空前絶後、もはや伝説! 「ホンダNR」の世界初“楕円ピストンエンジン”はなぜ誕生した?【今日は何の日?5月25日】

ホンダNR
ホンダNR
一年365日。毎日が何かの記念日である。本日5月25日は、世界初の楕円ピストンエンジンを搭載したロードスポーツ「ホンダNR(New Racing)」が誕生した日だ。ロードレース世界選手権(MotoGP)参戦用に開発されたレースマシン「ホンダNR500」をベースにした高性能ロードバイクである。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)

■MotoGPで鍛えた次世代ロードマシンを市販化したホンダNR

1992(平成4)年5月25日、ホンダは画期的なロードスポーツバイク「ホンダNR」の販売を開始した。MotoGPで実績のあるレースマシン「NR500」ベースの市販車で、世界初の楕円ピストンエンジンを搭載し、CFRP(炭素繊維強化樹脂)やチタン、マグネシウムなどの軽量素材を採用した画期的なバイクだ。

ホンダNR
1992年にデビューした画期的な楕円エンジンを搭載した「ホンダNR」

●MotoGPの2ストロークに対抗し登場した4ストローク楕円ピストン

ホンダは、1978年のMotoGPに参戦するため、ライバルマシンに負けない4ストロークエンジンの開発に着手した。当時のレーシングエンジンは、軽量・コンパクトで低中速トルクの高い2ストロークエンジンが主流だったが、ホンダはそれ以前のレースで実績のある4ストロークエンジンにこだわった。

エンジンの開発にあたり高出力を得るための手段として、吸入空気量を増大させる多弁化と高回転まで回すためのショートストローク化の2つを実現する必要があり、これを実現するために考え出されたのが、1気筒あたり8個の吸排気弁を配置できる楕円ピストンエンジンだったのだ。

●楕円ピストンのメリットは、吸気量の増大とフリクション低減

楕円ピストンは、1気筒あたり計8本(吸気弁×4、排気弁×4)の吸・排気弁と2本の点火プラグを配置し、ピストンは2本のコンロッドで支持する。ちょうど通常の4弁エンジンの2つの気筒を合体したイメージで、通常の真円ピストンのエンジンに対して以下のメリットがある。

ピストンのイメージ
ピストンのイメージ

・吸・排気弁の有効開口面積の増大による吸気量増大と高回転化
・往復慣性重量の軽減(動弁系の小型化など)による高速域のフリクション軽減
・シリンダー周長の減少によるライナーからの熱損失低減
・シリンダー幅の短縮によるエンジンのコンパクト化

一方で、前例のないエンジンなので、楕円形状のピストンリングの耐久信頼性や、2本のコンロッドによる支持バランスの難しさなど多くの課題もあったが、MotoGPに参戦しながら改良を進め、最終的には500cc V4 DOHC楕円ピストンエンジンで最高出力は136ps/20,000rpmまで向上した。

楕円ピストンのエンジンを採用したレーシングバイクは、新しい技術によりレースに勝利するという意味を込めて「ホンダNR500」と名付けられた。1978年からロードレース世界GPに参戦し健闘したが、鈴鹿200キロレースで優勝を果たすものの、約20kgのシリンダーヘッド重量の増大などのハンディのため、MotoGPでは結果を残すことはできなかった。

「ホンダNR」に搭載された楕円エンジン(750cc V4 DOHC)
「ホンダNR」に搭載された楕円エンジン(750cc V4 DOHC)

●レーシングマシンをベースにした市販車ホンダNR誕生

ホンダNR
ホンダNR

1992年のこの日、ホンダはレーシングマシンNR500をベースにした市販車NRを発売した。
排気量750ccのV4 DOHC楕円ピストンエンジンを搭載し、最高出力77ps/1,1500rpm、最大トルク5.4kgm/9000rpmを発生。同一排気量の従来エンジンと比べると、最高出力と最高出力回転は大きく上回り、幅広いパワーバンドと高速域で伸びのある出力特性が最大の特長だった。

「ホンダNR」の車体構造
「ホンダNR」の車体構造

スタイリングは、流麗かつ力強い面構成で、両サイドに空力特性の重要な要素となるフェアリングとボディカウルに、軽量・高剛性のCFRP(炭素繊維強化樹脂)を採用するとともに、ボディカラーには新開発の赤色・高彩度塗装を、またウインドウスクリーンには多層蒸着法によるチタン/シリコン・ハードコートが施された。
車両価格は、国内が520万円、海外向けが約800万円。当時の大卒初任給は18万円程度(現在は約23万円)なので、現在の価値では国内向けが664万円もする、非常に高価なバイクだった。

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楕円ピストンエンジンは、ホンダ伝統の先進性が成し遂げた超ユニークなエンジンだが、前代未聞、これからもおそらく出現しない空前絶後のエンジンであろう。モノづくりに対するこだわりや遊び心、余裕がない現在では、このような挑戦は難しいのではないだろうか。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。

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著者プロフィール

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竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…