンチレーテッド・ディスクブレーキも917から流用するなど、シャシー各部にも手が加えられていた。

911 カレラ RSR 2.8は、ホモロゲが降りるのを待たずにプロトタイプとして1973年2月3日のデイトナ24時間レースに参戦。いきなりブルモス・チームのマシンが、格上のレーシング・プロトタイプを抑えて総合優勝する快挙を成し遂げた。

その後もセブリング12時間、タルガ・フローリオでもプロトを抑えて総合優勝を飾るなどジャイアント・キラーとしての名声を高めていき、GTレース=911という図式を確立していくこととなった。

TEXT&PHOTO/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
COOPERATION/ポルシェ ジャパン(Porsche Japan KK)

【SPECIFICATIONS】
ポルシェ 911 カレラ RS 2.7
年式:1973年
エンジン形式:空冷水平対向6気筒SOHC
排気量:2687cc
最高出力:210hp
最高速度:245km/h

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