ポルシェの次世代GTレースカーは自然志向!「ミッションR」が示すこれからのレースのカタチ

ポルシェ、最新コンセプトカー「ミッションR」をワールドプレミア!

ポルシェのスタディモデル、ミッションRのフロントビュー
ポルシェのスタディモデル、ミッションRのフロントビュー。
ポルシェは2021年9月7〜12日に開催する「IAA モビリティ」の中で、GTレースカーのスタディモデル「ミッションR」を発表した。最高出力1088psを誇るハイパーEVは、持続可能性に配慮したマテリアルを積極的に使用したエココンシャスなマシン。未来のEV版「911 GT3 カップ」となるか。

Porsche Mission R

CFRPだけでなく“NFRP”も採用

ポルシェのスタディモデル、ミッションRのワールドプレミア
ポルシェは2021年9月6日、開催中のIAAモビリティ内でスタディモデルのミッションRをワールドプレミアした。

“軽さ”が鍵となるスポーツカーやレーシングカーでは、近年CFRP(炭素繊維強化複合材)が積極的に活用されている。軽量ながら強度に優れるとあり、用途はボディパネルやエアロパーツ、プロペラシャフトなど多岐にわたる。

2021年9月6日、ポルシェはドイツで開催中の「IAA(国際自動車ショー)モビリティ」で次世代の電動GTレースカーのスタディモデル「ミッション R(Mission R)」を発表。このクルマには、CFRPはもちろん、もうひとつ“これからの繊維強化プラスチック”として注目されるNFRPが使われている。

生産時のCO2排出量を大幅低減

ポルシェのスタディモデル、ミッションRのサイドビュー
次世代レーサーのコンセプトモデル、ミッションR。車体には天然繊維を用いたNFRP材を積極的に使用している。

NFRPとは「Natural Fiber Reinforced Plastic=天然繊維強化プラスチック」のこと。天然繊維を原料にするため、微生物による分解及び焼却処理が容易になるなど、化学繊維主体のCFRPに比較して環境負荷が小さくエココンシャスな樹脂材として期待が寄せられている。ポルシェによれば、NFRPの生産時のCO2排出量は、従来のカーボンファイバー比で85%マイナスとなるという。

「ミッション R」の車体に使用するNFRPは、亜麻(フラックス)繊維が主体。具体的にはドア、フロント及びリヤウイング、サイドシル、サイドパネル、リヤ中央のセクション、フロントスプリッター、サイドスカート、ディフューザー部分がNFRP製となっている。

自動車部品としての基準を満たす天然繊維コンポジット材を開発するにあたり、ポルシェはドイツ連邦食糧農業省、欧州最大の科学技術応用研究機関であるフラウンホーファー研究機構のWKI(ヴィルヘルム・クラウディッツ木材研究所)、スイスを拠点に天然素材を使ったコンポジット材を研究・開発・製造しているBcomp社と共同で2016年にプロジェクトをスタート。2019年初頭には、量産レースカーとして初めて718ケイマン GT4 クラブスポーツへ天然繊維コンポジット材を使ったボディパネルを採用している。

タルガルーフの概念を応用したロールケージ

ポルシェのスタディモデル、ミッションRのルーフ
ポルシェのスタディモデル、ミッションRはルーフと一体化したCFRP製のロールケージを採用。タルガルーフの応用系ともいえる革新的な構想だ。

もうひとつ、「ミッションR」はユニークな提案をしている。それが新しい「ロールオーバー・プロテクション・コンセプト」。従来、ロールケージといえば鋼鉄製のフレームをボディシェルに溶接して固定するのが通例だったが、「ミッションR」ではCFRPケージを採用。カーボン製のケージはルーフと一体化しており、キャビン空間への侵食が少ないのも特徴だ。

確かな保護性能と軽量性、そして特徴的な見た目をもつこのカーボン製ロールケージを、ポルシェは「exoskeleton(外骨格)」と呼ぶ。透明部分にはポリカーボネートを使い、FIAルールに準拠した脱出用ハッチも設置している。取り外しできるセクションと強固なロールバーを組み合わせたユニークなルーフシステムは、ポルシェ伝統の“タルガ”のまったく新しい再解釈ともいえる。

