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Porsche Taycan Cross Turismo
スポーツEVの新たな境地を見せるクロスツーリスモ

ポルシェ初の量産BEVスポーツカーとして走り始めたタイカンに、新たにクロスツーリスモが設定された。すでに日本上陸も果たし、予約受付も開始しているが、改めてIAAモビリティの場にもその姿が見受けられた。それはポルシェがタイカンを重要視する証であり、かつクロスツーリスモという新ジャンルへの意気込みを感じさせるものだった。
4ドアクーペ(スポーツカー)であるタイカンに対して、SUVテイストを盛り込んだのがタイカン クロスツーリスモである。具体的にはシューティングブレーク形状の後端まで伸びるルーフラインとテールゲートを持ち、さらにオフロードを彷彿とさせるホイールアーチとリム、前後のロワーエプロン、ボディを保護するようなサイドシルなども加わっている。悪路での性能を重視するユーザー向けに、最低地上高を最大30mm高める足まわりや、前後バンパーに装着する前後フラップなどからなる「オフロードデザインパッケージ」も用意される。
走行システムはタイカンと同じ800Vアーキテクチャーを採用し、全車に総容量93.4kWhのパフォーマンスバッテリープラスを搭載する。その上で4WDシステムをはじめ、アダプティブエアサスペンション、新たにグラベルモードを加えたドライブモードセレクターが備わる。
実用十分なバッテリー容量でアウトドアユースにも

グレード構成はタイカンに準じたものだが、後輪駆動のベースグレードだけは存在しない。4WDのタイカン4クロスツーリスモを基準に、さらに出力性能を高めた4S、そしてターボ、ターボSへと続く。IAAモビリティでは、フラッグシップにあたるターボSが展示されていた。
一般的に括ればCUV(クロスオーバー・ユーティリティ・ヴィークル)に属するのだろう。それをポルシェの他モデルに先んじて、BEVたるタイカンに持ってきたところが興味深い。充電インフラが整いつつある都市部でこそBEVは魅力を帯びたモビリティになりつつあるが、しかし、未開の地へ切り込むのならやはり内燃機関に分があるというのが一般的な見解だ。充電施設の問題のほかに、信頼耐久性の問題もある。トヨタのランドクルーザーやハイエースが世界中の僻地で頼られるのも、絶対に壊れないという信頼耐久性があってこそ。故障やガス欠(電欠)が命の危険に直結するような場所では、やはり1世紀以上の歴史を持つ内燃機関が強い。
それでもなお、未来のモビリティのあるべき姿を考えて、タイカン クロスツーリスモを設定したポルシェの大英断には拍手を送りたい。もちろん、これで命の危険を伴う場所へ赴く人などいないだろうが、都会の喧騒を離れてアウトドアを満喫することならできる。その時、800Vのシステム電圧を採用したことで270kWhの充電容量を持つ性能が活きてくる。満充電時の航続距離は、ターボで最大450kmに留まるが、しかし超急速充電を使えるのがいい。既存の400Vでは充電容量200kWhが限界だがタイカンは270kWhまで可能で、充電量5%から80%まで回復するのに要する時間はわずか22分30秒である。
ポルシェは国内での充電インフラも拡充し続ける

モータースポーツシーンでポルシェは、ピットイン(給油時)におけるコンマ1秒の大切さを熟知している。「耐久のポルシェ」と言わしめるのは、マシン自体の速さだけでなく、ピットワークの迅速さや、マシンの信頼耐久性があってこそだ。いかに速くて快適なグランツーリスモでも、充電ごとに足止めを食らっていては見向きもされない。だからこそポルシェはタイカンの充電システム及び充電インフラに力を注ぎ、そのひとつのプレゼンテーションとしてタイカン クロスツーリスモを設定したのだと思える。
ポルシェのBEVオーナー向け「ポルシェターボチャージングステーション」が、ここ日本でも開設されはじめた。国内でもっともパワフルな150kWの出力で充電すれば、タイカン(クロスツーリスモ)のバッテリーを約30分で80%(走行距離300km分)まで充電することができるという。2021年後半から150kWで運用されるというから、タイカン クロスツーリスモの魅力はさらに高まりそうだ。
社会的インフラと歩みを揃えながら、何がなんでもBEVを普及させようとするポルシェの意思には共感する。タイカン クロスツーリスモが疾走する荒野の写真を見たら、1980年代の実験的モデルにして、果敢にラリーにも挑戦したポルシェ959と重なって見えた。
PHOTO/山本佳吾(Keigo YAMAMOTO)