ラップタイムは911 GT3 カップ同等

ポルシェのスタディモデル、ミッションRの正面イメージ
バッテリーやモーターの過熱による性能低下が懸念されるEV。ポルシェはその解決策として、先進的な油冷システムを考案した。

「ミッションR」のシステム最高出力は、“予選モード”で800kW(1088ps)を発揮。バッテリーセルや電動モーターを直接油冷する革新的な冷却機構を採用することで、過熱による性能低下を防止。通常のレースモードなら、コンスタントに500kW(680ps)のパワーをキープすることができる。また、先進の900Vテクノロジーと最大340kWの充電能力を備えており、わずか15分でバッテリーを残量5%から80%まで充電できる。

「ミッションR」は全輪駆動で、予選モードなら0-100km/h加速は2.5秒以下。最高速度は300km/hを超える。ポルシェによると、サーキットのラップタイプは現行の911 GT3 カップに匹敵するという。

ドライバーの生体データもチェック可能

ポルシェのスタディモデル、ミッションRのコクピットイメージ
ミッションRのコクピットは、高精細ディスプレイを積極的に活用。サイドミラーやリヤビューモニターの映像もモニター上で確認できる。

ボディディメンションは、全長4326mm×全幅1990mm×全高1190mmと、ケイマンをわずかに短く、低くしたサイズ感。コクピットにはステアリングコラム上にモニターを設置し、そこにサイドミラーカメラとリヤビューモニターの映像を投影するようになっている。また、シート右側にはドライバーの生体データなどを呼び出すことのできるタッチディスプレイを装備する。

「ミッションR」はセンターロック式の18インチホイールを履く。カーボン製のエアロブレードを装着するとともに、空力と軽量化に配慮したスポークデザインを採用している。

ピットストップのタイミングを教えるタイヤ

ポルシェのスタディモデル、ミッションRのセンターロック式ホイール
ポルシェのスタディモデル、ミッションRはセンターロック式ホイールを採用する。

さらに、ミシュランが新規に専用開発したスリックタイヤもエココンシャスな仕様となっている。再生可能なバイオ素材を用いるとともに、優れた耐久性も確保。また、タイヤ内にはセンサーを搭載しており、車載コンピューターによりリアルタイムでコンディションをチェックすることができる。このデータに基づいて、ドライバーへ最適なピットストップタイミングを提案する、ということも可能になるらしい。

もちろん、ミシュランの生産工場はカーボンニュートラル化を果たしているし、ライフサイクルを終えたタイヤは新しい製品へとリサイクルされる。ちなみに、ミッションRはタイヤ交換を容易にするエアジャッキシステムを搭載しており、エアーコンプレッサー用のコネクションがCピラーに備わっている。

ワンメイクレースの明日のために

ポルシェのスタディモデル、ミッションRのリヤビュー
次世代EVレーサーのコンセプトモデル、ミッションR。いずれ“ミッション・カップ”なるワンメイクレースが開催される日がくるのかもしれない。

サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リヤがマクファーソンストラット。ブレーキには最大800kWのエネルギーを回収できる油圧電動式を採用。モーターの抵抗を用いて減速するため、ブレーキ部品にかかる負荷も少なく、ディスクの小径化も可能に。ディスク径はフロントが380mm、リヤが355mmで、前者には6ピストン、後者には4ピストンキャリパーを組み合わせている。

31年前にドイツでポルシェ・カレラ・カップがスタートして以来、ヴァイザッハでは4400台を超えるカップカーが作られてきた。高性能で信頼性に富むポルシェ製レースカーを使ったワンメイクカップシリーズは、いまや世界30の地域で開催されている。

今回発表した電動GTレースカーも、いずれ世界中のサーキットでワンメイクレースを競う日がやってくるかもしれない。来る電動化時代を見据えたミッションRは、プロを目指す若手ドライバーや、トップアマチュアのジェントルマンドライバーに向けたポルシェ流の前向きな提案といえる。

著者プロフィール

三代やよい 近影

三代やよい

東京生まれ。青山学院女子短期大学英米文学科卒業後、自動車メーカー広報部勤務。編集プロダクション…